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第54話

 そこは、今まで見た何処に比べても、繁栄していた。


 ゴブリンやコボルトたちが大勢賑やかに行き交っている。


 子供のゴブリンやコボルトがこっちを指さして笑ってる。彼らからすれば俺たちは商品で、運が良ければ自分たちにもおこぼれが回ってくるだろうってことだ。


「ほう、ほう、ほう!」


 雄叫びのような声を、馬車を守っているゴブリンがあげる。


「ほう! ほう! ほう!」


 子供たちが声を張り上げる。


「旨そうだ、と言っている」


 アルクトスが楽しげに言う。


 そうだろうねえ。


 アムリアから連れてきた人間なんてガリッガリだったろう。捌いたら筋と皮しか残らないとかって感じなんだろうなあ。俺は中肉中背だし、サーラは……つきたいところにボンボンついてて必要な所は引き締まっているからなあ。性欲でなく食欲で見れば美味しそうだろうなあ。


「お前、名は」


 アルクトスは上機嫌そうに言う。


「シンゴ」


「シンゴか。そっちの女は?」


「サ……サーラ……」


「シンゴにサーラか。どちらにせよ、最後には死んでもらうが……」


 楽し気にアルクトスは言う。


「オレたちを楽しませてくれれば、命が伸びるかも知れないぞ?」


「楽しませるって」


 俺は微かに顔をしかめた。


「何をしろって言うんだ?」


「色々あるぜ? せいぜいよく考えて、命を延ばすよう努力するんだな」


 カッカッカっと笑うアルクトスには、サディスティックな考えが宿っていた。


「さあ着いた」


 アルクトスは馬車に乗りあがって、俺とサーラの縛られた腕をまとめて掴み上げ、亀の子でも吊るしたようにぶら下げて歩く。元々巨体だけど怪力もすごいんだなあ。


 アルクトスが入っていったのは、布で作られた陣幕のような建物に俺たちは入れられた。


「我らが神……」


 アルクトスは俺たちを下ろして跪く。


「滅亡の神、アポス……」


 手を組み、祈りを捧げ、首を垂れる。


「我らを生み出し、この世界を虚無に導く偉大なる神よ……」


 俺は顔をあげる。


 そこにあるのは、髑髏どくろが一つ。


 人間……ヒューマンくらいの大きさの頭蓋骨が、祭壇の上に置かれている。


 眼窩が三つ。普通の目の位置と、額の辺りにもう一つ。……いや、額のは普通の髑髏に後から穴を空けたのか? 無理やり空けた形跡がある。


 三つ目の髑髏が彼らの信仰する神のシンボルってことか。


「我らは滅亡の道を歩んでおります……どうぞ見守り、導きたまえ……」


 髑髏からは何も感じない。恐らく三つ目の髑髏は単なるシンボルなのだろう。何か少しでも力を持っていたら、天敵である生神やその神子にして守護獣であるサーラに気付かないはずがない。


「くくくっ」


 アルクトスが楽し気に笑った。


「気付いたか?」


「……何を」


「我らが神のシンボルは、三つ目の人間の髑髏だ。どんどん新しいものと変えていかなければならない。これは……三ヶ月ほど前にアムリアから買ってきた人間のものだ」


「……次の髑髏は、俺かサーラか……ってことか?」


「そうだ。強い人間ほど立派なシンボルとなり得る。アムリアから連れてきた人間の髑髏は貧弱でな。中には加工中に木端微塵になるのもあった。これからも最早力は感じない。弱いにもほどがある。その点お前たちの骨は頑丈そうだ。……一体何処から来た?」


「……西」


「なるほど、最近オレたちに歯向かっているって言う西から来たのか。メルクが失敗したんだな」


 ん?


「メルク、知らないか? 西に向かったワー・ラットなんだが」


 メルク? ってどっかで聞いたような……。


 あ。


 ビガス村のワー・ラットを【観察】して、判明した固有名。それがメルクだった。


 そっか、やっぱりあいつと同類だったか。


「……知らない」


「まあいいか。人間が生きて西から来たってことはメルクが失敗したって証拠だ。次はオレが行けるよう進言しよう。ビガスも大樹海も無窮山脈も、オレが再び廃墟としてしまおう」


 アルクトスは天を仰ぐ。


 その横顔には残酷な笑み。


 俺たちで遊ぶつもりだな。


 遊びに付き合いながら、もうちょっと情報を引き出さなければ……。



「あそこか」


 レーヴェ、ヤガリ、ミクン、コトラ、ブランは、小高い丘から陣営の方を見ていた。


 ヤガリの手からは伸びるほのかな光。


 真っ直ぐに陣営の中を指している。


「急いで助けないと」


「急ぐ必要は恐らく、ない」


 レーヴェはじっと陣営を見つめながら呟く。


「もしシンゴの身に危険が及んだのなら、サーラが黙っていない。今頃あの陣営は火の海になっているはずだ」


「そうだな。サーラはあの程度の陣営なら丸焼けにできる」


「炎魔法のスペシャリストなの?」


「……そう言うことだ」


「炎に関しては彼女の右に出る者はいないだろうな」


「そうかあ。だから大火傷とか言ってたんだ」


「見た目はあれだが、恐らく我々の中では一番強いぞ」


「だからシンゴを守るために囮に名乗り出たんだ」


「面白がっている節もあったが」


「楽しんでいるだろうなあ今頃は」


「何それ、そう言うキャラなの」


「そう言う存在って言えば存在だな……」


 ヤガリとレーヴェは肩を竦めた。


 ミクンは不審そうに二人を見上げる。


「人間じゃないの?」


 おっと、と二人は顔を見合わせる。


「人間、じゃないの? あの人」


「人間と言えば人間だし、人間じゃないと言えば人間じゃないし」


「それはシンゴとサーラが戻ってきて、許可を得れば教えてやる。おれたちは言える立場ではないからな」


「とにかくあの中に潜入して……」


「コボルトとゴブリンのいる中に人間が潜入できるものか」


 焦るミクンをレーヴェが抑える。


「シンゴの頼みは、騒ぎが起きたら外から攻撃に入ってくれってことだからな。中で何かが起きるまでここで警戒するしかない」


「ん~……」


「ハーフリングは視力もいいと聞いた。何か見えるか?」


「ゴブリンとコボルトばっかだよ。なんか盛り上がってる」


「シンゴとサーラの存在かな」


「かもな。だが、ここで敵対勢力の正体を明らかにしておかなければ、この先何に気をつけなければならないか分からない」


「あれ?」


 ミクンは目を細めた。


「なんか……陣営の方が」

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