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第56話

「生神だと?!」


 アルクトスは目を見開いた。


「お前みたいな小僧が?!」


「小僧で悪かったね」


 俺は息を吐いた。


「全然神の気配もオーラもないのも認めるけどさ」


「馬鹿な……生神が……実在するなど……」


「しないと思ってた? 滅亡の神が存在しているのに、それに相反する存在はいないと思ってた?」


 炎が近くまで迫る中、アルクトスはギリ、と歯を食いしばる。


「……いや……弱いとは言えシンボルを粉々にできるのは、神子か生神しかない……なら」


 アルクトスの口角が持ち上がった。


「貴様を殺してシンボルとすれば、あるいは滅亡の神そのものが降りてくるかも知れん」


「殺せるとでも?」


 俺は蒼海の天剣を持って、アルクトスを見返す。


「殺すさ」


 アルクトスの身体が歪む。


 盛り上がる筋肉に服が内側から弾け飛ぶ。あらわになった皮膚から黒い剛毛がみっしりと生え、頭の形も変わっていく。


 変貌を終えた時、アルクトスは縦横ともに俺の二倍はある、上半身大熊となっていた。


「ワー・ベア……」


「怯えろ! 畏怖しろ! 滅亡の神が生み出せし滅亡の具現を! この由々しき我が肉体の均整を! 人間ではありえないこの美しき姿を!」


 ……俺としては、エルフの細身のバランスの整った身体とか、ドワーフの肉体労働によって作られたがっしりとした筋肉とか、ハーフリングの小柄で身軽さに特化した作りとかがいいなあと思うんだけどね。まあ生物と死物の価値観の違いってヤツなんだろうけど。


「死ねえ!」


 アルクトスは全力で殴ってきた。


 俺は水鏡盾を呼び出し、左手に装着すると、その攻撃を受け止める。


「ぐぉおっ」


 全力の攻撃をキレイに跳ね返されて、アルクトスは燃える幔幕を突き破って、外まで吹っ飛ばされた。


「ぎゅいっ?!」


「きぃ、ききっ」


 ゴブリンやコボルトたちが異常事態に素早く集まってきた。動けないアルクトスを見て、俺たちを敵と認識したんだろう。棍棒を手に手に、俺たちを取り囲む。


 その時。


 陣営の外から悲鳴が聞こえた。


「お。来た来た」


「ぎゅ、ぎゅいいいいいっ!」


 伝令らしいゴブリンがアルクトスの前に跪く。


「敵襲だとぉ」


 自分の全力を自分で味わってヘロヘロ状態でも、ゴブリンの話を聞ける程度には

無事らしい。あの筋肉鎧は伊達じゃないんだな。


 しかし、敵襲なら。


「来たな」


 俺は呟いて、サーラを見た。


「ああ、来た」


 炎を放ちつつ、楽しげにサーラは言う。


「レーヴェ、ヤガリ、コトラ、ブラン……ああ、そして」


 くすくすとサーラは笑った。


「ミクンまでいるじゃないか」


「ミクンがあ?! レーヴェがヤガリが止めたはずだぞ!」


「止められなかったんだろうな。ハーフリングの義理堅さはかなりなものだから」


「そこまで?!」


「そうだ。ハーフリングの核心と覚悟を変えさせるのは、天地をひっくり返すより難しいと言われる」


 守護獣が言うならそうなんだろうなあ。神でも難しいって意味だろう。


「お前……お前お前お前ぇ!」


 アルクトスが絶叫した。


「殺してやる! 生神! その額に! 三つ目の目を空けて! 滅亡の神を! 降ろしてやるぅ!」


 アルクトスは絶叫しつつ両手で掴みかかってくる。


 跳ね返すのは盾の力。ならば……と思ったんだろう、片手でも当たれば俺にダメージを与えられると思って。


 だけど。


 俺は全面的に水鏡盾に頼っているわけじゃない。デカい全身を覆うほどの盾であればともかく、これは左腕の一の腕に装備し、意識して動かさなければ受け止められない盾。チート盾の唯一の泣き所。


 だから、俺は。


 軽くバックステップした。


 アルクトスの身体が宙を泳ぐ。


 俺はそのまま身を沈めて、そのごつい足を払う。


 重いしごついし足を痛めるだけかなーと思ったけど、人間の言うアキレス腱の辺りを狙ったのが功を奏したか、体勢を立て直そうとしていたアルクトスは逆に背中から倒れた。


「シンゴ!」


 声が聞こえて、入って来たのはミクンだった。


「ミクン、何でここに……」


「だって、あたし、まだ全然シンゴに恩を返してないんだもん!」


 その気持ちは嬉しいけど……。


「ハーフリングかあ!」


 ひっくり返ったままアルクトスは吠える。


「お前を食らって! 俺は! 生神を殺す!」


「生神?」


 あちゃあ。


 いらん事言ってくれたなあ。


 ともかく……。


 俺は天剣でアルクトスの両腕を払った。


 軽く触れただけでも、その両腕は胴体と泣き別れする。


「すごい切れ味……」


「さて、と」


 俺はアルクトスの首筋に天剣の刃を向ける。


「お前らの本拠は何処だ」


 アルクトスは喉の奥で笑う。


「俺が言うとでも? 俺たちにとって死は親しきもの。殺すって言うのは大歓迎だ。お前らを道連れにされないのだけが無念だがな!」


「うん。お前らに命乞いは求めていない」


 俺は冷ややかにアルクトスを見下ろした。


「だから、死乞しにごいをするようにしてやる」


「死乞い?」


 初めて聞く言葉だな、とアルクトスは笑う。


「そうだ。殺してくれと頼むようにしてやる」


「どうやって?」


「俺が生神ってことを忘れたか」


 俺が今度突き付けたのは、取り出したM端末だった。


「神威【再生】」


 場所ではなく、個人に使うのは初めてだ。しかも、かなり残酷な使い方だ。


「何を、した」


「お前らは快楽は感じられると言ったな」


 はっとアルクトスが硬直するのが分かる。


「なら、苦痛も感じられるんだよな。自分自身への苦痛も、お前らにとっては悦びなのかな?」


 腕が【再生】されて生えてきた。


 俺はその手をも切り飛ばす。


「さあ、殺してくれと言うまで、【再生】は続くぞ。何処まで耐え切れるかな?」

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