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第32話

「じゃあ、大人だけでビガスに行くぞ」


 夫婦と母親、そしてアンガスさんと、村長さん含めた村に残った六人、計九人がとりあえずビガスに戻ることになった。


「お母さん」


「ビガスが安全になるまでの間よ」


 二人の子供を連れてきた母親が子供たちの肩を抱く。


「あんたたちはここで、いい子にして待ってるのよ」


「お父さん……」


「大丈夫だ。生神様がいらして下されば、いつでも会いに来れる。永遠の別れじゃない。時々様子を見に来るからな」


「お子様については安心してください。この神殿には敵対勢力も入っては来られません。わたくしが責任をもってお預かりしますわ」


 ふむ。


 ここは聖域だけど獣もいるし、安全の上に安全を重ねたいな。


 俺は【創造】に神威を重ねて三つのペンダントを作った。


 細い銀の鎖に、小さな光る石。


「みんなはこれかけててな」


「何? これ」


「神威【帰還】を一度だけ使えるようにしたもの」


 子供の首に下げてやる。


「これ?」


「困った時、危ない時、神殿にあっと言う間に帰ることができる」


 迷子とか、獣とか。とにかく子供は意外な理由で姿を消すことがあるので、危ない時があればすぐに神殿に強制送還させるようにしたわけだけど、神威のこもったアイテムは大体一回きり使い捨てみたいなもんでなあ……。いちいち作らなきゃならないのが面倒だし【帰還】がこもっているから神殿にしか戻れない。【転移】だと何処の聖域に行ってしまうか分からないし。


「シャーナは何か要ると思うもんある?」


「子供の遊び相手になる物があればよろしいかと思うのですが……」


「ふしゅう」


 唐突に自己主張したのはブランだった。


「動物? つまり、お前らみたいなのがここにいれば安全ってわけか?」


「しゅう」


「ぅなーお」


 コトラも主張を始める。


「確かになー……ブランとかコトラみたいな遊び相手になって守ってくれるヤツがいれば、シャーナも相手するの楽になるだろうし」


「でも、灰色虎はともかく神驢アシヌスはシンゴ様がドワーフにお与えになった聖獣。ドワーフの皆様が同意なさるでしょうか?」


「構わないと思うぞ」


 ヤガリくんが頷いた。


「子供の護衛兼遊び相手だろう。アシヌスをそのまま与えるのでなければ誰も文句は言わないと思う」


「そうだな。小型のアシヌス……元々小さいけど、ヒューマンの子供の相手できるような大きさで、土を食べる量もそんな多くなくすれば」


「ぅなっ、ぅなっ」


「うん、お前がこれ以上成長しないくらいの小灰色虎だったら、獣を採ったりもできるな」


「ぅなっ!」


 コトラは思いっきり、胸(?)を張った。


「お前らの小さいの、作っていい?」


「ふしゅっ」


「ぅなっ」


「よし、とりあえず五頭ずつ創っておくか」


 【創造】の【増加】で、小型のアシヌスと大きくならない灰色虎を五頭ずつ生み出す。


「ひゅう」


「なーぅ」


 子供の遊び相手になりそうな足太猫と超小型ロバが生まれた。


「え?」


 子供たちの目が輝く。


「おともだちだよ」


 俺が言うと、子供たちは恐る恐る小型アシヌスや灰色猫に手を伸ばす。


「なーぅ」


「ひゅうう」


「うわあああ……」


 これまで滅びかけた世界で友達なんて考える余裕もなかったろう子供たちは、お腹もいっぱいでおともだちも出来て、すごく嬉しそうに動物たちを撫でたりまたがったりしていた。


「後は、再生してくださった神殿の中に図書室とかいうものもありましたの。子供用の絵本もありましたから、きっと楽しく過ごしていただけると思います」


「頼むよ、シャーナ」


 そして、俺は小声で言った。


「友達がいて、飯があっても、やっぱりさみしくなる夜はあると思う。その時は一緒にやってくれ。一人じゃないって、励ましてやってくれ」


「一人の寂しさは、わたくしが一番よく知っておりますわ、真悟様」


 シャーナは少し陰った笑みを浮かべた。


 ……そうだった。シャーナは家族も死んでいく中、生神の降臨を待ち望んでこの神殿で一人孤独と戦っていたんだ。


「わたくしは、この子たちを一人にしないと、そう誓いますわ」


「……頼んだ」


 そして大人たちを振り返る。


「じゃあ、子供の安全が確保されたところで、こっちはビガスの再建に行くか!」


 シャーナと子供たちに一時の別れをして、俺たちは祭壇からビガスへ【転移】した。



 黄色い毛皮と大量の種で覆われた村は、なかなか悲惨な状況だった。


 でも、それを何とかするために俺はここに来たんだ。


 M端末を取り出して、村に向ける。


「まずは……【浄化】」


 キガネズミの毛皮や骨がきれいさっぱり消えてなくなる。


 何と言うか……更地だなあ。植物系は全部食われたんだろうし、違っても柔らかい材質だったら食われたんだろうし。石の建物が残っているくらい。


「じゃあ、こっから【再生】だ」


「お願いします!」


 村人の目の前で、M端末をセットする。


「【再生】……Y!」


  ぱぱぱぱぱぁっ!


 一瞬光が走り、軌跡が村中を駆け抜け、その後に木造の建物や道や花壇などが残った。


「う……おおおおお!」


 九人のどよめきが村を走る。


「村だ……私も父から聞いただけの、最盛期の村の様子だ……!」


「すごい……村はこんなだったのね……」


「くそう、ファミナに見せてやりたかった……!」


 村人たちが涙ぐみながら抱き合っている。


「いや、まだ完璧とは言えないぞ」


 ヤガリくんの言葉にアンガスさんが頷いた。


「まだ、魔獣や敵から身を守る術がない」


「田畑と防衛と、どっちがよさそう?」


 俺の問いに、アンガスさんは悩んでしまった。


「田畑が戻った姿を見たい……一刻も早く見たい……でも防衛が……」


「必死だな」


「私も村の再生は早く見たいんです! でも今この時にキガネズミが……いやそれ以上に厄介な魔獣や敵が現れたらと思うと……!」


「一応今は生神自身や神子の我々がいる、アンガス殿。大抵の魔獣なら倒せるだろう。それに、田畑を戻してからじゃないとラッパスイセンや束縛蔦を植えるのも難しいと思う」


「レーヴェさん……」


「案ずるな、生神の望みは世界の再生。ならば神子の我々もそれに従う。ビガス村の再生と安全を生神が望むなら、それを叶えるために我々も全力を尽くす」


「神子様……ありがとうございます……」


「じゃあ、田畑の【再生】行くか」


 俺は村長の案内について行く。


 黄色の毛皮がいっぱい落ちている。ここの作物食い荒らした後共食いしたな。


「まず【浄化】してから、だな」


 黄色い毛皮を消し去ってから。


 一気に【再生】だ!

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