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第44話

 街道を歩く旅人はすっかりいなくなってしまったと、泊まらせてくれたおじいさんは寂しそうに言った。


「昔は、山脈やビガスからの荷物が毎日のように通っていたもんだ」


 《《ある日》》を境に、まるで木の葉が落ちるように旅人が消えて行ってしまったと。


「《《ある日》》って?」


 宿泊費代わりに渡したふかふかのパンを口に入れながら、おじいさんは答える。


「《《ある日》》は《《ある日》》さ。五十年ばかり前。おとぎ話に出てくる通りだ。何でもない日だった。いつも通りの、街道沿いだった。だけど、今思い返せば、それが境だったんだな。その日から、無窮山脈が枯れた、森エルフの泉が汚された、ビガスが閉鎖したと様々な噂が流れ、街道を旅する人間はめっきり減ってしまった。その代わりに魔物や魔獣がたまに行き交う旅人を食らい、そしてまた減っていき……堂々巡りだ。この街道は、もう街道じゃなくなっちまった。目立つからな」


「……俺たちも街道をそれた方がいいのかな」


「ああ、それはやめておきなさい。見たところ、あんたがたは旅慣れてない。そして不思議なことに腕は立ちそうだ。街道を歩いたほうが道に迷わない。隠れ街道は旅慣れている人間の通るもんだ。魔物に追跡されないように隠し道や偽道がたくさんある。あんたがたがそんなところへ行ったら、魔獣用の罠に引っかかるだけだ」


「ぅなっ」


「ははは、そうか、猫さん、あんたも魔獣かい?」


 十年ぶりに人と話した、と言う老人と別れてから二日経った。


 言われた通り、街道は魔物や魔獣の宝庫だった。


 毎日のように敵対勢力の生み出した敵と戦い、そしてレベルアップしていく。


 暗く陰る道を獣避けにトーチに火をつけて、前進する。


「《《ある日》》って、なんなんだろう」


 俺の呟きに反応したのがサーラだった。


「 あのご老人の言葉か?」


「うん。ある日を境に、街道が寂れて行ったって……」


「《《ある日》》としか形容できないよ。人間にはね」


「では、貴方達は何と呼ぶのだ」


 レーヴェの言葉に、サーラは意味ありげな笑みを浮かべる。


「《《飽いた日》》、だ」


「飽いた……」


「この世界の神が、世界に飽いて滅びを決めた日。それを、我らは《《飽いた日》》、と呼ぶ。多分、あのご老人は鋭かったのだろう。神がこの世界から去ったことに気付いた……それが《《あの日》》だろうね」


 神が世界に飽いた日……。


「モーメントって世界は、どれくらい続いているんだ?」


「さて」


 サーラは考え込むようにする。


「我が生まれたのは、人間の暦に換算して五千年ばかり前だ。我を生み出した神はそれ以上生きていることになるな。創世神話までたどれば七~八千年も遡れる」


「マジか」


「だが、その前の世界もあったという」


「前の世界?」


「そう、創世神が去り、滅びかけ、生神が創世神となって蘇らせたのが今の世に伝わる創世神話だ」


「え」


「そう、なのですか?」


「こらこら、シンゴだけでなく、我も平等に扱ってもらわないといけないよ」


 リーヴェに、サーラは少し笑いかけた。


「我々に言い伝えられているのは、代替わりだ。創世神が世界を創り、世界が滅びかける時、生神と滅びに導く神が現れる。再生されるかあるいは世界そのものが破壊されるか。それが無数の世界で行われているのだと言う」


「シンゴの前の生神がいて、それがいま伝えられている創生神。そして、あのご老人の話と貴方の話によれば、創生神が世界に飽きて去ることによって世界が滅びかけ、生神と破滅の神が現れる、そう言うことなのか?」


 リーヴェの言葉にサーラは頷く。

「そうだ。どの世界もそれを繰り返しているという。中には滅び去った世界も、一柱の創世神が長く在位し続ける世界もあると言うが、あいにく我は目にしたことはない」


「つまり、この世界はシンゴが再生させたとしても、シンゴが世界に飽きてしまえば再び滅びの道に向かう、そう言うことか?」


「モーメントに限らず、全ての世界がだ」


 更に、と付け加えるサーラ。


「全ての神の中で、生神……滅びかけた世界を再生し、新たなる創世神となる者は、異世界で生まれ育ち、死後に選ばれて世界に派遣される人間、と限られている」


「シンゴも異世界の人間だったのか?」


「ああ、うん。事故で死んで、その後生神になれって言われてここに来た」


「誰に」


「それが誰とも言えないんだよな。死んだと思ったら白くてふわふわした空間にいて、同じ人間にしか見えない人に、生神になる資格があるって言われてここに派遣された。あの人が誰だったのか……いや何だったのか、俺にもさっぱりだ」


 そこで、全員が足を止めた。


「気配、だな」


「うん」


 俺も気付いたんだ、歴戦のレーヴェやヤガリ、五千年守護獣をやっているサーラが気付かないはずがない。


「敵対勢力だ」


 気配の区別も、つくようになった。


 人間の気配、魔物の気配、魔獣の気配。M端末を使わなくても、それくらいは判別できる。あと、こっちに敵意や殺意があるかどうか。もしやと思って端末を見たらスキル【索敵】がついていた。


 そして、この気配は。


「人間が追われているね」


「追っているのは魔獣だな」


「人間の方に敵意はない」


「コトラ」


 俺はブランの背に乗ってだらーんとしていたコトラに声をかけた。


「この気配をこっちに持ってこれるようにできるかい?」


「ぅな!」


 コトラはすぐに起き上がって、街道沿いの腐りかけた森の中に飛び込んでいく。


 少しして、必死で逃げる小さな少女……幼いって意味じゃなくて身長が低いって意味で……と、それを庇って走ってくるコトラが飛び出してきた。


「よしコトラ、えらい」


「ぅなっ」


「大丈夫かい?」


「ハーフリングか」


 サーラが息を切らしている少女を抱き上げてよしよし、と背を叩く。


「ダメ、逃げなきゃ……!」


「大丈夫だよ。もう安全だ。そうだろう、シンゴ?」


「大丈夫にする。サーラ、その子は頼んだ」


 コトラが背毛を逆立てて唸り、レーヴェもヤガリも剣や戦斧を構える。俺も神具ではない普通に作られた剣を握った。


 蒼海の天剣は強すぎて、使っているところを見られたら一発で洒落にならない存在だとバレる。敵にかすり傷一つつけたら真っ二つってどんな威力よ。


 で、森エルフの里で【再生】した剣を【増加】で増やして持ち歩いているわけで、剣術レベル15あれば今まで出てきた大抵の敵と十二分に戦える。


「ぎゃああああっ!」


 濁った悲鳴に近い鳴き声をあげて現れたのは、泥をこねて作ったような魔獣だった。


泥魔獣マッド・ビーストか」


 サーラが溜め息をついた。


「このような低級魔獣までも力をつけて人を襲いだした」


「なんか弱点は?」


「水がなくなるか、火であぶられるか」


「ちょうどいいや」


 俺はトーチを掲げた。

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