表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/155

第26話

「何を落としたんだ?」


 リーヴェに言われ、俺は下の様子を見ながら答える。


「種」


「種?」


「生神特製の種」


「だから……!」


 キガネズミはきぃきぃ言いながらネズミの上に子ネズミが乗って、その上に孫ネズミが……方式でこっちに届こうとしている。ネズミは頭がいいって言うけど、なんか観光地の鯉みたいな勢いで上がってくる。


 自在雲の高度を上げて対抗しながら、俺はまた種を【増加】し、ばらまく。


「種って……餌を与えてどうするんだ」


「毒か何かは使えないのか」


「俺の属性に毒はないから無理。その代わり、【神威】が込められている」


「魔獣に【神威】を与えてどうするんだ」


「【神威】与えたのはネズミじゃなくて種」


「だから何をやっているんだ」


「もう少しで結果は出るかな」


「キキィ……」


 明らかに他に比べて鈍い鳴き声が幾つか聞こえた。


「どうだ?」


 見下ろした先には、大きく膨れ上がったキガネズミ。


「キキィィィ!」


 膨れ上がったキガネズミは、悲鳴を上げて内側から破裂した。


「何、が?」


「おし、成功」


 破裂したキガネズミのあとには、たくさんの種がある。


 目の前の餌にキガネズミは喜んで飛びつき、ネズミ階段は崩れていく。


「だから、何を」


「胃袋の中に入ったら【増加】……いやちょっと違うな、増殖する種を送り込んだんだ」


「はあ?!」


「生きた胃袋の中にあると増え続けて、内側から破裂させる。倒れた後には同じ種がたくさん。それをキガネズミは食い、また食あたりする、と」


「……シンゴ、お前結構えげつないな」


「だってあっちの数がえげつないんだもん」


 ヤガリくんの言葉に俺は首を竦めた。


「全員でキガネズミと戦っても、数千って数の暴力にレベル差は無意味だよ。おまけに相手小さいから振り払うのも大変だし」


「確かに……まともに戦闘するより楽だし確実だ」


 アンガスさんが唸った。


「でも……それは人間が食べても危険なものなのでは?」


「魔獣専用の生体兵器だから、人間が食べても大して問題はない。ちょっとお腹膨れるの早いかなくらい」


「ならば、キガネズミ対策に村の周りに種を植えておけば」


「うん、結構潰れてくれると思う」


 パン、パンとあちこちで弾ける音。


「とりあえずここにいるキガネズミは種に任せて、俺たちは村の様子を見に行こ

う。誰かが生きているかもしれない」


 食べ物の匂いにつられてキガネズミが集まり、種が増えていくのを確認して、俺たちはネズミの届かない位置を保って村に入った。



 村は予想していた以上に悲惨な状況だった。


 キガネズミは噛み砕けるものなら何でも胃袋に入れたらしく、木製の家なども食い荒らされている。石造りの塀とかは無事だけど、時々骨の破片がある。


「キガネズミは?」


「あっちの種に全部行っちゃったのかな」


「あちらです」


 アンガスさんが案内する。


「あの石造りの倉の地下に、生き残りは隠れていました……」


 導きの球の光もそちらを指している。


「よし、アンガスさんはここで待ってて。俺が見てくる」


「おれも行く」


 ヤガリくんが手を挙げた。


「いや、ヤガリくんはここで待ってて」


「こんなヤバい場所にお前一人で行かせるわけないだろ」


「キガネズミの牙が俺に効くかは分からないけど、ヤガリくんには確実に効くからここにいて」


「しかし」


「コトラとブランが種を食わないように見てて」


 俺は自在雲から飛び降りた。


 石造りの倉庫に入る。


 恐らくそこに溜め込まれていたであろう穀物は、今は欠片もない。キガネズミが食い荒らしたんだな。


 下を見ると、石でできたスライド式の扉がある。


 キガネズミがいないのを確認して、俺は石扉をスライドさせた。


 そこにあるのは階段。


 一応キガネズミ対策にドラをスライドさせて閉めて、俺は階段を下りた。


 ……ん?


 キィキィと言うあの独特の鳴き声が聞こえる。


 キガネズミがここにいるってことは……ここにいた人が食い荒らされたってことか……?


 最悪の想像に、俺は足音を立てないように下りながら、ポケットの中の種を触っていた。


 最後の一段を降りる。


 そこにあったのは。


 床一面のキガネズミと。


 真っ青な顔をした六人と。


 頭がネズミで身体が人間と言う生き物がいた。


 なんだあれは?


 俺は反射的に端末を向け、【観察】した。


【ワー・ラット(個別名メルク):レベル50/戦闘レベル45/属性:獣/人

 敵対勢力に創り出された亜人種。人鼠とも言われる、半人半獣。人間と同等の知能を持つ。半獣の中でも戦闘力は低いが、ネズミと意思疎通ができ、ネズミの群れを召喚して戦わせることができる】


 もしかして、あいつが……ここにキガネズミを送り込んだのか?


 まだネズミもワー・ラットもこっちに気付いてないようだ。


 俺は影からその様子を見ていた。


「……生神など降臨しない」


 ワー・ラットは震える六人に向けて甲高い声でそう告げた。


「この世界は、我らを生み出した神によって滅びる運命。お前たちも破壊の愉悦に身を委ね、全てを壊すのだ……」


 カタカタと震えている六人は村人……ってことは、ワー・ラットは、端末の言う敵対勢力によって生み出された、世界を滅ぼす存在か。


 なんで村人を勧誘してるかは分からないけど、とにかくワー・ラットとキガネズミを倒して村人を助けるしかない。


 だけど。


 俺は端末から俺のステータスを引っ張り出した。


【遠矢真悟:生神レベル38/信仰心レベル15000/戦闘レベル7

 神威:再生15/神子認定4/観察10/浄化10/転移3/増加10/創造4/直接戦闘5/援護戦闘7

 属性:水5/大地3/聖6/植物4/獣4/岩3/鉱石3

 直接戦闘神威:[攻撃]水流ウォーター・フロウ・水/[防御]木壁プラント・ウォール・植物

 援護戦闘神威:[攻撃]武器強化エンチャント・ウェポン・鉱石+大地/[回復]回復ヒール・聖

 固有スキル:家事全般/忍耐

 固有神具:自在雲/導きの球】


 ワー・ラットの戦闘レベルが高いのが問題だな。


 とはいえ今から階段を上ってみんなを呼んでくるって言うのも難しいし……。


 唯一の望みは、俺が生神だってこと。生神には物理攻撃が効かないらしい。神殺しの武器でないとどんな武器でも俺にはダメージにならないってことで。しかしワー・ラットがそうでないという根拠はない。


 さて、どうするか……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ