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第61話

「ん……」


 フェザーマンの少女は苦し気に息を吐いた。まだ意識を取り戻していない。


「サーラ、彼女、病気とかは?」


「持っていない。フェザーマンとして全く健康体だ。……栄養失調を除けば」


 大きな翼と、対照的に小さな足。中国の、纏足とか言ったっけ、ああいう病的なのじゃないけど、それでもとても自分の体重を乗せて歩けるとは思えない。


 そして、異様な軽さ。


 ……空飛ぶ生物は全般的に軽いものだけど、それでも翼の大きさを考えると有り得ない程軽かった。


 栄養失調のせいだろうか。


 サーラに言われて横向きで寝させているけど、苦しそうだ。


「お腹空いてんのかな」


 ミクンは呟いた。


「栄養失調でもあると言うし、可能性はあるな」


「じゃあこれ使おう」


 ミクンが何処からともなく取り出したのは……。


「おまっ、それっ、万年草!」


 そう、アムリアで、飢えた人間たちのために創り出した、栄養たっぷり植毛繊維豊富な万年草だった。


「しーっ」


 サーラに言われて慌てて声を潜めてミクンを問い詰める。


「何処から持ってきたんだ」


「アムリアを発つ時、生えてたのを」


「俺がいくつでも創り出せるって知ってるだろう」


「シンゴいない時に困った人がいたら分けたげようと思って」


「さすがはハーフリング、手癖が悪い」


 ヤガリが悪口に近いことを感心した調子で言った。


「懐に注意しておけとはよく言ったもんだ」


「いりそうなものは確保してるだけだよ。あっ大丈夫、シンゴの考え方は仲間になってから良ーくわかったから」


 二っとミクンは口角を持ち上げる。


「隠したいものを隠しておくには、あたしみたいな手癖が悪いってのが勝手に持ってたってことにするのが一番なんだよ」


 ……確かにM端末を取り出して無から創り上げているところを見られたら身バレ確実なんで、ミクンがそうやってくれることはありがたい。だけど。


「ハーフリングの評判は確実に落ちるよ?」


「何をいまさら。あたしそんなの怖くないもん」


 鼻歌を歌いながらミクンは背を向ける。


「怖いのはたった一つ。自分のやりたいことができなくなることだけ。それに、これは生えていた草を勝手に持ってきただけだもん」


「そうなんだけどねえ」


「……ぅ……」


 小さな呻きの主がフェザーマンだと気付いて、全員一斉にそちらを見た。


「……起きた?」


 開いたフェザーマンの瞳は髪と同じ淡い金色。


 しばらくはもやがかかったみたいに瞬いてたけど、唐突にカッと見開かれた。


「ぶ、ぶ、ぶ」


「ぶぶぶ?」


「無礼者ーっ!!」 


 開口一番、出たのがその言葉だった。



 無礼者を叫んだ後は口を利かず、ふらふらと歩いて木の陰に隠れて、ブルブルブルブル震えながらこっちを見ている。


 う~む、困った。


 話も聞いてくれない。


「こっちの素性明かしたほうがよくない?」


「よくない」


 俺は首を横に振る。


「俺は歓待されたくてここに来たわけじゃないから」


「そっか」


 ミクンは納得したように頷き。


「怪しい一団だからなあ」


 少女に聞こえるように言った。


「ヒューマンが二人にエルフとドワーフとハーフリング、おまけに変なロバと灰色虎の幼獣だっている。信じろって方が無理だなあ」


「信じてくれとは言いにくい」


 乗ったのはサーラ。


「気高いフェザーマンがこの集団を信用するはずがない。一人でも空を征ける者がいればともかく、全員が両足で地面を踏みしめる地の一族。我々とは相容れない」


「助けようにも助けてくれと言われなければ助けようもないし」


 レーヴェも乗ってきた。


「構わん、空から落ちたのを受け止めてケガの治療までしたんだから、これ以上何かする必要もない」


 ヤガリも。


 とするとトドメは……俺かあ。


「じゃあ、奈落断崖まで送ってあげようと思ったけど、嫌だって言うなら、自分を空から落とした何かに怯えながら空を通って帰ってもらうしかないね」


 チラリと視線を送ると、少女の顔がえ、え、え、と赤くなったり青くなったり白くなったり。


「じゃあ、ここに置いて、奈落断崖を目指すぞー」


「おー」


「ぅなっ」


「ふしゅう」


 最後にコトラとブランもついてきて、俺たちは歩き出した。


「ちょちょ、ちょっと待ちなさい」


 少女が声をあげた。


「助けておいて置き去りだなんて、あんまりじゃないの!」


「だってさー」


 俺は背を向けたままのんびりと答えた。


「話を聞いてもダメ、食べ物を差し出してもダメ、なら、何にもすることないじゃないか」


「お、送っていくって言ったじゃないの! この、神の使いたるフェザーマンの私を送って行けるっていう名誉を得ておいて、見捨てる気?!」


「じゃあ君には助けられる気はあるの?」


 え、と少女は呆ける。


「空から落ちてきたのを助けて傷の手当までしたのに、何処から来たのかもなんで落ちてきたのかも言わず、食事もとらず水も飲まず。これじゃ助けられる気がないって判断するしかないじゃないか」


「だ、だって、そのハーフリングが言った通り、貴方達怪しいもの! 異種間で仲がよろしいようですし、無理やり食を取らせようとしてくるし草を食べさせようとするし! この高貴なるフェザーマンを捕えようとしていると感じてもおかしくないじゃない!」


「おかしくないのか?」


「おかしくはないな」


 ヤガリの言葉にサーラは頷く。


「フェザーマンは美しい種族でもある。だから、世の中には愛好家というものがいてだな」


「ああなるほど、観賞用に捕まえようとする奴隷商人がいてもおかしくないと」


 レーヴェもうんうんと頷く。


 そう言えばレーヴェたちエルフ族も美しく、それゆえに捕らえられて売られる子供もいるとか。世界が滅亡しかけている現状、人を売り買いする余裕すらないと思ってたんだけどなあ。


「あ、それとも」


 少女の声がまた怯えるものになった。


「わたくしを人質にとって、フェザーマンを一気に確保するとか? そ、そんなのだったら、わたくし……」


「この荷物でどうやってフェザーマンを大量確保できるんだよ」


 俺は振り返って、ブランをバンバンと叩いた。


「ふしゅう」


「荷物は俺たちの手持ちと、こいつに乗っているだけ! フェザーマンが何人いるか知らないけど、どうやって捕まえて連れて行くんだよ。縄で縛って連れて行っても、俺たちごと持ち上げられて終わりだろ」


「う……」


「とりあえず自己紹介だけはしとく。俺はシンゴ。もう一人のヒューマンはサーラで、エルフがレーヴェ、ドワーフはヤガリ、ハーフリングがミクン。灰色虎がコトラでロバがブラン。以上。何か質問は?」


「貴方達、何の為にこんな所へ……」


「西の方が復興してきているから、それを知らせるために」


「それだけ?」


「それだけ」


「たったそれだけ?」


「たったってことはないだろ。大樹海と無窮山脈とビガス復興したんだ」


「……え」


 「え」て。

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