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第66話

(神託って……サーラ?)


 チラリと見た彼女の横顔は、少し愉快に笑っていた。


(ああ。私が下した)


(なんでまた)


(不安になったからな)


 自在雲に横座りしてサーラは涼しげな瞳を前に向けながら、しかし意識はしっかりとこっちを向いていた。


(フェザーマンがあの娘のような者ばかりであれば、最早救うべき価値もないと思っていた。だから)


(……でも、俺ができるだけ生神ってことをバラしたくないって分かってたろ?)


(分かっていた。だが、それ以上に、フェザーマンと言う人間が腐っているかどうかを確かめなければならないと思った。シンゴとて、あの娘の言い草に相当腹を立てていたろう?)


(……ああ)


(故に、この神託をどう受け止めるかで、フェザーマンを試みるつもりだった。そして今も試みている。神託に喜び勇んでやってくるか、あの愚かな娘を結び付けて慌ててやってくるか。今のところは合格だが……さてどうなるか)


(あの娘は……どうするんだろう)


(ここから奈落断崖までは結構ある。フェザーマンの翼でも疲れるくらいの距離だ。それを飛んできて心から謝れば、多少は許してやろうと言う気もないではないが)


 サーラは軽く首を竦めた。


(あの様子では無理そうだな)


「生神様、申し訳ありません」


 ナセルさんが自在雲の脇にぴったりグリフォンを飛ばしながら言った。


「愚妹のことでさぞかし腹をお立てになったでしょう。申し訳ございません」


「あの……妹さんのことですが」


 ナセルさんはちょっと顔をしかめた。


「アウルムが、何かご無礼を」


「いえ……何故、追放……されたんですか?」


「生神様はアウルムとお話になりましたね」


「ええ」


「あの通りの愚妹です。自分は神を信じている、だから神は自分の為に力を下さる、だから自分は偉いのだ、と言うのがあれの言い分です。私がフェザーマンの長になってからそれが更に酷くなりました。長の妹の言うことを聞けと……。あれだけ懐いていないグライフを連れて行くことに拘ったのも、グリフォンが古の昔、フェザーマンに下された……神獣だからこそ。それなのに自分に従わない神獣はいらないと、主としてふさわしくない行いをしている上に忠誠だけは要求するのですからね……。グライフがあれを振り落とし攻撃を仕掛けたとしても私は何も驚きません。それだけのことをしていたのですから」


「…………」


「しかし、それでもやはり妹です」


 ナセルさんは溜め息をついた。


「特にフェザーマンは翼を封じられればどうにも移動できなくなるし、奴隷商人にも狙われる身です。世界が滅亡に傾いて奴隷商人がほとんどいなくなった今でも、そう言う連中は我々の天敵です。故に、神託がなければ愚妹の言葉を信じてしまうところでした……。生神様は人間の中に入り人間を見ると言います。見た目は人間とは変わらないとも」


「仕方がないですよ、異種族がぞろぞろパーティー組んでいたら、変な誤解されるのも」


 でも、と俺は言葉を続けた。


「異種族間の差別をなくす、それも俺の目的です」


 ナセルさんは俺の目を見た。


 淡い紫の瞳は俺を真剣に見ていた。


「フェザーマンの皆さんには、神に選ばれた種族と言う自負があると思います。ですが、それではいけない。平地の民も、森の民も、大地の民も、草原の民も、空の民も、皆が平等に生きていける世界を作りたい。足りないところを補い合って共に生きる世界を作りたいと思っています」


「……生神様」


 ナセルさんはどちらかと言うと無表情で、でも瞳は真剣に、聞いてきた。


「本当に、そんな世界が、できるのでしょうか」


「その為に俺が選ばれた、そう思っています」


「フェザーマンが、対等に扱われる世界……」


「はい」


「できれば、嬉しいです」


 ナセルさんは笑顔を浮かべた。


「我々は他人種とはあまり交流しない民です。断崖の民とも呼ばれています。この通り、足が弱く、地に足をつけている人種と話すことすら難しい。神秘の一族と呼ばれているようですが、実際は他人種と力を合わせることすらできない一族です。我々が皆さん、他人種のお役に立つ……それが出来れば、我々は、とても嬉しいです」


「そうですか」


「そうです」


 ナセルさんは、本当に嬉しそうに笑った。


 周りで聞いている人たちは?


 チラリと視線を走らせる。


「大丈夫だよ、シンゴ」


 ミクンが小声で言ってきた。


「フェザーマン、全員、喜んでる。シンゴの言ったことに喜んでる」


「そっか」


 ほっとした。フェザーマンがあのアウルム……だっけ、あの妹さんみたいな考え方をする人ばかりじゃなくて。


 もちろん、他にアウルムさんのような考えの持ち主がいないってわけではないだろう。その方が自然だ。だけど、平等に扱われることに喜べる人たちが、少なくともここに五人、いるのだから。


 ふと雲から地面を見下ろす。


 眼下に見える遠い地面は、何故か急激な上り坂に見えた。


「フェザーマンと交流しようと言う商人などは、大抵ここで諦めます」


 ナセルさんがそう説明してくれた。


「奈落断崖の頂上に向かう「試練の坂」、足で歩く一族でも辛い急激な上り坂です」


 そう言えば奈落断崖は千メートルってヘルプに書いてあったな。元々の地面が海から高い位置にあったとしても、標高差は結構あるからなあ。しかも辿り着いたらその先真下に降りなきゃいけないし……ううぅ、特に高所恐怖症じゃないのに怖くなってきた。


 と、下にあった地面が唐突になくなった。


「ここが奈落断崖です」


 ゆっくりとグリフォンを降下させながら、ナセルさんは言った。

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