第21話
「鉱山で必要とされる動物?」
うん、と頷いた俺に、ヤガリくんは考え込んだ。
「……う~ん……馬やロバのような……それでもう少し小柄な生き物がいればと何度も思ったが……」
「小柄な生き物?」
「そう、これくらいの」
頷いた俺にヤガリくんはこのくらい、と、そう身長の高くない俺の胸辺りを指した。
「おれたちは鉱山を掘るだろう? 鉱山と言えばトロッコと思われるだろうが、あれは設置するのに手間と時間がかかるんだ。しかも鉱脈が尽きれば廃線にするしかない。労力の無駄遣い。だから、頑丈で荷を運べておれたちドワーフも操れる動物がいれば……と思った」
「ふぅん……」
「だが、鉱山には餌となる生き物がいないし、水も少ないから、そう都合のいい動物はいないんだ」
「餌か……」
今度は俺が考える番だった。
「鉱山で一番出るのは何なんだ?」
「一番出る……それなら土や石だ。深い鉱脈を探すにも、鉱石を掘るにも、大量に土や石が出る。トロッコは掘って出た土や石を運び出すためにも使われたんだ」
……何か見えてきた。
餌は土や石で……重労働に耐える筋力……渇きに強くて……ドワーフの命令を聞けるほどには賢くて……コボルトを蹴散らせる程度の戦闘力があって……。
「馬みたいに四つ足がいい?」
「そうだな、確かに獣は四つ足が一番多いな」
「見た目は綺麗なのカッコいいのどっち?」
「キレイもカッコいいも鉱山の中で働かせる生き物に必要じゃないぞ。頑丈で荷を運びやすい体型なら何でもいい……って、さっきから何を」
「いや、無窮山脈のラスト・モンスター対抗策を」
「動物の話から何がどうしてそうなった」
「コトラを見て思ったんだけど、ラスト・モンスターは要するに錆を食うんだよな」
「ああ」
「つまり、鉱石や金属の武器じゃなければ大丈夫なんだよな」
「……要するに……己の爪や牙を武器とする獣なら、と?」
「うん、でも、生き物である限り餌がなくなったら飢えて死ぬだけだから、あえてラスト・モンスターを餌にするんじゃなくてたくさんある石や土を食べて、ラスト・モンスターやコボルトを倒せるだけの力を持って、鉱山の手伝いができる生き物がいれば、生神や神子がいなくてもラスト・モンスター対策が立てられるわけ」
「なるほど……確かにその手はありだな。価値のない土や石を餌とし、荷運びをしてくれて、敵と戦える獣か……」
「コトラのおかげで【属性:獣】があって、【属性:大地】【属性:鉱石】があるから、そう言う獣を作れるはず。そうすれば」
「ラスト・モンスターをこちらから狩ることもできるわけだな」
「うん、そう言うことができるかな、と思って」
「そういう獣がいれば、ああ、おれたちにとっても頼もしい」
「じゃあ話を詰めよう」
「どんな形がいい?」
「基本はロバだな。もう少し小柄で力のあるロバ。おれたちが引いて歩けるくらいには従順であってもらわないと困る」
「うん、足はかなりごつくなるな」
「当然だ、土や石や鉱石を運ぶのだから」
ヤガリくんが地面に枝で絵を描き始める。
基本的にはロバっぽいけど、もっと足が頑丈。土や石を食べるから歯も頑丈。となると、前脚で踏みつけて、後脚で蹴り上げて、噛みつく。尻尾にも攻撃能力があると良いな。暗い世界で生きるから夜目が利いて、やっぱり暗いから色は明るい方がいい。ドワーフには従順で、そこそこの知能もあって……。
土の上に、四つ足の白い毛皮で頑丈で立派な生き物が完成した。
「何をなさっているのです?」
それまで自在雲の上で大人しく座っていたシャーナが覗き込んできた。
「あら」
「こういう獣を作って、無窮山脈を守ろうかと」
土や石を食べて、物を運んで、と説明していると、不意にシャーナさんが難しい顔をした。
「その動物って、山から出たら地面を食い荒らしたりしません?」
「あ」
「そうだ、その問題があった」
「どうしよう」
「無窮山脈から出られないという習性をつければどうでしょう?」
「鉱山以外では生きられないとした方がいいな」
「んー……動物としてはそれはどうかとも思うけど、山脈から逃げ出してあちこちで石や土を食い荒らしたら困るし害獣になるし……たくさん子供を産まないって制限と、あとは無窮山脈から出られない……」
「生神様が創造なさる動物でしたら、無窮山脈から出られないと言うより、聖地でしか生きられないという方がいいと思いますわ」
シャーナの言葉に、思わず俺とヤガリくんは顔を見合わせた。
「無窮山脈はドワーフの聖地なのでしょう? 聖地でしか生きられないとなれば、生神様の被創造物と言う神秘性が増しますもの」
「なるほど。それなら他の場所でも生きようと思えば生きられるし」
「ここで作ってみることもできるね」
ヤガリくんとシャーナの協力で出来上がった獣のデータを頭の中にいっぱい詰め込んで、端末を起動する。
「【神威:創造】!」
馬を二回りほど小柄にして二十倍ほど頑丈にしたような生き物が、澄んだ瞳でこっちを見てきた。
白い毛並みはわずかに燐光を放ち、とても地面の奥底で土を食う生き物には見えない。角のないごついユニコーンみたい。
「あら、素敵」
「いいのか? こんなに美しい生き物をドワーフのものにして」
「ドワーフのために創ったんだから」
「何をだ?」
リーヴェさんが覗き込み、その獣を見て絶句する。
「なんだ……この生き物は」
「無窮山脈のラスト・モンスター対策兼鉱山で働く家畜を作ろう計画の結果」
「こんなに美しい生き物を鉱山でか?!」
「……もしかしてレーヴェ、欲しい?」
「ああ」
「おれたちドワーフ族のために生み出されたものだぞ!」
「土を食うけど」
「構わん」
「石も食うけど」
「構わん」
「地面を食い荒らすけど」
「……え」
「鉱山で生きる獣だから土や石を食うんだよ。そういうために生み出されたんだから」
レーヴェはちょっと残念そうな顔をした。そういやレーヴェは騎士だけど馬がいないんだよな。それで余計欲しかったのかも。あとから何か作ってあげよう。
「こいつらの種族名はどうしようか」
「……神驢という意味で、アシヌス」
ヤガリ君が言った。
「こいつは一番最初のアシヌスだ」
「神様のロバですか。素晴らしいお名前」
「じゃあ、早速こいつを連れて、無窮山脈に転移しよう」




