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第35話

 俺は畑の方を振り向いた。


「うっかりゴブリンがそっち行ったとか、そう言うことはないかー?」


 畑にいた皆々様は、ぽかーんとした顔をしている。


 ? 何かしたか、俺?


「どうしたシンゴ」


 きちんと蔦以外の場所を歩いてきたヤガリくんたちが、声をかけてきた。


「いや、なんか皆さんが……」


「ああ。リーダーはお前が倒したんだろ」


「あ? うん」


「だからだな」


 レーヴェも当たり前のように言う。


「リーダー、と呼ばれる魔物は、一般人にはどう頑張っても勝てないレベルだ。我々のような神の力を借りたり必死に訓練してレベルアップを続けた人間でなければ勝てない。それをシンゴ様はあっさりと倒した。だから呆然としているのさ。目の前のこの御方は、戦闘でも間違いなく生神だと思って」


「……怯えられてる?」


「どちらかと言うと、畏怖じゃないか?」


 ヤガリくんも言った。


「畏怖?」


「生神の力を見て、竦んでしまったんだろう」


 納得したようなしないような。


 俺は地球……生前と変わったところが何かあるかと考えても、特に何もないと思う。やれることをやっているだけ。困っている人は助けてやれとおじさんが言ってくれた通りにしていただけ。


 でも……ワー・ラット……意志疎通できる相手を殺してしまった、と言うのはあるかも知れない。あいつを殺さなければこの村に人が戻ってこれなかったとはいえ、殺しは殺しだ。俺が間違えて誰かを殺してしまったとしたら、それは取り返しのつかない過ちだ。人間は【再生】できないんだ。


 人間をあっさり殺せる「神」。だから畏怖されるのかもしれない。歯向かえばあっさり殺されてしまうかもしれないって、そりゃあ竦むよなあ。


 ……それだけは心に刻んでおかなければならない、そう思って、俺は堀の下の蔦を見下ろした。


 堀の中は一面、束縛蔦だらけ。槍を立てておくより確実に仕留められる。……そういう動植物まで生み出してるんだからなあ。


「い……きがみさま……」


 民長が恐る恐る俺に声をかけてくる。


「あ、ありが……」


「礼はいいよ。俺のやらなきゃいけないことだった。それより、安全に蔦を出られる方法を教えておかなきゃな」


 俺は足元に生えていた蔦を軽く踏んだ。


 あっと言う間に俺の右足に蔦が絡みつく。白き神衣のおかげで痛くもなんともないけど、足にはギッチリと巻き付いている。


「こうやって暴れると、蔦はぎっちぎちに巻きついてく。だけど」


 俺はそれまで適当に動かしていた足をぴたりと止めた。


「こうやって、しばらく待つと」


 蔦は動かなくなった足を確認して、しゅるる、と引っ込んでいった。


「この通り、蔦は引く」


 村人たちが真剣な顔で見ている。


「で、踏み込んできた方に、ゆっくり、ゆっくりと戻っていくと」


 俺は足を引いた。


「蔦は動かず戻れる」


「それって、ゆっくりと踏み込んで行けばこちらにも向かってこれると言うことでは?」


「いや、入ってきた方向からじゃないとダメなんだ。一回縛る、止まる、元来た方向へ戻る、でワンセット。だから、蔦に掴まった場合は混乱せずに、動きを止めて、何処から入って来たかを落ち着いて思い出して、ゆっくり戻ればいい」


「はあ……」


「後はラッパスイセンかな。蔦の向こうに花畑っぽく生やしておくとか」


 俺が端末を向けてタップすると、黄色い花が溢れかえった。


「これを、居住区にも仕掛けとく」


 蔦とスイセンが、堀から外に向けて乱れ咲き。


「元からあった罠とかも【再生】しておいたから、これで敵対勢力とか迎え撃てるでしょ」


「あ、りがとう、ござ、います」


 お礼の言葉は途切れ途切れ。


「見つけた農業とかできそうな人をこっちに送っていい?」


「は、はい」


 コクコクと頷く民。


 かなり怯えさせちゃったなあ……。


「じゃあ泉と鉱山見てこようか」


 俺は村の居住区の方へ向かった。


「子供たちは心配しなくていいから。シャーナさんが見ていてくれている」


「はい!」


 アンガスさんと一緒に神殿に辿り着いた子供二人を連れたお母さんが大きく頷いた。


「何かあるようだったらメモにまとめておいて。定期的に回るつもりだから」



 そのまま神殿から森エルフの泉へ【転移】した。


 相変わらず森の香りの強い場所で、とうとうと清き水が溢れ出して流れている。


「生神様!」


 俺の姿を見たエルフの子供がわあわあと寄ってくる。


「おう、元気だったか?」


「うん!」


 エルフには子供も多いけど、よく考えたら寿命が長い分成長も遅い人間なんだよなあ。レーヴェだって百は超えてるって言ってたし。


「何か問題は?」


「今のところは。オークどもは弓で撃退できていますし」


 エルフは細く見えて結構強い人間なんだなあ。


「畑は?」


「聖水を引き込んで、薬草や神草しんそうを増やしたりしています」


「神草?」


「神の祝福から生まれた植物で、身体の穢れを内側から浄化するものや食べたものに怪力を与えるもの、幸運に恵まれるものなどを」


 知らないなあ。


「生神様が知らなくても仕方ありません。この世界を捨てた神が残して行った……いや、回収し忘れたとでも言うか……そういうものです」


「じゃあ束縛蔦も神草かなあ」


「ほう、蔦」


「うん。侵入者を絞め殺すって言う物騒なヤツだけど、俺が創ったんだから……」


「しかし、それはヒューマンにやったものでしょう?」

 エルフの長老が露骨に嫌な顔をした。


「神草とはエルフに下賜された神聖なるものなのです。ヒューマンにやる程度のそんなもの、神草とは言えません」


 ん?


 露骨にヒューマンをけなしてないか、この人。


「気にするな」


 ヤガリくんが小声で言った。


「エルフは基本的に自分が人間の中で一番と思っているんだ、ヒューマンも自分たちより下に位置すると思っている。ドワーフほどではないがヒューマンも見下している」


 ……う~ん、種族間の争いは、なかなかにこのモーメントでは厳しいらしい。


 とりあえずオークの襲撃は大丈夫らしいと判断し、次は無窮山脈に向かった。

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