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第77話

 サーラが転移で戻ってきた。


「ああ、お帰りサーラ」


「ダンガスはビガスに戻したぞ」


「ありがとう」


「それで」


 サーラは幼いアウルムさんを見た。


「そうしたわけか」


「こうした」


「……確かに」


 きょときょとと辺りを見回す幼いアウルムさんを見て、サーラは息を吐いた。


「この年齢からやり直せば、あるいはまともに育つかも知れない。だが、そこまでの面倒を誰が見る?」


「俺が見るよ」


「連れて行くのか? ここに置いていくのではなく?」


「色々な種族の中で世界を見れば、物の見方も変わってくるだろ? 世の中には天才の上を行く化け物がいるってことも分かれば、天狗じゃいられないだろ」


「その通りなんだが……子供だぞ」


「フェザーマンには生まれながらの魔法の力があります」


 ナセルさんが立ちあがって言った。


「アウルムの才はこの年代から際立っていましたために、皆で褒め称え……それ故にあんな風に育ってしまった。気が強いくせに臆病な性格も、恐らく私たちが作り上げてしまったのでしょう」


「才能とは神から与えられた恩恵だが、恩恵に相応しい人間になるのは努力がいる。心の努力が足りなかったのだな」


「返す言葉もありません。……どうか、妹をよろしくお願いします」


「では、今一度私がナセルを送ろう」


 ミクンに向けるのとは違う少し温度の下がった視線にアウルムさんが怯える。


「シンゴに免じて許してやろうよ、一度の失態はな。だが、許されて再び同じ道を辿るようであれば、今度こそ許さない」


 サーラのお許しは出た。なら、大丈夫だろう。


「ここ、奈落断崖じゃないの? 何処?」


「ここはヒューマンの神殿」


 ナセルさんは噛み砕くように話しかける。


「お前はこれから、その力に相応しいフェザーマンになるために、努力しなければならない。この方……ええと、シンゴ様、か。シンゴ様の言うことをしっかり聞いて、心も立派なフェザーマンになるんだぞ」


「よくわかんないけど、修行しなきゃならないんだね。分かった」


 アウルムさんが頷いたのを見て、ナセルさんは安堵したように笑って、アウルムさんの髪をくしゃくしゃと撫でた。


「では、な。アウルム。今度会う時まで、いい子にしているんだぞ」


「はい!」


 なるほど、この頃は素直ないい子だったらしい。


 ナセルさんがいなくなって、アウルムさんはきょろきょろと辺りを見回す。


「えっと、お兄ちゃんが、シンゴ、様、よね」


「うん、そうだよ」


「シンゴ様は、何を教えてくれるの?」


「何も、教えない」


 俺はアウルムさんに言い聞かせた。


「教えるんじゃない。アウルムさ……アウルムは、俺たちから盗まなきゃならない」


「盗む? それって悪いことだよ?」


「盗むって言うのは言い方が悪かったな。みんなのやり方とか考え方とかを見て、それを自分のものにするんだ」


「うん……」


 ちょっと落ち込んだような顔をしたアウルム。


「どうしたの?」


「でも、あのお姉ちゃん、私のこと嫌いみたいだった」


「あのお姉ちゃん?」


「私よりもっときれいな金の髪をしたお姉ちゃん」


 サーラのことな。


「大丈夫。アウルムが努力しているって分かれば、嫌いじゃなくなる」


「本当?」


「本当だよ」


 本当、と何度も繰り返して、幼いアウルムさんはにっこりと笑った。


「本当、本当……」


 そこへ、結局帰ることになったフィエーヤさんとヴェルクさんを送ったレーヴェとヤガリが戻ってきた。


「うお、アウルムか?」


「翼も元通りだし妙に小さくなっているではないか」


 俺が説明すると、二人が納得したように頷いた。


「やり直しか。そんな機会が与えられただけでも神に愛されていると言ってもいい」


「しかし、ここまで戻さないとやり直せなかったのか?」


「エルフと、ドワーフ……?」


「そう。エルフと、ドワーフと、ヒューマンと、ハーフリング。みんな、君の先生だ」


「先生……」


 アウルムは立ち上がると、スカートのすそをちょっとつまんで。


「先生、よろしくお願いします」


 と礼をした。


「おや。随分変わったな」


「そうだな。おれはヤガリだ。よろしく」


「私はレーヴェだ、よろしくな」


 自分の役割じゃないと黙って見ていたミクンが、一歩前に出た。


「あたしはミクン。よろしくね」


「ミクン?」


 ミクン、ミクンと繰り返して、アウルムは心に決めたかのように声をあげた。


「ミクン様!」


「へ? 様って、あたし?」


「あの、お友達になってくださいませんか?!」


「へ? へ?」


 ああ、そうか。


 奈落断崖に残っていたフェザーマンの中に、アウルムと同年代の女性はいなかった。多分、年が上の、神界を目指して行ったフェザーマンたちのような思い上がりの激しい同種にもてはやされて、あんな性格になったんだろう。


「ミクン、友達になってあげてくれるか?」


「いいけど……あたし見た目はこうだけど成人よ? 結構いい年した大人よ? いいのかなお友達になっちゃって」


「構わん」


 戻ってきたサーラに、アウルムが思わず俺の後ろに隠れる。


「ほう。随分としおらしくなったじゃないか」


「あんまりいじめてやるなよ」


「まともな子供ならいじめる必要はないだろう?」


 そりゃあそうなんだけどさあ。


「ミクン、人との付き合い方を教えてやれ」


「いいのかなあ」


「とりあえず、契約は交わしておこう」


 俺はM端末をアウルムさんに向けた。


【神子候補:アウルム・プテリュクス 信仰心レベル1500 属性:空/風】


「何するの?」


「俺たちと一緒に旅に出る契約だよ」


「契約? しないと、一緒にいられないの?」


「ああ」


「分かった。お兄ちゃんと約束するんだね」


「じゃあ、神子との契約を結ぼう」


 神威【神子契約】を、俺とアウルムでかわした。

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