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第39話

 ゲーム好きな友人が見せてくれた本の中に出ていた、炎の精霊、火蜥蜴。


 炎の守護獣だ。


 蜥蜴にも小竜にも見える火蜥蜴は、ちろちろと火を吐きながら笑う。


『なるほど、無窮山脈も随分と力を失ったようだ。我の力を受け取りながらも炎水を神鉱炉まで上げる力がないのだね。もう少し我の目覚めが遅ければ……』


 火蜥蜴は俺をチラッと見た。


『このまま炎もろとも我が消え去ったか、あるいは我を封じる力が暴走して無窮山脈を巻き込んで噴火したか。どちらにせよ世界の破滅が一層早まったであろう』


 いや、どちらにせよって言っても選択肢によってはエライ違う結果が出るぞ?!


 火山が休火山になってそのまま力を失ったならゆっくりとした滅びだけど、この無窮山脈が噴火したら文字通りとんでもないことになってたぞ?!


 少なくともドワーフは全滅。この規模の火山だったら下手すれば森エルフの聖域まで噴煙が届いて火が陰り、世界中暗くなっていたかもしれない。


 まさに黙示録の世界だ。


「……とりあえず俺的には世界滅ぼしたくないんで、目覚めてくれて嬉しいです」


『くくく、眠りにつく時は、二度と目覚めることのなきようにと願ったものだが……嬉しいと言ってくれれば我も嬉しい』


 その声は、耳に届くのではなく、直接脳みそに伝わっているようだ。


『さて、ここまで炎水が失われれば、文字通り無窮山脈も終わりを迎えかけているわけだが……生神よ、お前はどうしたい?』


 へ?


『我は人間とは違う。神の力を継ぐ炎の守護獣。故にお前が何処から何故に来たかも知っている。何処かの世界での生を全うし、その心が認められて神としてこの世界に来ることとなったのだろう?』


「知ってんの?!」


『知っているとも。神とはそうして世界を訪れ、救うもの』


「じゃあ、俺がいた世界にも神はいる……あるいは、いた、のか?」


『ああ、そうだとも。神のいなかった世界はない。神を決める存在が何者か迄は知らぬが、かつて生きた世界でかくありきと望んだ世界を、呼ばれた世界で創り上げるのだ』


「じゃあ……なんで生まれた世界じゃできないんですか?」


『我を生み出せし神は言っていた。己が生まれた世界であれば、必ず邪心が入っただろう、生前の心を失くさない限り世界を平等になど扱えぬと』


 なるほど……確かに。


 俺は真面目に生きてきたつもりだけど、嫌いな奴もいたし苦手な奴もいた。もしその後神になったとして、他の人と平等にそいつを扱おうなんて出来やしない。


『つまり、お前は望まれてこのモーメントに来た。が、お前自身が望んでモーメントの神となったわけではない。ただこの世界に神が必要だったから呼ばれただけだ』


 そう言われれば……そうかもしれない。


 貴船と言ったあのお爺さんが何かしたのか、ルーレットで決まるはずだった来世をパスして生神としてこの世界にやってきた。この世界を救えと言われて。


『その上で聞こう、生神よ。お前はこの世界に、何をしたい? この世界で、何を成し遂げたい?』


「俺は……」


 しばらく、言葉が詰まった。


 この世界で何をしたいか。俺は一度もそれを考えたことがなかった。


 ただ、目の前で困っていた人がいたからだ。


 この世界に来て、シャーナさんと出会って、この世界が滅びかけていると、救ってほしいと言われたから、この世界を救おうと思った。


 エルフの人々、リーヴェ、コトラ、ドワーフのみんな、ヤガリくん、ビガスのアンガスさんやイリスちゃんや村の人々、村長。


 困ってたから助けたい。


 俺を育ててくれたおじさんも言っていた。困っている人がいて、今自分が助けられる状態にあったら可能な限り助けなさいと。それはいずれ回り回って自分の所に帰ってくるから。ただし、見返りを求めて助けた途端に、それは意味がなくなるとも。


 俺はおじさんのその言葉を胸に刻んでいる。


 あの日、シャーナさんが世界を救ってくれと言って、この手に救う力があったから、俺は世界の【再生】を決めた。


 エルフが、ドワーフが、ヒューマンが、助けてくれと言ったから救ってきた。


 それだけのこと……なんだけど。


『だが、理不尽にも遭っている、そうだろう?』


 ……確かにな。


 ビガスの人々は、俺の力を見て明らかに怯えていた。


 エルフの長老は、あからさまにドワーフやヒューマンを蔑視している。


 ここは決して理想郷ではない。


 だけど。


 この世界を救って、みんなが仲良くなれれば……もしかしたら、この世界は、理想郷になれるかもしれない。


 誰も、理不尽に悔やむことがないように。


 皆で、幸せに生きていける世界に。


『お前の本当の望みは、皆が理不尽に遭わず幸せに生きられる世界か』


 火蜥蜴に言われて,ようやく俺が本当に欲しかったものを探し当てた。


 俺が目の前で両親を亡くした時のように、理不尽に大事なものを失わずに済むこと。


 人間はいずれ死ぬ。世界はいつか滅び、神と呼ばれている俺もいつかは消えるだろう。


 だけど、理不尽で大事なものを失わずに済む世界ならば、創れるんじゃないかと。


 俺はそう思ってたんだ……。


『それは困難な道だぞ?』


 火蜥蜴は笑い含みに言う。


 分かってる。


 エルフとドワーフのように種族間で諍いを起こしている人たちもいる。


 このまま俺が強くなっていけばビガスの人々のように俺は怯えられる存在になるだろう。


 でも。


 レーヴェとドワーフが少しでも分かり合えたように。


 原初の神殿で守られている子供たちのように。


 困難な道だけど、決して不可能ではないはずだ。


 俺はそう思う。そう信じている。


『甘いな』


 甘いかな。いや甘いな。すごく甘い。


 だけど、それが俺がやりたいことだった。


『そうか』


 そうだ。


 ……って、いつの間に俺は頭の中で火蜥蜴と会話してたんだ?!


『全く、生神は疎い』


 どんくさいって言われちゃったよ……。


『では、我はお前の神子となろう』


「え?」


 俺は白光を放つ火蜥蜴を見た。


『我に名をつけ、神子契約を結べ。そうすれば、我はお前の神子となる。我は本来の力を取り戻し、そしてお前の力となるだろう』


 名前ぇえ?!


 俺に名づけの才能がないって知ってんのか?!


『灰色虎のことはよく知っている。だが、名をつけるのはお前でなければならないのだ。我はお前の神子。お前に属するもの。名もなき我がお前と契約を結ぶには、お前に属するという証……名が必要なのだ』


 名前、名前、名前……。


「……火蜥蜴だから、サーラ、とか?」

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