第33話
それを一言でいえば、「壮観な光景」だった。
荒れ果て踏み固められた大地が蘇り口を開けそこから芽が出て。
まだ収穫時期じゃないから実までは実らなかったけど、もう豊作確実みたいな?
すげえ。
さすが穀倉地帯と言われ、聖域を守って来た地域。畑半端じゃない。これだけあればかなりの人を養えるだろう。……九人でどうやって収穫するのと思いもしたけど。
落ちていた骨の欠片などからは、牛や馬、犬と言った家畜も【再生】して、きょときょとと辺りを見回していた。
堀の辺りが限界になるよう【再生】したんで、堀の向こうの物悲しい荒地と緑豊かな畑の格差は滅茶苦茶激しい。
「すごい……生神様、ありがとうございます……!」
「いや、まだお礼を言われる段階じゃない」
レーヴェも同じことを考えていたんだろう、難しい顔をしていた。
「これだけの耕作地帯で、家畜がいてもヒューマン九人で畑を回せるのか?」
「難しいだろうなあ……」
俺が農家の子だったら……例えば耕運機とか、そういう物をガソリンとかじゃなくて神の力で動くような道具とか乗り物とかを作れたんだけど……。
【創造】は駄洒落じゃないけど想像力がなければ創れない。例えば無限の種は、「魔獣の胃袋の中で無限に増えていく種」「魔獣の気を引く臭い」で創れたけど、耕運機は「何処にどう乗る」「どうやって畑を耕す」か全く想像がつかないために創り様がないのだ。
「えーと……」
俺は少し考えてから口を開いた。
「少ない人数で畑を管理する方法って、何か考えてないか?」
「確かに九人全員で働いても、今再生していただいた畑だけでも手入れはできませんな……」
民長も悩む。
「とりあえず助けた人を全員ここに連れてきたとしても、畑全部をフル稼働させるためには数十人は連れてこないと……」
悩んでふと端末を見ると、また表示が出ていた。
【神威を込めた神具を作ったため、新しい神威を手に入れました】
ああ、子供たち用に創ってみたあのペンダント。それで何のスキル?
【神威:神具創造1】
神具創造?
【観察結果:神具創造/神の力を宿した神具を生み出す神威。レベルが低い間は一つだけ力を込めた使い捨て神具を創れる。レベルが上がれば複数の神威を繰り返し使える神具を創れる。神具を使えば神ではなくても【神威】を使えるようになるが、誰にでも使えるようにすると敵対勢力や邪な考えを持つ人間に悪用される可能性があるので注意すること】
要するに、神威を誰でも使えるようになるってことか?
確かに、誰にでも使えるようにすると厄介だよな……。
だからこれまで俺がゲットしてきた神具も俺や神子にしか使えないようになったんだな。
う~ん、とりあえず今はいらないかな。
「要するに畑を耕す人手がないわけか」
「そう言うことになるねえ……」
土を豊かにするなら、ミミズを増やせばいいと聞いたことがある。ミミズは古い土を食べて新鮮な土を作るから。でも、土が豊かになっても、収穫が出来なきゃ意味がない……。
ふと、思いついた。
「カマキリってアリかなあ……」
「カマキリぃ?」
「うん、いや、カマキリじゃなくてもいいんだけど、人間の言うことを聞いて畑仕事とかができる生き物、とか?」
「農作業用の生物か」
「うん。それならアリかと」
「その前に」
ヤガリくんが西の方の荒地に目をやった。
……土埃?
「敵が来たようだ」
ヤガリくんは戦斧を持ち、レーヴェも剣を握る。コトラもブランも鼻から息を吐きだして戦闘態勢満々。
「ちょっと時間稼いでくれよ」
俺は端末を持ち直す。
「無限の種と束縛蔦を堀とその外側に植える。皆さんは畑の所で身を守ってくれ」
「生神様……!」
「大丈夫、みんな強いから」
俺は笑うと、【再生】した跳ね橋から、西の方を見た。
土埃は確実に迫っている。敵の軍勢?
もうちょっと確実に見えないものか。
俺が目を凝らすと、端末がまた音を立てた。
こんな時になんだよ。
【固有スキル:遠視を手に入れました】
何故に今。
【遠くのものが見やすくなるスキルです。神威【観察】と組み合わせることで、より遠くのものを安全な場所から確認することができます】
お。便利なスキルじゃん。元々俺目は悪くないけど、それが更によくなった?
じっと土埃の発生源辺りを見る。
四十体くらいの……鬼?
イメージ的には日本の鬼に似ている。ただヤガリくんより小さいみたいだし全員茶色だし虎柄のパンツじゃなくてボロボロの革鎧に木の棍棒。
【ゴブリン・スレイブ:レベル20/敵対勢力に創り出された亜人種、ゴブリン族の奴隷階級。支配者階級の命令を実直に実行するだけの知性がある。緑を憎み、踏み荒らすことを生き甲斐をしている】
【ゴブリン・リーダー:レベル50/敵対勢力に創り出された亜人種、ゴブリン族の奴隷を操る支配者階級。スレイブを操って緑を踏み荒らすことを至上の命としている】
スレイブもそこそこ強いけど、リーダーはもっと強いな。でも最低レベルのレーヴェですらレベル55。コトラなんか200だ。
問題は、跳ね橋を越えられることだな。そうすればせっかく【再生】した畑や建物が荒らされる。
やっぱここでとりあえず無限の種と束縛蔦を植えて、万が一防衛線が抜かれても防衛できるようにする。
「ゴブリン・リーダーに率いられたスレイブの群れだ。多分ここを踏み荒らしに来たんだろう。みんなはそこで守ってくれ」
「ああ。お前はどうする?」
「この跳ね橋を守る」
右手で蒼海の天剣を持ちながら、左手で【創造】と【増加】をタップする。
蔦がぶわりと生えた。




