第63話
どうやら飛ぶだけの体力はまだ戻っていないようなので、ブランに乗っけてぽっくりぽっくり歩く。
フェザーマンの少女はブランの綱にギッチリ捕まり。揺れながらこちらの様子を油断なく見守っている。
(本気で捕まるつもりか?)
(放っておくわけにはいかないだろ。結局のところ奈落断崖を目指すんだし)
(奈落断崖……フェザーマンの棲み処がどのような所か、調べて見たまえ)
また訓練かあ。
頭の中でM端末を動かし、ヘルプで奈落断崖を調べてみる。
【奈落断崖:フェザーマンが棲み処とする大陸北東にある断崖絶壁。地球の数値で千メートル近い高低差がある絶壁に空いた穴を棲み処とする。空を移動する手段がなければその棲み処に辿り着き、出入りすることはできない】
(いざとなったら自在雲を使うさ。……サーラ、フェザーマンには随分厳しいね)
ハーフリングのミクンにはあれだけ優しかったのに。
(私は人を信仰心では図らない)
また気温が下がった……。
(守護獣だから神への信仰心が第一だと思っていたけど)
(無論それは必要だ。だが、人間の価値は信仰心にあるわけではない)
ピリピリと電気に近い感覚がする。
(どれだけ日々を真面目に懸命に生きているか。そして、どれだけ神に頼らず生きていることかだ)
(神に頼らず?)
(神は常に見ている、だから信仰心篤い自分は助けてもらえると彼女は考えている)
それは分かる。日本人は無神教。と言うかこの世にある全ての存在に八百万の神が宿るから神は当たり前にいて見ているからこそ,「お天道様が見ている」、悪いことをしてはいけないと言う考えがあるのだとおじさんは言っていた。
(シンゴの叔父の考え方は非常に正しい。神はいる。だから己を律しなければならない。それが本当の信仰心だ。神はいる。神を信じている。だから神は自分の願いをかなえてくれるという考えは、神の僕として、到底認められるものではない)
つまり、サーラがフェザーマンの少女を認めないのは、神がいるから自分たちを優先にしてもらえるという考えが気に入らないからだってことだ。
……そういやまだ名乗ってももらってない。
(そう言うところも気にくわないのさ)
サーラの不満そうな思念。
(助けてもらっておいて名乗らず礼も言わず送って行けと言いその挙句こちらを罠にはめようとしている。そう言うところだ)
(じゃあ、自在雲なんか出したら)
(掌を返すだろうな。……願わくば、全てのフェザーマンが同じような考えの持ち主ではないように)
ぽっくりぽっくり。目の前に生神と守護獣がいるのにも気付かず少女はブランに揺られてこちらに警戒の視線を送ったまま。何一つ話そうとしない。
こっちが神だと気付いてくれとは言わないけれど、せめて助けてケガを治した礼くらいはした方がいいんじゃないかと思う。他の人間相手でもこんな何だろうか。信仰心篤いフェザーマンって、他の人間相手にはみんなこんな感じなんだろうか。だとすれば他の人間から相当嫌われてるんじゃないだろうか。でもレーヴェからそんな話を聞いたこともないし……。やっぱり彼女一人の特性なんだろうか。
てくてく歩く俺たち、つい空に目が行く。彼女がどうして空から落ちて来たのか分からない以上、空に警戒が行くのは仕方ない。せめて彼女が落ちてきた理由さえわかればなあ……。
「こっちでいいの?」
フェザーマンに聞くと、彼女はそっぽを向いたまま頷いた。
う~ん、感じ悪い。
サーラはもう話す気もないらしい。こっちもそっぽ向いたまま歩いている。
ブランも何度かいつもの鳴き声じゃなくて溜め息のような鼻息を漏らしながら歩いている。時々身をよじらせるのは、彼女を乗せているのが嫌なんだろうか。一応神獣にカテゴライズされるから、神への信仰心を持つと言いながら自分にも敬意を払わずに図々しく乗っかっているのが許せないらしい。
とりあえず他のフェザーマンに会って、彼女を託すだけでもできればなあ。捕まっても問題はないけど気分的に嫌なものがある。このまま歩いて行けば彼女に奴隷商人扱いされて閉じ込められると思うと……やっぱ気が重いなあ。はあ。
ブランの頭をぽふぽふと叩いてやると、ブランはぶふんと鼻息をついた。「分かってる」と言いたげに。
「いい子だな、ブラン」
俺の腕に鼻を押し付けてから、ブランは前を向いた。
「獣を手懐けるなんて」
小さな声が聞こえたので、俺は彼女の方を向いた。
「手懐けたら何か悪い?」
「純粋な獣を悪行に利用するなんて」
「…………」
俺はブランの首筋を叩いてやって、それ以上喋ることはないと歩き出した。
本当にここから放り出してやろうかなとも思った。だけど、それは俺がやっちゃいけないことだと自分を律した。
おじさんもいつも言ってたしな。見返りを求めて人を助けるなって。
その時、空が陰った。
警戒して空を仰ぐ。
大きな翼を持った……フェザーマン? いや違う、もっと大きい!
腰に下げている剣はオレが【再生】した普通の剣だ。この程度いくらでも【再生】【創造】できるけど、剣はぶん投げて攻撃するものじゃない。
「みんな、上!」
俺は叫んで警戒を促した。
全員がばっと空を見上げる。
一気に降下してくる翼持つ何か。
スキル【遠視】でじっと見上げる。
血のついた鉤爪!
咄嗟に全員散った。
落下スピードと体重を合わせた一撃を辛うじて避ける。
鷲の頭と肉食獣の胴体、そして馬鹿デカい翼を持った獣……確か昔、ゲーム好きの友達に聞いた覚えがある……グリフォン!
着地してもう一度俺に攻撃を仕掛けてくる。
「おかしいな」
サーラが呟いた。
「グリフォンはフェザーマンにとってはアシヌスのように忠実な獣なのに」
「あっちも俺たちを奴隷商人と思ってんのかな」
「可能性はある」
「じゃあ、取り合えず彼女を置いて下がるか」
「ちょっ……何をする気?!」
「あのグリフォンはお迎えなんだろ?」
「そ、それは、そのっ」
彼女は露骨に慌て始めた。
「あ、あの子は……あの子は……」
「?」
「あの子がわたくしを襲ったのですわっ!」
「はあ?」




