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第60話

 奈落断崖への道は、遠く、険しかった。


 何せ住んでる人がフェザーマンだから、らしい。


 翼持つフェザーマンは大体飛んで移動する。奈落断崖に歩いていくのはフェザーマンと取引をする他種族。よって街道はほぼ整地されていない。俺たちは徒歩だからいいけど、ブランでさえ歩きにくそうなこの道、馬車とかだったら車が早々に壊れていた。


 そんな道を軽快に歩くのがミクン。


 とん、とん、たた、と軽い足音を立てて歩く。


「フェザーマンは神秘の一族?」


「そうだ。人間の中で唯一空を飛べる」


 サーラが丁寧に教えてやっている。


「いいなあ、あたしも飛んでみたい」


「その代わり足が弱い。ほとんど歩けないと言っていい」


「そっかあ。あたしと逆だねえ」


「ハーフリングは身が軽い」


 戦斧を杖代わりにヤガリが溜め息をつく。


「うらやましい」


「ドワーフだって鉱山の中を歩くっていうじゃん」


「おれたちは地面を踏みしめて歩くんだ。お前らみたいに跳ねない」


「跳ねないの?」


「跳ねない。おれたちの体重で跳ねたら坑道が崩れるかも知れん」


「へえ。坑道ってどんな感じ?」


「山の中を掘りぬいた道だからな、暗く、寒く、冷たいが、そこにお宝が眠っていて、それを手に入れるためにおれたちは山を掘る」


「行ってみたいなあ」


 ミクンは空に向かって両手を広げた。


「あたしの世界はこれまであの草原だけだった。だから知りたいんだ。アムリタだけでなくて、大樹海や無窮山脈、奈落断崖。いろんな場所を見たいし知りたい」


 純粋な、好奇心。


 ああ、ハーフリングにとって、自由とは、好奇心を満たす手段なんだなあ、


 行きたいところに行って、見たいものを見て、食べたいものを食べる。ハーフリングが望むのは、ただ、それだけ。


 だけど、それを縛ってしまう義理堅さ。


 必ず恩は返す。相手が何とも思っていなくても絶対に返す。


 それは窮屈ではないだろうか。


 聞いたら、ミクンは言った。


「義理に縛られるのも自由なんだよ」


「それも?」


「そう。他種族の街で盗賊や暗殺者やってるハーフリングの中は、好きなことをしたいから義理は返さないって言うのも自由。だから、あたしたちにとっては自分から義理に縛られるのも自由なんだよ」


「はあ」


「ハーフリングは適当でお気楽とよく言うが」


 この中ではサーラの次に年長のレーヴェが口を挟んだ。


「そこにはハーフリングなりの哲学があるのだな」


「テツガク?」


「う~ん……生き方を追求すること、かな」


「そんなむつかしい話じゃないよー」


 あははとミクンは笑って手を振る。


「やりたいことをやる。それがハーフリングにとって唯一の……そうだな、正義? みたいな」


「分かりやすいが、逆に難しい生き方でもあるな」


「難しくないよー。コトラとおんなじようなもんだって。コトラだって好きでみんなについてきてるんでしょ?」


「ぅなっ」


 ミクンの隣をひょいひょいと歩いていたコトラが返事する。


 なるほどねえ。


 ブランたちアシヌスはドワーフに従うように俺が創った生き物だから、そんなことを考えもしないんだろうけど、コトラは誇り高き灰色虎。俺たちについてこなくても【再生】した大樹海や無窮山脈でも十分生きて行けるだろう。だけど助けたことを恩義に感じて俺の神子になって今もついてきている。


「ハーフリングは野に生きる生物なんだな」


「そ。だから誰より何より自由なの」


 手を広げて、てててて、と走っていたミクンが、急に空を見上げた。


「どうした?」


「なんか、影が……あれ?」


 一瞬戸惑いの声、そして。


「あれ!」


 立ち止まり、空を指して、叫んだ。


 高空から落ちてくる何か。


 何か……あれは……人だ!


 俺は亜空間から自在雲を取り出した。


 飛び乗る。


 一気に急上昇して、人と同じ高さに至り、落ちるスピードに合わせて、雲に乗せ、スピードを落とす。


 地面すれすれで、完全に落ちるスピードを殺せた。


 着地成功。


「すごい! 何これ雲? 雲?」


「後で見せてあげるから、とりあえず今は……」


 自在雲で助けた人を見る。


 むき出しの腕には幾つもの傷跡。金の長い髪に、可憐と言う形容が良く似合う美少女。その背中には、同じ淡い金色をした……体と同じくらいの大きさがある翼。


「フェザーマン……?」


 俺の呟きに、サーラは頷いた。



回復ヒール


 俺の魔法で、あちこちを切っていた傷は治る。


 ヤガリが丁寧についた血を拭ってやった。


 なるほど神秘の一族と言われるだけのことがある。細い手足に不釣り合いなほどの大きな翼。


「サーラ。彼女の容体は」


「大丈夫、気を失っているだけだ」


 守護獣である彼女の言葉に、俺はほっと息をついて、だけど疑問がすぐに出てくる。


「……飛んでいる最中に気を失う?」


「そうだよね、あたしもそれ思ってた」


 ミクンもこくこくと頷く。


「飛ぶって、落ちたら死んじゃうってことだよね。そんな時に気絶ってするかなあ」


「襲われたとか」


 ヤガリの言葉に、一斉に全員が首を傾げる。


「空飛ぶ魔獣?」


「聞いたことがないな」


「聞いたことがなくてもいるかも知れない」


 俺は唸った。


「滅亡の神がいると言うなら、そいつが空飛ぶ魔獣を創っても全然おかしくない」


「そうだね……」


 全員が空を見上げた。


 彼女が落下したところをミクンに聞いたところ、相当な高空だった。そんな高空から襲われたら、自在雲でも使わないと戦えない。


 ヤガリが提案した。


「とりあえず、あちらの森へ行かないか」


「ヤガリ?」


「空飛ぶ魔獣がいるのなら、森の中に入ればこちらの位置を特定できないし奇襲も難しい」


「ああ」


 俺たちはブランにフェザーマンの少女を乗せて、森の中に入った。

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