第41話
人前で力は使うまい、と思っていたけど、ここのドワーフは例外と、サーラを連れて【転移】で無窮山脈に帰る。
そして神鉱炉へ戻ると、穴を見つめていたドワーフがこっちを向いて目をまん丸にしていた。
「……ああ、そうか。転移で直接帰って来たんだな」
「確かに、そちらの方が安全だが……その方は」
ヤガリくんが訝し気に問うのに、サーラは微笑んだ。
「我は生神の神子の新入り、サーラだ。よろしく頼むよ」
「? ああ、よろしく」
ヤガリくんは差し出された手を受け取って握手した。
……ヤガリくん、すげぇ。俺なんか触れも出来ねえよ……。
「サーラ、貴方は何処でシンゴ様と会ったのだ?」
レーヴェの言葉にサーラは意味ありげに微笑むと、神鉱炉へ向かった。
「下がっていろ」
穴を覗き込んでいたドワーフたちにそういうと、サーラは手を下から上へと招くように動かした。
次の瞬間。
真っ赤な溶岩が、炎水路から溢れ出てきた!
「炎水だ!」
「間違いない、炎水だ!」
「これで、神聖銀も加工できる!」
ドワーフたちが喜ぶのに、サーラは満足げに頷く。
「……もしかして、彼女は」
ヤガリくんが小声で聞いた。
「おとぎ話にあった、『炎の守護獣』なのか?」
ヤガリくん勘ぱねぇ。
「ああ。本当の姿……大きな蜥蜴か小さな竜かって姿を俺は見てる。彼女の正体は火蜥蜴だ」
「なるほど……炎水の守り手に相応しい」
それぞれ美しい顔立ちをしているエルフの一人であるレーヴェも、サーラに目を奪われていた。
「無限の力と美しさを誇る炎の守護獣。紛れもなく彼女はこの無窮山脈の支配者だ」
「……神子にすれば無窮山脈は助かるって言うから神子にしたけど、絶対彼女、目立つよな」
「それはそうだ。神がかった美しさ……いや、神の力の具現と言っても過言ではないのだから」
レーヴェは胸の前で何か指を走らせていた。
「何それ」
「あ……ああ、まじないだ。騎士たる者が動揺した時に冷静さを取り戻すと言われている……」
「ほう、騎士が我に動揺したか?」
かつ、かつと足音高らかにサーラがやってきた。
「当然だろう? ……シンゴ様に会うまで……神の実在すら信じていなかったが、エルフの騎士は神に仕えると言われてきた。だが、世界が滅ぶこの時に生神と出会い、更に炎の守護獣の具現体に出会うなど、昔の私が聞いたらまず自分の気が触れたと思うだろう」
「え、そうなの?」
だからレーヴェの信仰心は低かったのか。
「ふふ。確かにお前たちは神に仕える騎士とはいえ、実際に神に会えその言葉を聞ける騎士は砂浜に一粒の砂を見つけるに等しい」
ヤガリくんとレーヴェが一斉に頷いた。
「だが、神と話せるから自分は周りの人間より偉いのだと思ってはいけないよ? 神に直接仕えると言うことはそれだけ大きな責任を担っているということなのだからね」
「は、はい」
……なるほど、これが本当に神に会った人間の対応か。
神に仕える騎士と言うレーヴェでこうなんだから、普通の人間が彼女や……【神威】を使う俺を見たら、まず怖がるだろうなあ。
「生神様!」
ドワーフがそこに駆け寄ってきた。
「炎水をありがとう! これで無窮山脈も生き返った!」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「アシヌスと炎水があればドワーフが生きる道は完璧に取り戻された! 感謝する生神様、ドワーフ族はこの恩を永遠に忘れんぞ!」
「うん……ああ」
純粋に向けられた感謝の念。
だけど。
「しばらく俺、ここに来れないと思う。自分たちだけでやってけるな?」
「生神様?」
「世界を【再生】しなければならないから」
ドワーフたちは一瞬不安そうな顔をした。だけど。
「そ、うだよな、生神様はドワーフ族の為だけにいるんじゃないものな。それに再生したのは森エルフの泉と無窮山脈とビガス……か、それだけでは世界を再生したとか言えないものな」
ドワーフ族は残念そうな顔をして、少し落ち込んだようにも見えたけど、すぐに笑顔に戻った。
「生神様が人々を救えば、俺たちの金属を必要とする人間が増える。俺たちもどんどん必要とされるもんな。頑張ってくれ生神様、俺たちも頑張るよ!」
「うん。頼む」
そして俺はレーヴェとヤガリくんとコトラとサーラを呼んだ。
「一度、原初の神殿に戻る。これから先のことを相談したい」
「え?」
「あ。ああ」
【帰還】で、俺たちは原初の神殿へと戻った。
きゃあきゃあとはしゃぐ声が聞こえる。
三人の子供が小型のアシヌスに乗って神殿の周りを走り回っているんだ。
その後を灰色猫が追いかけて、アシヌスと猫の大競争。
「シンゴ様!」
その様子を見守っていたシャーナが、俺に気付いて振り向く。
「随分お早いお帰りですのね。何処か別の場所の再生をすると思っていたのですが」
「その前に相談したいことがあって……あ、シャーナ、この人サーラ。……サーラとシャーナって似てるな……まあもうどうしようもないか……とにかく神子のサーラ。サーラ、彼女が」
「原初の神官にして神子のリザーだろう。話は聞いている」
「え」
警戒心むき出しだったシャーナが目を丸くした。
「生神を迎えるリザー一族が原初の神殿を守ると言っていたが、世界の破滅の時まで生き残っているか心配だった。しかしリザーの末はちゃんと生き残っていた。よいことだ……素晴らしいことだ」
「シンゴ様、この御方は……」
シャーナをリザーの神官で、リザーを昔から知っていたような発言に、シャーナは一歩下がって俺に聞く。
「無窮山脈の炎の守護獣、火蜥蜴だ」
「!」
それを聞いたシャーナは慌てて膝をついた。
「守護獣様とは知らずご無礼を……!」
「いや、いい、いい。リザーの末、神殿を守っているのだな。子供たちも、この状況であのようにはしゃげるというのは良いことだ」
「んで、これから先のことを相談したくてここに来たんだ。神子と俺たちだけで……」




