第152話
「てえりゃああ!」
「ぬんっ!」
神の剣同士がぶつかり合い、火花を散らす。
魔神の攻撃は、一撃一撃が、重い。
両手剣の全力での攻撃は、今まで受けた攻撃の中でも一番強い。
それを水鏡の盾で受けるのは、正直キツイ。
おじさんてこんな怪力だっけ。いや、神の力でブーストしてるんだ。
なら、俺も!
「俺の……力になれ!」
魔獣の信じてくれる力がある。それを【混】の属性で俺の力にする。
信仰心とは言え、その力は破壊の力。そして、生神である俺にとって、破壊とは決して無縁の力じゃない。
だって、何かを作るためには何かを壊さなければならないから。
だから、魔神にも逆に創造の力があるはずだけど、魔神的考えでは自分にはそんな力などないと思うんだろう。そして、死物の正義だって、自分のそれと違っているとは思ってもいないんだろう。
生物にも、死物にも、生きている存在それぞれに正義がある。
魔獣にだって。
魔獣が死物の正義から解放された途端に俺に味方したのは、魔獣たちの正義は魔神の正義とは違うという証拠。
確か、なんか名言があったな。
みんなちがって、みんないい、って。
結局そう言うことなんだよな。
おじさんが激怒したのは、自分の正義を揺るがす存在が現れた時だった。
自分の正義を傷つけられるのを放置できない。
そう言う人だった。
だから、魔神は今、激怒している。
自分の正義を教えた甥っ子が、真っ向からその意見に反論したんだから。
正義を教えたはずの俺が敵に回る。俺も最初おじさんと戦うなんて認められなかったけど、おじさんも俺と戦うことになるなんて思ってなかったはずだ。
だからこそ、悔しいんだ。
正反対ではあるけれど同等の力を持つ相手に、自分の正義を否定されたんだから。
だから。
「つぅりゃあっ!」
魔神は禁断の剣を持ち直し、横薙ぎで襲ってきた。
仰け反りになって何とか剣を交わす。
だけど、無茶な体勢をしたものだから、そのままぺたん、と尻もちをついてしまう。
そこへ迫る剣の切っ先。
俺はゴロゴロと横に転がって何とか回避する。
「シンゴ!」
「大丈夫だベガ! それより」
俺は心の中で叫んだ。
(サーラたちを解放する方法はあるのか?!)
(魔神の中に封じられていると言うのであれば、あの仮面のキャッツアイルビー)
ベガの意識は伝えてくる。
(あのルビーは魔神の第三の目と繋がっている。第三の目は魔神の力の源。そこにサーラたちを封じることによって、シンゴとサーラたちのつながりを弱めているんだ)
(じゃあ、あのルビーを壊せば?)
(恐らくは。例えそこにいなかったとしても、魔神の力の一部を大きく削ぐことになるのだから、無意味ではないだろう)
(ありがとう、ベガ!)
(気持ちは分かるが、しっかり倒せ!)
「了解!」
俺は返事を声にして叫んだ。
しかし、この距離で、あのルビーを破壊することは難しい。天剣なら砕けるかも知れないけど、仮面を斬りつけるのが難しいだろう。
なら……。
魔神の剣戟を避け、俺は大きく後ろ向きにジャンプする。
禁断の剣の範囲外に出た。
「謝る気になったか?」
「ならないね」
俺は体の中を駆け巡る力に、属性を与えた。
そして、その呼び名も。
力に属性を与えて名をつけて具現化する。それが、魔法とも、神威とも呼ばれる力。
「光の粒、いっぱい!」
叫ぶと同時に、無数の光の粒が俺の全身から現れた。
……ネーミングセンスは相変わらず最悪なので許してほしい。
とにかく、現れた光の粒を動かして見る。
光の粒は、別々に、バラバラで、俺の望んだとおりに動く。
「じゃあ……光の粒、行け!」
俺は魔神を指差した。
光の粒はそれぞれ軌跡を描きながら魔神に向かって飛ぶ。
「この程度で、私を何とか出来るとでも?」
出来ると思ったからやってるんだけどな。
魔神は闇の盾を張り、光の粒を受け止めようとするが、粒は大きく迂回したり上から下から魔神を襲う。
「闇粒!」
おじさんの身体から闇の粒が現れ、光の粒目指してぶつかっていく。
相殺するつもりか。
でも、信仰力の強さでは俺が上、その分数を出せる!
俺は次々に光の粒を生み出しては指した魔神に向けて飛ばす。
魔神が小さく舌打ちした。
相殺しきれない……ある程度は受けなければいけないと覚悟したか。
まあ、力を絞り込んだとはいえ数が数、一個一個は魔神を傷つけられても貫けるほどの力はない。
ある程度のケガは覚悟した。
それが、俺の狙い!
残った光の粒を、全身全霊で操った。
ぎゅうんっ! と音を立て、粒が合流して、光の塊になった。
「む?」
「悪いけど……仲間は……返してもらう!」
「しまっ……!」
魔神は気付いた。だが遅い! 光の塊が仮面のルビーにぶつかる!
俺は光の塊に力を注ぎ込む。
ぱきっ。
乾いた音がした。
「な……な!」
消えた光の塊の代わりに、紅蓮の光がそこから溢れた。
仮面の額から切り離されたように飛んできて……。
形を成して、オルニスの背に飛んだ。
「う……」
「何……」
「皆!」
ベガの声が聞こえた。
「安心しろ……全員、無事だ!」




