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第78話

 しばらく、俺たちは原初の神殿に留まった。


 フェザーマンの輸送能力やそれぞれの荷の重さなどを調べなければならなかったからだ。


 その結果、グリフォンを【増加】したり、強力な荷纏め紐を作ったりとか。


 そして、ビガスから食料を運ぶ、五人のフェザーマンと二十頭のグリフォンが飛び立ち、数日後到着したのを確認して、俺たちは原初の神殿を出発することになった。


 シャーナを残し、俺、レーヴェ、コトラ、ヤガリ、サーラ、ミクン、ブラン、そしてアウルムとグライフだ。


 グライフは既に俺に所有権は移っているけど、俺は頼み込んでアウルムを乗せてもらうことにした。


 フェザーマンは成人した後グリフォンが与えられるので、今のアウルムはそれが大きくなった自分がいじめて所有権を移されたグリフォンだと言うことを知らない。だから、子供なのにグリフォンに乗れるのが嬉しそうだった。グライフも俺の頼みで仕方なく最初は乗せていたけれど、アウルムがグライフに八つ当たりもしないで純粋に喜んで乗っているので少し機嫌を直したらしい。


 ちなみにグリフォンは空の神獣であるけれど、獅子の後脚で地上を歩くこともできる。空陸両用の便利なヤツである。


 グライフが翼を畳んで、ブランと半分ずつの荷を負い、街道を歩く。


 もちろん街道には魔物や魔獣がうろついているけど、正直今のレベルの俺たちには敵じゃない。


「外はこんなに魔物が多かったんだね」


 アウルムがぽつりと口にした。


「奈落断崖は空から行くしかないから、魔獣や魔物は来なかったけど……」


「魔獣や魔物だけじゃないよ」


 ミクンが話しかけた。


「自然もシンゴが直してくれるまではぐっちゃぐちゃだった。床も腐って歩くたびにふにゃふにゃしたんだ」


「大変だったんだ、ミクン」


「そう大変。草原から出たら襲われるし出なくても食べ物ないし」


「そうなんだ……」


 うん、うんと頷くアウルム。


「アウルム、何にも知らないんだ……」


「覚えればいいよ」


 ミクンは笑った。


「アウルムなら、これから先覚えていけるよ。大丈夫。大丈夫だって」


「うん。覚える。だから教えてね、お姉ちゃん」


 神殿で様子見守りの時間中に、神殿の子供たちやミクンと遊んでいるうちに、ミクンが大人と呼ばれる存在に気付いたんだろう。だから「お姉ちゃん」。それでアウルムとの距離が縮むならと、ミクンは世話役を買って出た。サーラに世話になった時を思い出したのかもしれない。


 グライフに一緒に乗って、色々なことを教えている。


 ミクンも草原からほとんど出たことがないハーフリングだけど、俺たちと奈落断崖へ向かう旅の途中、好奇心の赴くままサーラに色々なことを教わっていた。それを更に小さい子に噛み砕いて教えているのだ。


 ハーフリング、実は教師とか、向いてるんじゃないだろうか。


 異世界人である俺が聞いても、この世界の常識が分かりやすく学べる。


 好奇心旺盛ってことはつまり向学心が高いってことで、ミクンはサーラから聞いたそれを自分の中で分かりやすいよう理解して、それを他人に教えられるくらいに伝える能力に長けている。もちろんミクン一人の特性なのかもしれないけど、ハーフリングは見た目ヒューマンの子供なだけで損してるところもあるよな。確かに考え方は幼い気がするけど、ちゃんと信念を持っているし、学んだことを役立てる応用力もある。自分たちの小さな体と筋力が役に立たないと言う自己判断能力もあるし、それでも役立つならいつでも呼んでくれと言う空気読める属性もある。


 もっと尊敬されて然るべきなのにな。


 確かに精神年齢とか発言に幼いものを感じはするけどさ。


「すごいなあ、アウルムもミクンみたいに覚えられるかなあ……」


「努力」


 ミクンは素っ気ない一言で返した。


「お勉強、あんまり好きじゃない……」


「勉強をしたくないっていうのなら、別にしなくてもいいよ。でもね、きっと後悔する時が来る。あの時ちゃんと勉強しておけばって思う時が、絶対来るよ。その時後悔しても、遅いんだよ」


 それまでのフレンドリーじゃなく、言い聞かせる様な発言。


「……うん」


「ミクン、子供にそこまで言うのもどうかと思うが」


 レーヴェが口を挟んできた。


「……レーヴェ」


 グライフの上から、ミクンが視線を走らせる。


「忘れたの? この子が甘やかされると、《《あれ》》になるんだよ?」


「う」


「だから、ちゃーんと言い聞かせなくちゃダメなの。せっかくシンゴが暮れたチャンスを、子供だから、可愛いから、って理由で潰しちゃダメ。ちゃんといいことはいい、悪いことは悪いって教えなきゃ」


「やはりミクンは賢い」


 一番後ろを歩いているサーラの声は、アウルムに向けるものより柔らかい。


「そりゃあ《《元》》をしっかり覚えてるからね。あたしたちハーフリングはそれまでの行動とか言動で判断するんだけど、他の人間は、結構見た目で惑わされるんだよね。ヤガリもこっそり可愛がりたいみたいだけど、甘やかしちゃダメだよ、フェザーマンが散々それやった結果《《あれ》》が生まれたんだからね」


「……分かった」


 そこそこ付き合って分かったことは、ヤガリも可愛いとかキレイには目がないってことだ。一応女性だしドワーフは貴金属の加工も請け負う負って言うしヒューマンと同等かそれ以上の美的感覚はあるよな。


 だからアウルムをめっちゃくちゃ甘やかしたいんだろうが、アウルムの外見に一切影響されない教師が出来て、不要に甘やかそうとすると叱られる。


 ハーフリングは自分たちも可愛いからこそ可愛いが周りに与える影響を知っているのだ。


「アウルムは、まず自分のことは自分でやれるようになること。お父さんお母さんがやってくれたからってそれがいつまでも続くと思ってちゃダメ。それと勉強をすること。周りの人たちが寄ってたかって勉強なんて、って言ってたことがいつまでも続くと思ってちゃダメ」


「…………」


「お返事は?」


「はあい」


 ミクンに聞くところでは、どうやら服の脱ぎ着まで、相当長い間親がやっていたらしく、今のところ一人で着替えが出来ないらしい。……まあこんな可愛いのがいたら面倒見たがるものだろう。


 おっと、俺もアウルムの可愛いに流されそうになっていた。自重自重。注意注意。

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