表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/155

第20話

 ヤガリくんは深刻な顔で言った。


「無窮山脈に現れたのはラスト・モンスターだけじゃない」


「他の敵がいると?」


「……ああ。コボルトと言うモンスターだ」


「こぼると……? ちょっと待て、今調べる」


 俺は端末で検索した。


【コボルト:主に鉱山に出没する、敵対勢力に創り出された亜人種。身長は低く、犬頭人体をしていて、闇でも目が見えるし鼻も利く。知性は個体によって差があるが全般的に人間と呼ばれる人種よりは低い。ラスト・モンスターを飼っていて、その餌を採取するために共に鉱山に現れることが多い】


「って説明で、合ってる?」


「合っている」


 ヤガリくんはこくりと頷いた。


「つまり、鉱山で一人または少人数でコボルトとラスト・モンスターに出くわすと、とても大変なことになるんだ」


「どんなふうに」


「おれは斧を持っている。コボルトはそんなに強いモンスターじゃないから斧で一掃できる。ところが一緒にラスト・モンスターがいると、武器も防具も、金属や鉱石は全部錆にされて貪り食われてしまう。攻撃も防御も出来ない所を狙ってコボルトが攻めてくる。戦えずボロボロにされ、そのままコボルトに連れて行かれた仲間が大勢いた、おれも仲間が時間を稼いでくれて助かったことがあるが、その仲間とはそれ以来会っていない」


「……つまり、コボルトはドワーフを誘拐している?」


「ああ。だが、連れて行かれた先で何をさせられているかは分からない。コボルトに連れて行かれたドワーフが帰還したことは一度もないからな。ただ、考えられることはある」


「考えられる、こと?」


「コボルトは知性が低いと言っただろう。それをわざわざ手の込んだ真似までして連れて行くなど、コボルトとの考えとは思えない」


「敵対勢力……そいつらの所に連れて行かれた」


「そう考えるのが自然だろう」


 ヤガリくんは頷く。


「ドワーフは鋼の一族。もしかしたら、敵対勢力と呼ばれるモンスターが持っている武器を作ったのは、連れて行かれた仲間たちかも知れない」


「……そうだよな、全部壊すことを目的としている勢力が、自分たちで武器を作れるとは思えない」


「いつか……いつかでいい、もしシンゴがそんなおれの仲間を助けたいと思ったら、おれに声をかけてくれ。おれもそれまでにもっと強く、コトラに頼らなくても勝てるほど強くなる。おれを神子にしてよかったと、必ず思わせて見せるから」


「ああ、約束する」


 だけど、と俺は付け加えた。


「今この時点でも、ヤガリくんを神子にできて、良かったと思っているよ、俺は」


 たっぷり十秒、絶句した後、ヤガリくんは頭を下げた。


「……その言葉に応えてみせる、友人」



 ソルジャー・オークを撃退した喜びもようやく落ち着いて、レーヴェが我に返った。


「取り合えず、当初の目的を果たそう」


 レーヴェは剣の血を拭って言った。


「農具の再生を」


「そうだ、それが最初の目的だったな」


 俺とみんなで農具小屋へ向かう。


「一応、再生が可能だと思われる農具は全部集めたんだけど」


 エルフの少年が農具小屋のドアを開けた。


 ぎっしり。


 いやあボロボロがたくさんだ。何処からかき集めてきたのこれ。


 鉄の部分は錆びているし木の部分は腐ってるし。農具、って言うのがクワくらいしか思い浮かばない俺にはボロの集合体としか思えない。


 まあ、元の姿が分からなくても【再生】できるのが【神威】の便利なところだけど。


 端末を向けて、【再生】、Y。


 カッと光が閃いて、ボロの集合体が立派な道具になった。


 木と鋼で作られた、はっきりと道具と分かるものが並んでいた。


「おおおおお!」


「農具が、全部、新品に!」


「これなら、ドワーフに食糧をやらなくても!」


「オークの襲撃はどうすんの」


 俺のツッコミに、一瞬盛り上がりかけていたエルフたちは黙りこむ。


 因縁アリとは言え、ここまでもめるかねえ……。


「そ、うだ、生神様が創ってくだされば!」


「俺がここに住めばいいって?」


「そ、そう、そうすれば何の問題も」


「俺が再生したのはモーメントって世界のほんの一部。森エルフだけが助かればいいって言うのなら、俺もずっとここにいるけど?」


 まさか、他の場所はどうでもいいからここにいてくれって言える超ワガママなヤツは普通いないだろう。


 当然、エルフたちはしばらく黙り込んでいたが、無言で農具小屋から農具を取り出して、森の空き地に作られた柵で囲われた中を耕したりし始めた。


 うん、少なくとも、畑を作り直そうって気にはなったな。


「さて、これからどうするかだなあ」


 俺は腕を組んだ。


 森エルフは弓矢の使い手ってことは、自分たちで畑を耕しつつオークに対抗できるんだろう。ドワーフも戦斧の使い手で戦うのが上手いって言う。レーヴェやヤガリくんが例外ってわけでもないはず。神子じゃなくてもそこそこ戦闘力はあるはずだ。ソルジャーやソルジャーリーダー、それ以上が出て来たら厄介だろうけど。


 問題なのが、鉱山に出るかも知れないラスト・モンスターだ。


 どんな武器や防具で固めても、それを錆させてしまう能力の前では無意味だ。金属や鉱石じゃない武器か、魔法……。


 シャーナが魔法を使えるって言うけど、攻撃的な魔法が使えるかどうかは怪しい。となると【直接戦闘】しかないだろうが、エルフに言った通りに俺がずっと鉱山にいるわけにもいかないし。


 錆びない攻撃かあ……。


「ぅな」


「ん?」


 頭ごっちんされて、やっとコトラに気付いた。


 そこで、気付く。


 コトラは武器も防具も装備していない。牙と爪と身体能力だけでソルジャーリーダー・オークを一撃で仕留めた。ってことはラスト・モンスターの錆にも対抗できるってことだ。


 俗に猛獣、と呼ばれる生き物なら、錆びさせる以外に能のないラスト・モンスターを被害なしで倒せるってことだ。特にコトラクラスの猛獣なら、コボルトごとぶっ倒してくれるはず。


 ラスト・モンスターの天敵のような獣を生み出せば、ドワーフたちも安心なんだけど……。


「ぅなーお」


 その鳴き声は、頭の中で「腹減った」と変換された。


「分かった、今、やるから」


 干し肉を【増加】して、コトラにやる。


「ぅなっ、ぅなっ、ぅなっ」


 尻尾をピンと立てながら干し肉を貪り食うコトラ。


 そうだ、ラスト・モンスターがいなくなれば、対ラスト・モンスターで生み出した獣は用済みになるんだ。


 何かラスト・モンスターの天敵以外の特徴を持った獣じゃないと、ラスト・モンスター全滅後に生き延びられないって話か……。


 そうだ。


 俺はヤガリくんの所に行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ