表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/155

第51話

 アムリアは、本当にボロッボロだった。


 城壁は壁と言うか目ぇ閉じて歩いてても抜けられるんじゃないかってくらいだったし、かつては壮麗だっただろう城は、廃墟通り越して関係者も立入禁止って感じだった。


 その周囲にあっただろう城下町もほとんど崩れて、その壁と壁の間に布を張ったりして雨風避けにしたりしている。


 そこに住んでる人たちも、ほとんどがボロボロだった。


 最初にシャーナに会った時よりひどい恰好でひどい身体をしている。動ける人は既に出て行って、もう動けない人ばかりが辛うじて生き残っている感じ。


 ってか、こんな状態でよくこれだけ生き残ってたなあ。


 そして俺たち、悪目立ちしてるなあ。


 俺たち、洗う必要がなかったり浄化した服だったりできれいな服着てるし、痩せている様子もない。レーヴェもヤガリも初めて出会った時より明らかに体に肉がついている。いや、やらしい意味はないんだが。


 一番彼らに近いのがミクンだけど、俺たちと一緒にパンや干し肉を食っていて、こっちも明らかに薄いけど肉がついて……いややらしい意味じゃないって。サーラの肉のつき方なんて爆発的である。これは正直やらしい意味で。……サーラが笑ってる感覚がする。


 とにかく、ガリガリではない、健康的な体ってことだ。


 家畜や野獣などほとんど肉にされたって言うのに、痩せてもいないブランとコトラもいるし。


 だから、俺たちには視線が集まった。


 だけど、視線だけ。


 虚ろな視線が俺たちの後を追ってくる。


 ……しかし、思ったよりいるな、生き残り。


 数十人いればいい方だと思っていたけど、百人は超えている。今のアムリアにそれだけの人間を養うものはないだろうに。


「裏があるな」


 サーラがぽつりと呟いた。


「裏?」


 その言葉を聞きつけたミクンがサーラを見上げる。


「そう、裏」


 ゆっくりとサーラは金色の髪をかき上げながら、視線の群れにゆっくりと目を走らせる。


「なあ、シンゴ」


 サーラはミクンではなく俺に聞いてきた。


「お前も気付いているだろう。ここに、これだけの人間を養うだけの物資はないと」


「ああ」


「ならば、誰かが何処かからか何かを運んできているということだ。善意か、悪意かは分からないが」


「悪意で人に物を渡すのか?」


「そうだ、レーヴェ」


 サーラは微かに目を伏せた。


「相手を傷つける意図をもって渡される贈り物と言うのは、確実にある」


 さわさわと囁き声が流れてくる。


 俺は空気を震わせるだけのその囁き声に集中した。


  ……あの連れて行って運んでくる人じゃないのか……?


  ……見たことない……。


  ……今度は誰を差し出せば……。


 《《誰を差し出せば》》?


 ぴくんとレーヴェの尖った耳とミクンの丸っこい耳が同時反応した。


 多分、俺と同じ言葉を聞き取ったんだろう。


(とりあえず人のいない方に行こう)


 俺も空気を震わせて仲間に伝えた。


(厄介な何かがあるのは間違いなさそうだ)



 壊れかけた城の塀際に入って、ようやく虚ろに俺たちを追ってくる視線から解放された。


「我々以外に、しかも定期的にここを訪れる人間もいるようだな」


 サーラは塀の頑丈そうな場所に寄りかかって、足を組んだ。スリットから太ももがさらけ出される。……キツイです、サーラ姉さん。


「しかも、《《誰を差し出せば》》、と言っていた」


 レーヴェの言葉に、ヤガリも唸る。


「人身売買の可能性もある」


「だけどさあ」


 ミクンが首を傾げた。


「人を売り買いするって言うけど、何の得があるわけ?」


「得?」


「だって、ここにいる人間で、買って何かの役に立ちそうな人間って誰もいないよ? 何のためにあんな人間を買うの?」


「そうだよなあ」


 俺も唸る。


 人間の中にはヒューマン以外の種族もいた。だけど、全員例外なくボロッボロ。一体誰が売れるというのか。


 そして、一体何処から何を持ってきているというのか。


「ここじゃ俺たち目立つからなあ……」


 俺は髪の毛を掴んで考えた。


「いっそのこと目立った方がよくはないか?」


 代案を持ってきたのはサーラだった。


「目立つ?」


「私なら売り物になりそうだろう? ミクンも言っていた」


「いや冗談だよ? 冗談じゃないけどサーラ姐さん本気で売れるよ? 戻ってこれない可能性大大大の大」


「私を金などで買った人間がどんな目に遭うと思う?」


 サーラはにっっっこりと微笑んだ。


「……なんでだろう、死んだほうがマシって目に遭いそうな気がするのは気のせいかな」


 うんミクン、気のせいじゃないと思うよ。


「そういやミクン、聞きたかったんだけど」


 俺はサーラの太ももに向いていた目を引きはがしてミクンに向けた。


「アムリアから出たって人間の話は君から聞いたと思うけど、アムリアに行った人間はいなかったのか? 俺たちだけ?」


「むかーしはそうじゃなかったみたいだけど」


 ミクンは首をかたむけて指を頬に当てて考え込んだ。


「アムリアって言えば最大の人間王国だったからねえ。世界がおかしくなりだして、結構な人数がアムリアに行ったって聞いてる。ただ、最後に王族と貴族が国を離れて逃げ出した後、アムリアから出て行く人間がほとんどいなくなったって」


「王侯貴族が逃げた後……?」


 逃げた、と言うことは、国を捨てなければならない何かがあったってことだ。


 食糧不足か。いや違う。王族なら国民から取り立てればいい。取り立てるものがなくなって逃げると言っても、滅びに向かっている世界で逃げ場は既になかったはずだ。


 と、言うことは。


 戦争に負けたとか?


 それなら王侯貴族が逃げ出す立派な理由になる。だけど、世界がグズグズになっている時に兵士を集めて最大人間王国を攻めて、何かいいことがあるのか?


 いや、世界が滅んでしまえばいいと思っているヤツがいれば……。


(……オレたちは破滅のために生み出されたんだ。偉大なる唯一神の手によって殺されることは最高の褒美なんだよ……)


 俺の脳裏にその言葉が蘇った。


 ビガスの地下倉庫で戦ったワー・ラットの言葉。


 破滅のために生み出されたのなら……十分攻撃を仕掛ける理由になる。


「戦いになるかもな……しかも結構派手めな」


 その時、ガランガランと金属がぶつかり合う音がして、ドラ声が響いた。


「さあ、引き換え差し入れの時間だ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ