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第74話

「種族間の協力、ですか」


 ダンガスさんが頷いた。


「望むところです。我々にできる事なら、何でも」


 ナセルさんも頷く。


「森エルフの林業、無窮山脈の鉱業、ビガスの農業。これは人間がこの先生きていくのに必要な財産で、財産は回さないと意味がないのです」


「どうやって。街道は魔獣の群れで、レーヴェのような騎士や神子でないと危険で移動もできない。一部の商人が使っているような裏道を通れば盗賊共に襲われる」


「フェザーマンに頼みます」


 俺の言葉にナセルさんが大きく頷く。


「今のところ、空を征く魔獣はいない。そして我らには神獣グリフォンがいます。木材、穀物、金属、如何なるものでも運びます。安全な空を通って」


「なるほど……」


「レーヴェ。森エルフだけで食糧を補給することは可能かい? 鉄や金属なしにやっていける自信は?」


「ないな。森に集中すれば畑が出来ないし、畑に集中すれば木が切れない」


「ヤガリ、鉱山には木や穀物がないと困るだろう?」


「ああ。炎水が蘇った今、燃料としての木は必要ではないが、坑道の補強など、色々必要だし、おれたちドワーフもアシヌスのように土が食えればいいがそう言うわけにもいかん。食糧も絶対必要だ」


「レーヴェ」


「ヤガリ!」


 フィエーヤさんとヴェルクさんがそれぞれレーヴェとヤガリに怒る。


「でも、本心でしょう?」


 ぐ、と二人の長が息を飲んだ。


「こんなことで意地の張り合いしてても仕方ありませんよ」


「生神様が……いらしてくれれば、そんなことをする必要はないではないか!」


 フィエーヤさんが吠えた。


「ヒューマンだけでなく、空の民フェザーマンまで乗り気のようだが、生神様がいらしてくれればこの不愉快な顔を見ずに済むのではないか?!」


「言ってくれるな木こりが!」


「何だとアリもどき!」


 頭を抱えたくなった。


 民の主だけあって、自分の種族が大事なのはわかるけど、こんな所にケンカ持ち出すなよ……。


「まず一つ」


 溜め息ついて、俺は指を一本あげた。


「俺は永遠にいられるわけじゃありません」


「生神が、この世界を見捨てると言うのか?!」


「貴様のような気取った男がいれば見捨てたくもなる!」


「ストーップ!」


 俺は両手で机を叩きつけて、二人を黙らせ、聞いた。


「今、何と言いました? 俺は、何者ですか?」


「何とは……生神であろう」


「そう、《《生》》神です。《《生きている》》、神。そうであるからには逃れられない運命がある」


「何?」


「つまり、俺も、いつか、《《死ぬ》》、ということです」


「なっ……!」


「生神! それは真実なのか?」


「真実だ」


 サーラは感情のない声で言った。


「シンゴは生神。この世界で生きて神威を揮う神。生きているからには、死んでこの地上から去らねばならない時が来る。それが数千年後か、百年後か、明日かは分からないが」


 守護獣の言葉に、フィエーヤさんもヴェルクさんも言葉を失った。


「俺は元々人間だ。モーメントではない世界で生きて死んだ人間が選ばれたんだ。良かれと思って決められたのだと思うし、俺もモーメントが再建して平和になるのを見届けたい。だけどな。俺の力だけじゃダメなんだよ。俺がこの世界を去った後も、きちんと世界が回っていなければいけない。そして、こういうことは、人数が増えてから決めても意味がない。人が少なく、互いに知り合える今のうちに、平等に対立のない基本を作っておかないといけないんだ」


 フィエーヤさんとヴェルクさんは黙り込んでしまった。


「フェザーマンは喜んで協力します」


 ナセルさんが立ちあがった。


「元々我々は荒地で海藻を食べることでしか生きられぬ種族。空の民と呼ばれてもその生活は大変な苦労の連続です。それに比べれば荷運びなどお安い御用。我らが翼は生神様と共にありますよ」


「最も神に愛されたと言われる種族が……」


「愛されるに相応しくない者もいる。思い上がって旅立ち、帰ってこなかった者もいる。それは全ての種族に当てはまりませんか。もっともエルフらしい、ドワーフらしい、ヒューマンらしいと言われる人間ばかりで種族が成り立っているわけではないでしょう」


「それは……」


「質問なのですが、生神様」


 考え込んでしまったフィエーヤさんとヴェルクさんを見て、今が好機と思ったのか、ダンガスさんが手をあげた。


「はい、なんでしょう」


「ハーフリングは? 草原の民は協力しないのですか?」


「ふん、あんな小銭拾いの子の群れなど……」


「それは偏見ですよ、ヴェルクさん」


 くぎを刺しておかないと、長くなりそうだと話そうとしたら、代わりにサーラが話した。


「草原に住んでいたハーフリングからは、自分たちが役に立ちそうなら協力するし、邪魔になりそうであれば近寄らない、との言伝を得ている。草原の十数名の民だけで何もできないだろうが、個人的に頼まれるのであればいくらでも、と」


「守護獣様! 何故草原の民の擁護などを!」


「ハーフリングは世界のことをよくわかっている」


 サーラは淡々と告げた。


「草原に住んでいた生粋のハーフリングを一緒にしてはいけないし、かつて仕事もなく裏家業に手を出さざるを得なかったハーフリングもただ責めてはならない。小さい身体で得られる仕事が少なく、生きていくには仕方ないことだった。そして、滅びの日に真っ先に倒れて行ったのは、彼らだ」


「守護獣様……」


「ハーフリングは役に立つことであれば協力すると言った。つまり、白紙委任状を私に預けたんだ。何か彼らで役立つことがあれば頼めばいい。ハーフリングは喜んで役立ってくれるだろう」


 ヴェルクさんはしばらくぶちぶち言っていたが、なんせ自分たちの守護獣に白紙委任状を預けた一族だ、これ以上責めてもサーラを怒らせるだけだと判断したらしく、黙って椅子に座り直した。


 しかし、白紙委任状とは。いつ何時持ってきたのかな?


(ミクンに言われ、私が行ってきたのだ)


(いつの間に)


(人間同士が協力するのにハーフリングが協力しない理由がない、でも面と向かって役立つとは言えないから、役立ちそうなときはいつでも……と言う言葉を、草原の民より預かった)


 ほっとした。


 ハーフリングは長がいない種族なので、一人が協力を約束してももう一人は約束しない場合もあるって言ってた。そしてハーフリング自身がこのような事態に何ができるか分からなくてもどかしい思いをしていたんだ。


 他の種族の長も、守護獣が委任状を預かった種族を、仇やおろそかにはできないだろう。


「異論はありませんか?」


 俺は周りを見回した。


「では、話を次に進めましょう」

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