第34話
土埃がだいぶ近付いてきた。
俺は主にゴブリンズの進行方向に向けて束縛蔦を植え、無限の種を発芽させる。入って来れるのは跳ね橋だけだし、ここに俺が陣取っていればゴブリンズは畑に入れない。
雄叫びを上げながら接近してくるゴブリンズを相手に、コトラやブランはやる気満々。コトラはともかくブランは神子ではないんだが、アシヌスはドワーフを守るために生み出した聖獣。主であるヤガリくんが戦うと決めた以上、ヤガリくんと共に戦うつもりなんだ。……自分で創っといてなんだけど健気な生き物だなあ……。
レーヴェが剣を構え、ヤガリくんは戦斧を肩に担ぎ上げる。
「ぎゃしゃあ!」
「ぎゅ、ぎゅいっ!」
一番後ろにいる一回り体の大きいゴブリン……ゴブリン・リーダーが指令を出したらしい。スレイブが一斉に襲い掛かってきた。
こっちから真っ先に飛び出たのがコトラだった。
「しゃああああああっ!」
俺たちの前では絶対に出さない声でコトラが突っ込んで行く。
スレイブたちは躊躇うことなくコトラに襲い掛かる。
しかし。
コトラは一瞬身を低くした。
「しゅううつ」
後ろからブランがコトラの上を飛び越え、目の前のスレイブを前脚で踏みつぶした。
そこへヤガリくんとレーヴェがやってくる。
「ゴブリンごときが……」
レーヴェが勢いよく剣を振るった。スレイブの棍棒を持つ右手が宙に舞う。
「神子に敵うと思ったか!」
ヤガリくんは戦斧を振り上げ、スレイブを真っ二つ。
やっぱ強いな。俺よりレベル高いしな。俺戦闘レベル30だけど仲間の中で一番戦闘レベル低いブランでも50あるしな。
その合間にコトラは次の獲物の足の腱を切ったり喉笛を切り裂いたり、ブランが踏みつけ蹴り上げして蹴散らしているし、ヤガリくんが斧を振り回して血の雨降らしたり、レーヴェを取り囲もうとするスレイブをレーヴェがあっさり切り裂いたりとか。
うん、オレの出番ないな。
と思ったら、なんせ包囲網が四人だけなので、そこを突破したスレイブズ三体が跳ね橋めがけて突っ込んできた。
だけど。
緑を踏み荒らすのが好きなだけあって、スレイブズはわざわざ緑色の部分を踏みにじりながら走ってくる。
馬鹿だねー。
緑……束縛蔦が一斉に蔓を伸ばした。
ぐにんぐにんと触手のようにスレイブズが縛り上げられる。
スレイブズが暴れるのだから、蔦も本気で捕まえにかかる。ギッチリ絡み締め上げる。
動かないようにすれば簡単に抜けられるし、抜けた後はできるだけ刺激しないようにそっと後退すれば安全なのだけど、スレイブズは何にも知らないから暴れ回って、身体がミシミシ言っている。
ミシミシがギシギシになってミリミリになって。
ぎゅううう……ぶちっ。
うん、えっぐい。
ここまで想像が出来れば【創造】出来るけど、耕運機とかはなー……。
その間にも向こうではスレイブズが散々に蹴散らされている。
だけど、リーダーはリーダーなだけあった。
二体のスレイブと共にリーダーは跳ね橋を目指してくる。
緑を踏もうとするスレイブを制御して、出入りできるように空けておいた道を突っ切って俺の目の前までくる。
今までは蔦を植えての援護戦闘だったけど、ここからは俺が直接戦闘するしかないなあ。
端末を消して、代わりに水鏡の盾を左腕に装備する。
戦闘レベル差はリーダー相手だと20ある。でも装備がSSSランクの武器防具だから、そんな苦戦しないとは思うけど。
「ぎぃゃああああ!」
うん、ワー・ラットとレベルは同じ。ただし俺はその時から見てレベルがアップしている。もうちょっと動けるかな。
リーダーは針金を巻き付けた棍棒で殴りかかってくる。
ワー・ラットとの戦闘に比べて、ゴブリンの動きはゆっくりに見える。
素早さが違うのか、それともレベルアップの恩恵か。
俺は冷静に盾でその一撃を受けた。
キィン!
水鏡の盾は綺麗に攻撃をリーダーに跳ね返し、リーダーは頭から血を流す。自分の血で興奮したのか、リーダーは血気盛んに攻撃を仕掛ける。
……うん、盾を何とかして俺の肉体に当てるって考えはないみたいだ。
だったらこのまま防ぎ続けてリーダー自滅を待つって手もあるけど、それだとスキルの盾術だけがレベルアップするだろう。剣術のレベルも欲しいからな。盾に守られて勝ってもなんか情けないし。
ワー・ラットを殺った時のようなあの感覚に囚われるかも。
だけど、生神をするためには敵対勢力と戦える戦闘力が絶対必要だ。こっちを殺すつもりで来ているヤツは、こっちも殺す気でないと到底相手はできない。
まずは。
盾のない方から、と向かって右から攻撃を仕掛けてきたスレイブの棍棒を叩き斬り、その勢いでスレイブの右手まで切り裂く。
「ぎゅぎぃおおお!」
「はい、とどめ」
一歩踏み出して、右肩に剣を振り下ろす。
そのまま剣はするんと左わき腹まで切り裂いて、スレイブは血痕一つ残さず消えた。
「ぎゃお、ぎぃぃっ」
返す刃でジャンプして襲い掛かってきたスレイブを斬り捨てる。
スレイブが消えた後には、怖い顔にプラスして憎々しさを付け加えたリーダーが、こっちを壮絶な視線で睨みつけていた。
こいつは逃げるか? リーダーと言うだけあれば、知性があればここで一体きりで戦えないと判断するかもしれない。だけどこいつを逃がすと後から後からゴブリンがやってくる羽目になるかも。
とどめ、さしといたほうが安パイかなあ。
俺が覚悟を決めたのを悟ったのか、リーダーは後ろに向かってジャンプした。間合いを図る為か。それとも逃げる為か。
だけど、それは束縛蔦の群生地。
一気に縛り上げられる。
俺は即前進し、蔦に絡まれてるリーダーの胸の辺りを貫いた。
「終わったかー?」
束縛する相手を失ってへなへなと崩れ落ちる蔦を見届けて、俺は声をかけた。
「ああ。あっさりと」
「リーダーがそちらに向かったから、こちらは楽だった。シンゴ様はご無事か?」
「うん、楽勝だったし束縛蔦の実力も分かった」
一旦消した端末が勝手に現れて、レベルアップを報告した。
【遠矢真悟:生神レベル50/信仰心レベル20000/戦闘レベル40
神威:再生20/神子認定4/観察20/浄化20/転移3/増加10/創造7/神具創造1/直接戦闘20/援護戦闘10
属性:水5/大地3/聖6/植物4/獣4/岩3/鉱石3
直接戦闘神威:[攻撃]水流・水/[防御]木壁・植物
援護戦闘神威:[攻撃]武器強化・鉱石+大地/[回復]回復・聖
固有スキル:家事全般10/忍耐10/剣術18/盾術18/遠視3
固有神具:自在雲/導きの球/白き神衣/蒼海の天剣/水鏡盾】




