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第31話

 その時、M端末がぴこんっと光った。


「ん?」


 端末を取り出す。


【神威【転移】できる場所が増えたため、新しい神威が使えるようになりました】


 新しい神威?


 端末をタップする。


【神威:帰還/モーメントのどんな場所からでも、原初の神殿に転移できる。この神威は、生神と生神が同時転移するのに同意した生き物しか使えない】


「何処からでも、ここに戻って来れるてことか?」


「何か?」


「ああ、新しい神威ゲットした。何処からでも好きな生き物連れてこの神殿に戻って来れるみたいだ」


「へえ。今まで聖域がなければ転移できなかったのに」


「元居た場所には戻れなくなるみたいだけど」


「それでも、見つけた人たちを連れてここへ戻って来れる」


 うん、と頷いた。


「よし。じゃあ一回ビガスに戻るか」


「生神様?」


「村の再生計画は大体できた。あとは住民の皆さんに意見を聞きながら細かいところを調整していくってことで」


「村を、再生していただけるので?!」


「それが生神の仕事だから」


「ありがたい……ありがたい」


 民長さんに拝まれても困る。いや、神様だから拝まれるもんなのか?


 とにかく拝まれた経験なんて皆無だから、どうしたらいいか分からない。


「みんなはどうする?」


 みんな、とは、ビガスから逃げてきた人たちである。


 いくら村を元通りにすると言っても、キガネズミに家族をやられた人だっているだろう。俺の力は人間と呼ばれる存在の【再生】は叶わない。


「村に嫌な思い出、悲しい思い出がある人もいるだろ。戻りたくないって人がいてもおかしくないと思う。この原初の神殿は多分聖域の中でも一番力の強い場所だと思うから、可能な限り安全に暮らしたいって言う人を止めることはできないし」


「それは……」


 村人たちは顔を見合わせた。


 ここに辿り着くのも命懸けだったろうし、村で神具を守るのもいつ来るか分からない俺を待つのも大変だったろう。


 やっと安全な場所まで来れたのに、村を直すから戻れと言われても、怖いと言うのが本心だろう。無理に帰れとは言えない。


 ただ……穀倉地帯と呼ばれるビガスの復興は、世界再生にも影響してくる。人が増えてくると、俺がいちいち食糧を【再生】して回るわけにもいかないし、森エルフの畑だけでは増えていく人口を養えない。ビガスが再建してくれないと正直困ることになる。


「私は帰ります」


 民長が一歩前に出た。


「村長がいなければ、村は成らないでしょう。生神様に救われた命ならば、生神様のためにお捧げするのが筋、と言うものでしょう」


「私も」


 アンガスさんも頷く。


「父の、父も、そのまた父も守って来た村です。父だけでは畑も耕せない。人がいない村はどんなに豊かでも村じゃない」


 ……なんか帰らないって言いづらい空気になって来たなあ……。


「子供だけはこの神殿に残してあげられないでしょうか」


 母親が言った。


「ビガスが狙われる可能性があって、生神様の守りがあっても、生神様が直々におられることがなければ完璧とは言えないでしょう。子供だけでも安全な場所に置いていただけないでしょうか……」


 母親の手を繋いだ子供が不安そうに見上げる。


「ビガスを滅ぼしかけたワー・ラットのような魔物や魔獣が再び現れるとなると思うのなら、生神様の御傍に置いていただければ私達も……」


「シンゴの傍も、安全な訳じゃない」


 ヤガリくんが唸る。


「森エルフの泉、ドワーフの無窮山脈。いずれも敵対勢力が戦力を送り込んでいる。森エルフには武器を、無窮山脈がアシヌスを真悟が与えてくれたが、それでも完璧とは言えない。そしてシンゴの傍は一番危険だ。なんせ世界中を再生しなければいけないんだ、敵対勢力と直接戦闘になったりする。おれたち神子が守ってても、三人程度なら守れても子供を見つける度に預かっていては守り切れない」


「この神殿はどうでしょう」


 シャーナが言った。


「邪悪な者はここに気付くことすら出来ません。お子さんを預かるには安全だと思います」


「子供が三人だけでいたら、逆に危ないんじゃ……」


「……わたくしが、残りましょう」


「シャーナ?」


 シャーナは胸に手を当てて、一歩前に出た。


「ここは生神様が帰っていらっしゃる場所。そしてわたくしは神官長。生神様と生神様が御助けした方を匿う義務があります」


「構わんのか」


 リーヴェが言った。


「生神の神子で傍にいなければならないとあれほど言い張っていたお前が、今更ここに残るのか?」


 ……珍しい。


 レーヴェはヤガリくんと同レベルに第一の神子であるシャーナと相性が悪かったのに。


「今更……ではありません。森エルフの泉を出たあたりから考えていたことなのです」


 シャーナは目を伏せる。


「わたくしには、敵対勢力と戦う真悟様をお助けできるような戦闘力がありません。魔法も回復ヒール程度ならば使えますが、恐らくは生神様が使うものには敵わないでしょう。敵対勢力が出てきた時に、わたくしにできることは身を隠すか雲の上で縮こまっていることだけ」


「シャーナ」


「お傍にお仕えし、戦える神子がこれだけいるのであれば、わたくしはお邪魔でしょう。神官であればこの神殿を守り、神殿にいらした方々をお助けし、真悟様をお迎えするのがわたくしにできることだと、そう思うのです」


「……済まない、私は誤解していたようだ」


「レーヴェ?」


「お前は、只シンゴの傍を離れたくないのだと、そう思っていた」


 シャーナは薄く笑った。苦い笑いだった。


「わたくしの役割を、ようやく理解しただけですわ」

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