表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/155

第48話

 草原が確実に【再生】したのを確認して、俺たちは歩き出した。


「とりあえず、これでこの草原は大丈夫かな」


「大丈夫だろう」


 サーラが頷いた。


「あれだけの範囲を【再生】すれば、ハーフリングは暮らしていける」


 サーラが神子になって信仰心が激上りしたから、かなりの範囲を【再生】できるようになっている。


「コトラ、ありがと」


「ぅな」


 昨日の昼過ぎ、ミクンと別れてから、俺はコトラにミクンの後を追わせた。


 コトラは夕方過ぎに戻ってきて、俺たちをハーフリングの住む草原まで案内してくれた。


 俺の旅は【再生】の為の旅。ハーフリングの住む草原が滅びかけているのであれば、助けるのが筋ってもの。


 だけど生神とバレるわけにはいかないから、ミクンに言うわけにもいかないしついて行くわけにもいかなかった。だから、一番尾行が得意そうなコトラに頼んで後をつけてもらったのだ。


 そして、腐った大地に踏み入って、誰もいないのを確認して、【再生】した。


 遠くで興奮したようなハーフリングの声が聞こえる。


 よかった。


 少しは人のためになれただろうか。


「さ、アムリアを目指そう」


 俺たちは歩き出す。


 街道へ戻り、東へ向かった。


 草原の方から、土と草の匂いを含んだ風が吹いてくる。


「しゅう?」


 ブランが何かに反応した。


「どうした、ブラン」


 ヤガリが聞く。


 スキル【索敵】に引っかからないってことは敵じゃあない。そもそも敵だったらブランやコトラが真っ先に気付くはずだしサーラも警戒した様子を見せない……と言うかサーラが警戒するような敵だったら蒼海の天剣を抜かなきゃならんだろうけど。


「しゅう」


「ついてきているそうだぞ」


「ついてきて?」


 ヤガリはくいっと親指で背後を指した。


 振り向くと、そこにはハーフリングの集団がいた。


「あ、ミクン」


「覚えててくれたんだ」


 ミクンはほっとした顔をして、次に疑問と警戒とがまぜこぜになったように表情を変えた。


「あんたら……何なの?」


「何なのって」


「寝て、起きたら、草原が、復活してた」


 後ろにいる十五人程度のハーフリングたちが、一斉に頷く。


「一昨日と同じ昨日、昨日と同じ今日だったらこんなことになってるはずがない」


「昨日と今日が違うって?」


「ハーフリングのみんなに聞いた」


 ミクンはじっとこっちを見ている。こっちの一挙動すらも見逃さないように。


「みんな、一昨日と同じ昨日だったって言ってた。みんなだ。あたしだけが違っ

た」


「どう違った?」


「昨日、あたしはあんたたちと会った。復興したって言う西から来たあんたたち

と」


「会っただけだろ」


「食事をもらった」


 ミクンはどんな仕草も見逃すまいと真剣だ。


「飯を探しに行って襲われたところを助けられて、あの美味しいパンもどきと真似水と魚の燻製と肉の燻製をもらった。お腹いっぱいになった」


「それが違うこと?」


「違うこと」


 ミクンは頷く。


「あたしたちにとっては一生を変えてしまうくらい違うこと」


「そうなの?」


 ミクンたちはうんうんと頷く。


「何したの」


「何したのって」


「何かした……って言うか何かできるんじゃない? あんな食事を初対面のあたしに平気で分けられてしかも見返りを求めなかった。そんなお人好しの物好きが、何かできたならやるだろうなって。……あたしたちには、少なくともそれしか思いつくことがない」


「草原が蘇ったのはいいこと?」


「いいことだよ」


 ハーフリングたちは一斉に言った。


「とっても、いいこと」


「なら、いいことがあった、でいいじゃないか。街道沿いにいたおじいさんが言ってた。《《ある日》》を境に世界が変わったって。じゃあ、君たちは《《今日》》が世界の変わる境だったんだ、と」


「あんたたちがやったんじゃないって、本気で言ってんの?」


「うん」


 俺は頷く。


 俺はやってない。やったのは端末だもん。


 と、頭の中で言い訳しながらも、俺はそれを表情に出さないでいた。


「嘘つき」


「嘘つきと来たかあ」


「いいことがあった、と納得すればいいだろうに」


 レーヴェが呆れたように言う。


「あたしたちは納得いかない所は納得いくまで詰める性質タチなの」


 ああなるほどねえ。


「だから、ハーフリングを代表して、あたしがあんたたちについてく」


「へ?」


 真剣な顔でミクンは、ハーフリングたちはこっちを見ていた。


「ついてきて、どうすんの?」


「わかんない」


「わかんないって」


「あたしたちは納得するまで何処までも突き詰めんの」


「突き詰まったらどうすんの」


「もしあんたたちが何かしたんだとしたら、お返しをしなきゃなんない。良いことでも悪いことでも。あたしたちは義理堅いんだ」


「俺たち何もしてないんだけどな」


「それに、礼をし忘れてたし」


「礼?」


「泥魔獣から助けてくれた礼と、お腹いっぱいの礼」


「礼を言われるようなことじゃないけど」


「あんたたちにはね。でも、あたしにとっては、一生をかけて礼をしなければならないことだった」


 ミクンは一歩前に出た。


「あんたたちはお人好しでお節介で助けられるものを見捨てられない。そう言う人間は利用されやすい。だから、あたしが見てあげる」


「見るって」


「ハーフリングは動物や昆虫の意図を見抜ける。それは、人間でも同じなんだ。悪意か、敵意か、善意か、好意か。一発で分かる。見抜いてあげる、あんたたちに近付く連中、みんな」


 そこでやっと気付いた。ミクンがサックを担いでいることを。


「ついてくんの?」


「ついてく」


「危ないよ?」


「逃げ足は速いから」


「まあ、速かろうな」


 サーラは小声で呟いた。


「結構あちこち行くよ」


「風の吹くまま旅をするなんて、洒落てるじゃん」


 ミクンは、そこで表情を変えた。


 ニカッと言う笑顔。


「あんたたちがダメって言っても、あたしは勝手についてくよ」


「どうするシンゴ」


 レーヴェは首を竦めた。


「多分、全力で移動してもついてくるぞ」


 ヤガリも溜め息交じりだ。


「ハーフリングに尾行されたら、地獄の底までついてくると言うからな」


「そうなの?」


 うんうん、とレーヴェとヤガリが頷く。


「でも、コトラとブランは賛成なんだよな」


「ぅな」


「しゅうう」


「じゃあ、勝手についてこられて怪我でもされたら見てらんないから、一緒に行こう」


「思っていた通りお人好しだ」


 ミクンは笑う。


「邪魔にならないようにするから、よろしく!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ