第22話
その前に、と【観察】をアシヌスに向ける。
【アシヌス(個別名なし):レベル1/戦闘レベル50/属性:獣/聖/大地/岩/鉱石
生神に創られた神獣。石や土を主な食糧とし、小柄だが力仕事に向いた体躯をしている。夜目が利き、燐光を放って居場所を主に伝える。戦闘能力としては、力強い足と尾による打撃攻撃、強靱な歯による噛みつき攻撃。生神とドワーフ族の命に従う。生神や神子の傍、あるいは聖地以外では生きられない】
「戦闘レベルもあるし、そこそこ活躍できそうだな」
「聖地以外にも神子や生神様の傍なら生きられるのですね」
「聖地と言うよりは聖なる存在の場所でしか生きられないんだな」
「他の場所に逃げ出して退治されるよりはいいからね」
ヤガリくんはアシヌスに恐る恐る手を伸ばす。
アシヌスは差し出された手の匂いを嗅いで、その手に頭を擦り付けた。
「お」
「可愛いですわね」
「ドワーフ族に従うことになっているからね、ヤガリくんに懐くよそりゃ」
「よしよし」
ヤガリくんが首筋を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。
「どう? 役に立ちそう?」
「ああ。思っていたそのまま……いや、それ以上だ」
ちょっとドワーフの所に行ってくるから、と伝えて、俺とヤガリくんは【転移】を初めて試してみることにした。
「わたくしたちは?」
「ここで待機してくれ。レーヴェとコトラも置いてくから」
「騎士に主の傍を離れよというのか?」
戻ってきたレーヴェが不満を口にした。
「違うよ。レーヴェとコトラとシャーナがいればここは多分安全だ」
「シンゴ様は大丈夫なのですか?」
「大丈夫。ヤガリくんもいるし、アシヌスも向こうで少し増やすつもりだし」
俺はコトラに手を伸ばした。
「この泉を守っていてくれるかな?」
「ぅな!」
「よし、頼んだ。行くぞヤガリくん!」
「おう!」
オレはM端末を手にした。
「【転移・無窮山脈生神神殿】!」
しゅうう、と空気が渦巻いて、俺とヤガリくんとアシヌス第一号は無窮山脈生神神殿に辿り着いた。
「なるほど……これが転移か」
「俺も初めて【転移】したけど、自在雲でも一日以上かかる距離を一瞬だからな、便利だな」
「生神様!」
聖地への降臨に気付いたドワーフたちが集まってきた。
「ラスト・モンスターは?」
「今のところはいない。……が、コボルトの影を見かけたような気がする」
「やっぱ襲撃が近いか。エルフの泉にもオークが現れたし」
「コボルトがラスト・モンスターを連れて出てくれば、武器も防具も鉱脈や鉱石も何もかも食われてしまう。何とかなりませんか生神様」
「こいつどう?」
アシヌスをドワーフたちの前に差し出す。
「何だ? この生き物」
「シンゴ……生神がドワーフのために作ってくれた神獣だ。種族名はアシヌス」
「美しい……美しい生き物だが」
ドワーフの老人が難しい顔をする。
「鉱山には向かんぞ」
「向くんだ」
ヤガリくんはアシヌスの鼻面を軽く叩く。
アシヌスは足元の土を黙々と食べていた。
「アシヌス、飯は後だ」
「飯?」
「ああ。これはアシヌスと言う神獣だ。ラスト・モンスターとコボルトからおれたちドワーフを守るためにシンゴが創ってくれた」
「守るって……そんな強そうに見えないけど」
「強いぞ。おれと同レベルには強い」
「ヤガリとか?!」
ヤガリくんはするすると滑る毛皮を撫でてやった。
「しゅう」
息を漏らすような鳴き声。そういや鳴き声設定してなかった。
「餌は土と石だから、鉱山を掘っている限りこいつらが飢えることはない。頑丈で強力だから、トロッコの代わりになる。そして、ラスト・モンスターの餌となることもない」
「すう」
アシヌス一号は尻尾を軽く振って頷いた。
「足と尾と歯で戦える。錆びるものじゃないからラスト・モンスターが出てきても大丈夫だ。そして、ドワーフ族の命に従う。鉱山の手伝いとラスト・モンスター対策、一挙両得」
「う~む……」
一番年かさのドワーフが腕を組んで唸った。
「確かに足も太い。見た目と違って丈夫そうだ。だが、一頭だけでは」
「増やせる」
「干し肉を増やしたようにか」
「俺が増やせないのは人間って呼ばれる種類だけだからね。でも、まったく同じのを増やしてほしいか、それとも一人一頭ずつ好みの毛色をしたのを創るか」
おお、と歓声。
「白だけじゃないのか?」
「とりあえず考えただけだから。色の変更とかは楽勝で出来ると思う」
「じゃ、じゃあ。ぼくは」
一番幼いドワーフが手を挙げた。
「栗毛色の、もうちょっと小さいのがいい。ぼくも乗れる?」
「乗れるよ。ドワーフの言うことを聞く動物だし、元々荷運びとか鉱山内の移動用に創ったし」
「じゃあ、じゃあ、よろしく!」
「任せろ」
【神威・創造】、Y!
カッと光が走り、思った通りちょっと小柄な栗毛色のアシヌスが生まれた。
「このアシヌスぼくの? ぼくの?」
「うん」
幼いドワーフは手を伸ばして首筋を撫でる。栗毛のアシヌスは鼻面を寄せてドワーフの胸の辺りに頭ごっちんをする。
「すごい! かわいい!」
「可愛いだけじゃないぞ。乗れるぞ」
栗毛のアシヌスは身を伏せて乗りやすいようにする。幼いドワーフがよじ登ると、アシヌスは何の苦も無く立ち上がる。
「前へ行け、って言えばいいの?」
「ドワーフの言うことを聞くから」
「よし、すすめー」
栗毛のアシヌスは幼いドワーフの言うとおりにぽっくりぽっくり歩き出す。
「よし! お名前はリウス! お前のお名前はリウス!」
「ふしゅう」
吐き出した声が弾んでいた。
「手入れはしなくていいのか? 蹄鉄とか」
「そんな特別なことはしなくてもいいけど。時々爪の様子を見てやったり、洗ってやったりすると良いと思う」
「つまり普通の家畜扱いでいいわけか?」
その時。
「うわあああ!」
悲鳴が聞こえ、俺たちはすぐに駆けだした。
鉱山の中でぽっくりぽっくりしていた栗毛アシヌスと幼いドワーフが向かったところだ、と慌てて追いかけた。




