第16話
鉱山無窮山脈を出た所で、俺は【再生】をかける。
途端に荒れ果てた地面は鮮やかな緑を生み出した。
「本当に、すごいな」
ヤガリくんは感心していた。
「神の力は、使いたい放題なのか?」
「え?」
「パンを何度も増やしたように、一日何処までしかできないとか、そう言うルールがあるのでは?」
「あー、確かに」
それは調べてなかった。
広がった森の中、雲を低速で移動させながら、俺はM端末で調べる。
それによると、【神威】は一回に一度しか使えない。ただ、連続で使ったり別の【神威】と組みあわせて使うのは問題ないらしい。つまり、一度の【増加】で規定以上パンを増やす数を倍にすることはできないけど、直後に【増加】してパンを増やすのは全然問題ないらしい。
う~ん、神の力。
その説明を聞いたヤガリくんも、しばらく口をぽかんと開けていた。
「神の力に限度はないのか」
「いや、力は信仰心だから、神子が俺のことを信じてくれれば、もっと強い力が使えるし、神子が俺を見限れば俺の力はなくなる」
その時、M端末に文字が浮かんだ。
【チュートリアル2・敵対勢力との戦い】
「敵対勢力?」
滅びかけた世界に敵対する勢力なんてあるのか?
俺は森エルフの泉に向かって真っすぐ雲を走らせながら、チュートリアルを見る。
【ワールド・モーメントには、生神と敵対し、この世界を滅ぼそうとする勢力が幾つか存在します。これまでの生神の行動によって、生神の降臨を知った勢力は、生神を抹殺しようとするでしょう】
「は?」
どうしたどうした、と神子たちが集まって来るけど、まだチュートリアルは続いているので俺は画面を滑らせながら説明を見続ける。
【そのうちの一つが接近しているようです。敵対勢力はワールド・モーメントに属する存在ですが、世界を滅ぼそうとする存在でもあります。生神が世界を再生しようとする限り、戦いは避けられません】
どうすれば……。
画面をスライドさせると、次の文章が出ていた。
【生神の戦い方には、直接戦闘・援護戦闘があります。生神自らが武器を持って戦う直接戦闘と、戦闘が得意な神子に任せて援護する援護戦闘です。直接戦闘は生神が、援護戦闘では神子が負傷あるいは死亡する可能性があります】
「マジか」
「何の話だ?」
「いや、もうちょっと待って、全部出たら説明するから」
画面にはチュートリアルが浮かび続ける。
【《《生》》神である限り、死からは逃れられません。無論通常の手段での神殺しは不可能ですが、神に通用する武器などで攻撃された場合はダメージを受け、最終的には死に至ることもありますので注意してください】
「マジか」
【直接戦闘・援護戦闘にそれぞれに向いた【神威】があります。今襲撃してくる敵対勢力にどちらで立ち向かうか選択してください】
そこまで出て、やっと俺はみんなに敵対戦力のことを話した。
「神を殺そうとする?」
「このまま世界が滅んでしまえばいいと言うのか。理解できない」
「理解できずとも、敵は攻めてきます。どう対応するか……」
「この剣を【再生】してもらえれば私は戦える」
「おれの斧も【再生】してもらえば十分戦える」
リーヴェもヤガリくんも錆びた得物を掲げ、戦闘準備態勢に入っていた。
「いや、ここは……」
俺は少し悩んでから、言った。
「俺が戦おうと思う」
「危険です!」
「死ぬ気か?」
「ぅな!」
「死ぬ気はないよ。ただ、今、神子を失うのは痛い」
「痛い?」
「少なくとも森エルフの大樹海とドワーフの無窮山脈を立て直そうって時に、【属性・植物/獣/大地/鉱石】を失うわけにはいかない。それに、敵が神に通用する武器を持っているとも限らない。神殺しの武器さえなければ俺は傷付かないって言うんだから、それなら俺が対抗したほうがいい」
俺は雲を止めて、【直接戦闘】を選択した。
M端末に新たなステータス。
【遠矢真悟:生神レベル28/信仰心レベル11200/戦闘レベル1
神威:再生10/神子認定4/観察6/浄化6/転移1/増加4/創造2/直接戦闘3/援護戦闘1
属性:水5/大地3/聖6/植物4/獣4/岩3/鉱石3
直接戦闘神威:[攻撃]水流・水/[防御]木壁・植物
固有スキル:家事全般/忍耐
固有神具:自在雲/導きの球】
戦闘神威、これか。なるほど、持っている【属性】で決まるわけだな?
【神威名を唱えることで、神威は発動します。声が大きければ大きい程威力は上が
ります】
なんだそれ恥ずい。技の名前叫べってか。
しかしそうしないと戦えないって言うのなら……。
引き留めようとする神子たちを雲に乗せておいて、俺は大地に降り立った。
敵意が近付いてくるのが分かる。
戦ったことなんて、ない。
親なしと言うことでいじめられたことならあるけど、あいにく俺は大人しくいじめられている子供じゃなかった。きっちり報復するタイプだった。おじさんもそういう時は加勢してくれる人だったので、いじめっ子とその親に頭を下げさせるまで報復はやめない人間で、……それでも、命懸けの戦闘ってのはしたことがない。
さて、この水流と木壁でどう戦うか。
荒れ果てた大地の向こうから足音と人影。
俺は身構えて《《そいつら》》が来るのを待った。
「何者だ!」
叫んだのはあっち。豚面をした小柄な人間としか言いようのない連中。
「そこで何をしている!」
「さて、なんだろうね」
腕を組んで、相手を見る。
相手は剣を構える。
どう見ても、錆びた剣でしかなく、神殺しの武器には見えない。
だけど、一応。
「木壁!」
恥ずいのを我慢して叫んだ途端、地面から茨の弦が無数に現れて壁になり、襲撃者の行動を妨げた。
「なっ?!」
「おお。すげえ」
自分がやったこととはいえ、まあ……。
「植物だと?! あの忌まわしい生命を出すとは……」
「こいつ、もしや」
「生神か?!」
「当たりー、からの……」
俺は腹の底から大声を上げた。
「水流!」
ずががががっ!
地面を割って出てきたのは、水。
うねるように水流は豚面を薙ぎ払う。
「ぴぎゃあああ!」
悲鳴を上げて、豚面はしゅん、と姿を消した。
【ノーマル・オークを三体倒しました。レベルアップしました】
チュートリアル再び発動。
あの豚面はノーマル・オークって言ったのか。
【遠矢真悟:生神レベル30/信仰心レベル12000/戦闘レベル3
神威:再生10/神子認定4/観察6/浄化6/転移1/増加4/創造2/直接戦闘5/援護戦闘1
属性:水5/大地3/聖6/植物4/獣4/岩3/鉱石3
直接戦闘神威:[攻撃]水流・水/[防御]木壁・植物
固有スキル:家事全般/忍耐
固有神具:自在雲/導きの球】
わーいレベルアップ。
「無事ですか?!」
「無事だよ」
と、チュートリアルが続いていた。
【戦闘神威は攻撃と防御に分かれます。生神が想像した神威に名前を付け、その名前を声に出してください。それが今後使える【神威名】となり、同じ効果の神威をいつでも使えるようになります。水流と木壁の名前変更も可です】
え、オリジナル神威は名前つけなきゃなんないの?
コトラで分かるように、俺のネーミングセンスは、はっきり言って、ない。
「あの」
「ん? シャーナ?」
「何かわかりませんが、とりあえず移動しながら考えません? あのような魔物が出てきたのですし」
「魔物?」
「恐らくは敵対勢力。私たちを殺そうとする生き物を魔物と言います」
「……世界を滅ぼしたい勢力か」




