第29話
う~ん、実は武器を手に取ったことなんてないから、戦い方が分からない。
だけど、傷さえつけてしまえばこっちのもんだ。
よっ、と剣で巨大ネズミを指す。
「破滅したいって言うのがお前らなら、自分らだけ滅んでくれよ」
「フンッ」
鼻面を赤く染めながら、ネズミは言った。
「全てを巻き込んでの破壊こそ、我々の望みだ」
「うん、分かった。じゃあ一人で死んでくれ」
俺は油断なく盾を構えて、距離を詰めた。
「キキィ!」
巨大ネズミは床を蹴ろうとして……床に散乱する種に足を滑らせた。
今だっ!
俺は剣でネズミの鼻面を狙った。
切っ先が触れる、かすかな手応え。
次の瞬間、ネズミは鼻面から真っ二つになり、光と化して消えた。
「終わった?」
予想以上にあっさり終わった。
「終わった」
俺は自分の手を見た。
「終わった……」
ヤバい。
手が震えてきた。
人語を介する生き物を、殺した。
オークを倒した時、あいつらは人間の言葉を喋らなかったし、ただひたすら襲ってきただけだったし、魔法で触れずに一掃したから、何とも思わなかった。
ネズミに無限の種を与えた時は、只のネズミだと思ってなんとも思わなかった。
だけど。巨大なネズミは、確かに俺と意思疎通できていた。
意見は合わなかったけど、人間に近い思考回路を持っていた。
そんな相手を、殺した。
俺が。
この手で。
直接。
冷たい汗が流れてくる。
「……ダメだな」
俺が呟いた。
「怖くなってきた」
手が小刻みに震えている。
その時、端末が鳴った。
【遠矢真悟:生神レベル40/信仰心レベル17000/戦闘レベル30
神威:再生15/神子認定4/観察10/浄化10/転移3/増加10/創造4/直接戦闘15/援護戦闘7
属性:水5/大地3/聖6/植物4/獣4/岩3/鉱石3
直接戦闘神威:[攻撃]水流・水/[防御]木壁・植物
援護戦闘神威:[攻撃]武器強化・鉱石+大地/[回復]回復・聖
固有スキル:家事全般10/忍耐10/剣術15/盾術15
固有神具:自在雲/導きの球/白き神衣/蒼海の天剣/水鏡盾】
固有スキルにもレベルがついた?
今までなかった剣術と盾術が追加されてる。レベルもアップしてる。でも、精神面では弱いな……。忍耐はこういう時に役に立たないんだろうなあ。
はあ。
まだ小刻みに震えている右手を、左手で押さえる。
落ち着け。落ち着け。落ち着け。落ち着け。
微かに血臭の残る空気を何度も大きく吸ったり吐いたりして、動悸を落ち着かせ。
俺は剣を鞘に収めた。
はあ、と息をつき、そのままかくんってなりそうな足を叱咤して、俺は封印の扉へ向かった。
封印の扉の向こうで待っていてもらった村人さんたちは、大量の種を残して誰もいなくなった地下倉庫を見て絶句し、そして泣いて喜んだ。
「もう……ここを出て大丈夫なのでしょうか」
それでも地上は危険だと思っている村長に頷いて、俺は一人、地上に出た。
「シンゴ!」
ヤガリくんが駆け寄ってきた。
「どうした、その恰好は」
「封印された聖域にあった神具。もらった」
「シンゴ様、御無事で!」
シャーナも駆け寄ってくる。
「キガネズミは?」
「様子を見ていたが、大体種で潰れて、残っていたのも散っていった」
レーヴェは冷静に答えてくれた。
「あー、やっぱワー・ラットが死んだら逃げるかー」
「ワー・ラット?」
「うん、ここの地下で村人の生き残りを脅していたワー・ラット」
「そんな厄介な敵がいたのか」
「ここにあった武器が強すぎてレベル差一気に埋まったけど」
うん、ボロボロになった村に、キガネズミの独特の獣臭はしない。
地下に向けて声をかける。
「キガネズミはいなくなったよ。出てきて大丈夫だ」
恐る恐る、と言った体で六人が出てきた。
「本当に……キガネズミの気配もないな」
「父さん!」
「アンガス! アンガスじゃないか!」
民長が飛び出してきてアンガスさんの手を取った。
「確かお前たちには原初の神殿に行くようにと言ったんだ……」
「ああ、何とか辿り着いた。生神様の御力で食べ物と飲み物はあったし、神殿は復活していた。生神様と神子が来て、村を助けると言って下さったんだ」
アンガスさんは民長と一緒にこっちを向くと、膝をつき、深々と頭を下げた。
「生神様、ビガスをお助けいただき、ありがとうございます……!」
「まだ完全に助けたわけじゃないから」
お礼は後で、と俺は二人の肩を叩いた。
キガネズミを追い払っただけで、村を助けたわけじゃない。
敵対戦力は全ての破壊を目的としているのが分かった。
となると、キガネズミと首領のワー・ラットを倒したとしても、次の敵が狙ってくる可能性が高いんだよなあ。無限の種は魔獣だったら効くけど、ワー・ラットのような欲望を抑え込める敵だったら種は食べないし。
エルフの武器は再生したし、ドワーフにはアシヌスを渡したけど、この人たちを守る方法を考えないと……。
う~ん……。
「とりあえず一度原初の神殿に戻ってこれからのことを考えるってのはどーだろ」
「自在雲で戻るのか?」
「愚かなドワーフが。【転移】を使うんだろう。だが、ここに聖域があるのか?」
「うん、地下の封印の間。神具を収めた聖域で、ワー・ラットも入ってこれなかった」
神具を守る聖域なら、【転移】の拠点として使えるだろう。
端末の地図を開くと、ビガス村の位置に「封印の間」があった。
「うん、拠点になる。……となると、ここを何とか守り抜かなきゃ……」
「守るって?」
「敵対勢力から」
ビガスを【再生】したとして、穀倉地帯であるビガスが戻ったとしたら、人間が集まってくる可能性がある。それにつられて魔獣や敵対勢力も襲ってくる可能性がある。
「ああ、そうか……」
「エルフやドワーフはそれぞれ武器があるけど、この世界の人間って何か特別なことはできないのか?」
「ヒューマンの? う~ん……特別……どんな?」
「種族的特徴みたいな。森エルフは弓矢が使えるし、ドワーフは戦斧で戦う。そして森エルフの弓矢は【再生】したし、ドワーフにはアシヌスを送った。だけど、人間の特質を生かせて、身を守る何かとなると……」




