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第75話

 それから話は、細かい内容に入っていった。


 送る穀物の量とか、今必要としている物資とか、何をすれば三カ所の生産地帯を渡れるか。


 俺は黙って聞いていた。口出しはしなかった。


 これは彼らが決めなきゃいけないことだ。俺が生神の権限で中に入ったら、また大騒ぎになるの確実だからな。


 ……決して、話が難しくてついていけないわけじゃないぞ?


 ただ、こういうのはこの苦難の時に民をまとめ上げてある程度の人数を生き残らせた長達に任せるのが一番ってだけで。


 時々噴出する種族間争い……主にエルフとドワーフ……は、サーラが止めてくれた。……てか止めさせてた。


 会話が罵声に変わる直前くらいに、目の前に紅蓮の炎が燃え上がるんだ。止まらないわけないだろ。


 四長……特にナセルさんが非常に協力的で、「それは素晴らしい! 大丈夫です、持って行けます、必要とあらばすぐにでも!」とか「さすがは◯◯の長、考えが深いですね。若輩の私には思いもつきませんでした」とか褒め殺してるので、ダンガスさんだけでなくフィエーヤさんとヴェルクさんもまんざらでもない顔をしてた。


 これで空の一族の見方もだいぶ変わったろう。


 白熱した談義は夜まで続いて、いい加減四長の喉が枯れてきたところで、俺が手をあげた。


「まだ話を詰めなければならない所はありますか?」


「この煤ジジイが黙れば……」


「このお高いじいさんが黙れ……ば……」


 紅蓮の炎が燃え上がる。


「……失礼した、ドワーフ殿」


「こちらこそすまん、エルフ殿」


 ……まあこの二人の仲は一歩前進したと言っていいのかな。


「で、話は……」


「大体は決まりました」


 見た目一番年寄りのダンガスさんが頷いた。


「後は行動しながら試すしかありませんな」


 とにかく、とダンガスさんは言った。


「間もなく畑の刈り取りが始まります。生神様のおかげで刈手も増えております。食糧も皆様方の元へ送れるかと」


「生神が再生してくれた森の中に獣もいる。その毛皮や肉も出せる」


「神聖金属も取れ始めた。対魔獣対魔物用の武器も送れるし、生活雑貨も今大急ぎで作っている」


「それを我々は全力で運びましょう。ビガスにも、大樹海にも、無窮山脈にも、空は平等にあるのですから」


 俺ははーっと息を吐いた。


 よかった。


 ビガス、大樹海、無窮山脈の物資が回れば、世界の半分は助かったも同じ。


 俺も未だ分からぬ他の種族や土地を探して歩くことができる。


「生神様はまた旅に出られるのでしょうか」


 ナセルさんの言葉に、俺は頷いた。


「三つの物資集積地が協力し合えることになったのはめでたいけど、実際の所世界の半分に等しい。俺は残りの半分を再生しなきゃなりません。ただ、今回の物資輸送計画が本格的に動き出すまではここにいます。トラブルが起きる可能性もありますから」


「それはこのお高いエルフ殿が……」


「埃くさいドワーフ殿が……」


 言いかけて炎が現れて慌てて二人はせき込んで言葉を途切れさせる。


「長は民の見本とならなければいけないんです。長同士が喧嘩してたらこの計画は成り立ちません。俺は、全ての人間が平和に住める世界を作りたい」


「……申し訳ない」


「すまん……」


 しょぼくれた二人に、俺は息を吐いてからその背中を叩いた。


「この計画が上手くいくかどうかは四長にかかっているのですから、自重して、全ての種族が等しく豊かになるために頑張ってください。何処か一カ所でも、自分の種族だけ豊かになればそれでいいと思えば、この計画は終わり。敷いてはこの世界も終わりというわけなんです。世界の為にも、つまらない諍いは避けて、再びモーメントを命溢れる世界にするために頑張りましょう」


「生き残ったフェザーマンにはその覚悟があります!」


「ビガスを完璧に復興させるまでは、私も死ねませんね」


「大樹海を再び拝めた礼替わりとあらば」


「無窮山脈の救い主で守護獣の主である生神様には逆らわねえよ」


「では、よろしくお願いします。で、村に帰りますか? 一晩ここで過ごしますか?」


「私は帰るよ」


 ダンガスさんが手をあげた。


「年寄りだしね、しかも生神様の召喚で原初に神殿に来ていることはあの時の生き残りだけだ。他の新しい民人を心配させるわけにはいかん」


「私も失礼させていただきます」


 ナセルさんも立ち上がった。


「待っている仲間たちにグリフォン編隊の話をしなければ。皆、私が帰るのを待っています」


「ではシンゴ、私はダンガス殿を送り届けてくるよ」


 サーラが立ち上がった。


「守護獣様は我々の元へ戻るのが嫌なのですか……」


「いいや違う」


 自分たちの守護獣であるサーラがヒューマンを連れて行くと知って落ち込んだヴェルクさんに、サーラは軽く手を振った。


「一人、大問題児がいるのでね。その処遇を決めないとナセル、お前は帰れないだろう?」


「! ……そうですね。忘れていました……未来を語るのに夢中になって、愚かな者のことを忘れていた」


「愚か者?」


「フェザーマンに愚者などいるのか?」


「ええ、いるんです。この会合と計画に相反する、とっておきの愚か者が」


「そういや彼女見なかったな。どこ行ったんだ?」


 俺が立ち上がると同時に、部屋のドアが開いた。


 ハーフリング代表として加わってもよかったはずなのに「全部のハーフリングに命令を下せないから」とシャーナと一緒に子供たちの面倒を見ていたはずのミクンだ。


「子供たちは?」


「何刻だと思ってんの。とっくに眠ったよ」


 うあーあーと背を伸ばし、ミクンは首を竦める。


「ちょうどあのバカの話してたみたいだから言うけど。あの娘、本当に根っこの根っこから教育しなおさないと、どうにもならないよ。もうダメダメ。賢兄愚妹っての?」


「ハーフリングが難しい言葉を知っているな」


 ヴェルクは呟いて、危うく燃やされかけた。サーラはハーフリングに甘いな。


「そんなに?」


 頷いたミクンの言葉を頭の中で繰り返す。


 根っこの根っこ。


 もしかしたら……行けるかも。

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