第23話
「しゃあああっ」
「しゅうっ」
幼いドワーフを庇って、淡い燐光を放ちながらリウスが戦っていた。
相手は皮膚の色がピンクと言うなんとも能天気な色をした、リウスよりもう一回り小さいトカゲのような……なんて形容すればいいんだろう、とにかく見た目能天気な生き物だった。
俺は即座に端末を向け【観察】した。
【ラスト・モンスター(個別名なし):レベル10/戦闘レベル1/属性:獣/錆/鉱石
敵対勢力によって生み出された魔獣。金属や鉱石を錆に変え、その錆を食べるという習性を持っている。その食性から鉱山などでしか生きられない。コボルトに飼われて鉱山に出没することが多い。戦闘能力は低いが鉱脈そのものや神の装備すら錆びさせる力を持ち、それを食らって成長し巨大化し、最終的には鉱山を食い尽くして餓死する】
なるほど、これがドワーフにとって最悪の魔獣、ラスト・モンスターか。戦闘能力は低いけど、俺が創った装備まで錆びさせる……つまり金属を使わない装備なら大丈夫なんだろうけど……でも戦闘能力は低いな……。
「しゃあああああああ!」
ラスト・モンスターは尾を振り上げて、リウスを威嚇する。しかし躊躇わずにリウスは後脚で立ち上がり……。
前脚に全体重を乗せて振り下ろした。
ぷち。
「しゃふぁああああ!」
ラスト・モンスターは悲鳴を上げて塵と化した。
「ラ、ラスト・モンスターを倒した……」
「一撃で……」
「リウス! リウスー!」
リウスはくるりと振り向くと、すぐに幼い主の下に行った。鼻面を寄せて腰を抜かして座り込んでいた主を安心させるように顔を擦り付ける。
ぐしゃぐしゃになった主の顔をペロンと舐めて、リウスはその傍らに座り込んだ。
「すごい……」
「言ったろう、生神様がラスト・モンスター対策に創ってくれた生き物だって」
「ここまで強い生き物だとは思わなかった……」
「それを一人一頭ずつ創ってくださると?」
「それくらいの数がいればあとは自然繁殖で増えるだろ」
「うわあ……すごい……」
「じゃ、じゃあ、俺は……」
「儂は」
「僕は!」
たちまち俺の前に列ができた。
「じゅ、順番に! 全員に創るから!」
全員、……何て言うか、生まれて初めてペットショップに来た子供みたいに興奮して並んでいた。
にしても、好みの毛色って十人十色だなあ。
鉱山住まいのドワーフだから金色とか銀色だと思ったら、黒がいいって言われたり金だけど額に星(馬の顔の白い模様を星と言うらしい)が欲しいとか言われたり。ヤガリくんにこっそり聞いたら、ドワーフは昔からエルフが森を移動するのに使う馬が羨ましかったらしい。そう言えばレーヴェも乗る動物欲しがってたっけ。お互いないものねだりで逆恨みと言うか。
さすがにYをポチるのも嫌になってきたところで、全員分のアシヌスが完成した。
おお、同じ作り方をしたのに、主になるドワーフの好みで色々毛色とか毛並みとか毛質とかで全然違うイメージのアシヌスになってる。何か野良猫の集まる場所っぽい。
「可愛い! 可愛いなこいつ!」
「しかも強いんだな!」
「ラスト・モンスター倒してくれるのもありがたいのにこっちを守ってもくれるんだな!」
「気に入った?」
軽く腕の筋肉が疲労を訴えるのを腕を回して解しながら。聞いた俺に、ドワーフは全員大きく頷いた。
「よし、お前の名前はアリだ」
「オレのはリベリウス」
「ホワウト」
それぞれ名前を付ける。
その様子を、一番最初に創ったアシヌスが、寂しそうに見ていた。
ヤガリくんの背中に頭ごっちんする。
「? どうした」
「ああ、寂しいのか」
「寂しい、とは?」
「自分以外のアシヌスには主と固有名称があるのに、自分にはないって」
「そうか、お前には主はいなかったな……」
しかし、とヤガリくんは悩む。
「聖地以外の場所で生きていけないお前を連れ出すことは……」
「アシヌスは生神や神子の傍なら大丈夫だぞ」
「……しかし、世界中を巡るのにこいつを連れて行くのは……」
しゅう、と純白のアシヌスが息を漏らす。寂しげな溜め息に近い。
「可哀想って言うなら、このままここにおいてかれるのも可哀想だぞ」
「しかし……」
「自在雲は広がるし、なんか力仕事がある時にアシヌスが役に立つこともあるだろうし」
ヤガリくんはう~ん、と考えた。
「ブラン」
白いアシヌスが顔を上げる。
「一番最初のアシヌスは、ブランって名前で、おれの相棒だ」
「ふしゅう!」
鼻息のような声が喜んでいた。ヤガリくんに頭ごっちんしてスリスリしてる。見た目はロバに近いけど、仕草は猫に近いなあ。
「とにかく、これで全員分のアシヌスが出来たわけだけど」
みんなもう、自分のアシヌスにデレデレ。可愛がってもらえそうだなあ。自分が創った存在を可愛がってもらえるのは嬉しい。けど、人の話は聞いてほしい。
「定期的にこことエルフの泉に来るけれど、アシヌスとか鉱山のことで困ったこととかあったら何かにまとめといて」
「わかったわかった」
本当に分かってるのかいな。
「可愛いなあオレのステラは」
「うちのフシュマイスも可愛いぞ」
「こんな生き物が鉱山で役に立ってくれるって」
「何度鉱山やめて可愛い動物に会いに行こうと思ったか……」
……ドワーフにもモフモフを愛する心があるらしい。
さて、これでエルフとドワーフは安全になったんだが。
ヤガリくんとブランと一緒に【転移】して、エルフの泉に戻った俺に、シャーナさんが申し訳なさそうな声を上げた。
「何?」
「あの……神子も増え、エルフとドワーフの方々が安全になった今、原初の神殿を何とかしていただけないでしょうか……?」
そう言えば。
忘れてた。俺が一番最初に辿り着いた神殿。干し肉とパンを【再生】したっきりほったらかしだった。
「そうだな。神殿にも人が戻っているかもだし、敵対戦力に攻め込まれても困るし……よし、一度戻って、これからのことを話すとするか」
最初はシャーナさんと俺だけだった。今じゃレーヴェ、コトラ、ヤガリくん、アシヌスのブランが増えて賑やかになった。
この世界を【再生】するにはもっとたくさんの神子や生き物がいるだろうけど、とりあえずは原初の神殿に戻ろう。あれは最初から俺のために創られた神殿だから、また何か出てくるかもしれないし。




