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第146話

「シンゴに……全てを教えたという、叔父上か?」


 この中では唯一おじさんの話をしたベガが、引っかかったような声を出す。


「ああ……間違いない」


 今まで気づかなかったのは、濃い気配のせい。


 世界を破滅に導く滅亡の神威が濃すぎて、俺とベクトルが真逆の破滅の神の存在が、三年前に死んだおじさんとなかなか結び付かなかった。


 魔神の話を聞いて、ようやくそれが俺と結びついたんだ。


 だけど。


「何で……何で、もっと早く、名乗り出てくれなかったんだよ」


「確信が持てなかったのでな。まさか魔神として送り込まれた世界の生神としてお前が来るとは予想がつかなかったんだよ……真悟」


 竜介おじさんは仮面を再びつけた。


 おじさんの厳しくも優しい顔立ちが隠れれば、俺と正反対の力の持ち主……魔神としか感じられない。


 でも、俺はその正体を知っている。知ってしまった。


 仮面の下にあるのは、俺の思考を、理想を、全て受け入れて育ててくれたおじさんであるということ。


 そして、おじさんが俺を嫌がる親戚から奪って引き取って育てたのは、愛情ではなく実験の為だった……。


「……今のモーメントに存在価値はない」


 おじさんは魔神の仮面をつけたまま静かに告げた。


 三年前に失われたと思った、何処か憂鬱そうな、しかし間違えない事実と真実を伝える声で。


「人も、獣も、荒み切っている」


「そんなことはないよ!」


 俺は声を張り上げた。


「お前は生神で、お前に従うのは神子」


 淡々とおじさんの言葉は続く。


「神子は生神の思想を理解している。故に、《《真っ当な人間》》として育ったお前の《《真っ当な考え》》に共感した。だが、その思想を理解し神子になれる人間はこの世界に数えるほどしかない。少なくとも、今まで出会い、滅ぼしてきた人間は、他者を蹴落として、屍を乗り越えて逃げ、最後には何でもするから見逃してくれと来た。中には共に逃げていた子供を差し出すこともあった。……そう言う人間を、生かしておいても意味はないだろう?」


 俺は反論しようとした。


 だけど、出来なかった。


 俺の思想は、おじさんが作り上げたもの。おじさんの教えを受け取り、俺なりに解釈して実行してきたもの。


 師であるおじさんを論破できるはずがない。


「だけど……そんなのばかりじゃないだろ?! 真っ当な人間だっていただろ?!」


「ほんの一握りはな」


 おじさんの淡々と告げる声は、真実を話しているという下地があった。


「その一握りは、神殿の牢獄に入っている」


「……え?」


「もう少し待て、真悟」


 おじさんは魔神の仮面を被ったまま、言った。


 仮面の額の部分にはキャッツアイのルビー。いつか聞いた、魔神の第三の目がそれなんだろう。


 それは赤々と、本当の目のように光っている。


「私が下らない人間を一掃する。何もなくなったモーメントを下地に、私とお前が認めた真っ当な人間だけの世界を一から作り上げるんだ、真悟。私が教えた、真っ当で正義を愛する者たちが生きる世界に」


「でも、それは……」


「お前はこの世界を全てとは言わないまでも旅してきただろう。どんな人間がいた? 新しい世界に生かせる人間はいたか? ……下らない人間が、圧倒的に多かっただろう」


 下らない人間。


 他の人間を蔑視しているエルフやフェザーマン。


 旅人である俺たちを売り飛ばして生き延びようとしたアムリアの人々。


 露骨に他者を馬鹿にした大人のアウルム。


 商人として訪れた俺たちを捕えたプセマ、プセマに任せれば何もないと彼の悪行を見逃して利益を得ていたケファルの人々。


 確かに……下らない。


 下らない人間ばかりだ。


 だけど……だけどさ!


「真っ当な人もいたよ……。一生懸命働いてる人もいた……蔑視されてもちゃんと生きてる人も、たくさんいたよ!」


「ならば、彼らを守れ」


 魔神は言った。


「世界中から真っ当な人間を集め、待つがいい。下らない人間を私は一掃する。その後の世界を生神、お前が再生すればいい。それが、魔神、生神としてこの世界に派遣された我々の存在理由レーゾン・テートル


「何だよ……それ……」


 俺の手が震えているのを感じていた。


「私は言ったな、真悟」


 おじさんの、感情のあまりない声が俺の耳に響き渡る。


「下らない人間を相手にしてはいけないと。他人を見下す人間にマウントを取られても放っておけと。それしか存在理由のない人間など、相手にするだけ無駄なのだと」


「……言った」


「そう言う人間ばかりなんだよ、モーメントは」


 額のキャッツアイルビーが赤い光を放つ。


「気にするな。私が手を汚す。お前は世界を作り直せばいい。正義をうたいながらも実行に移さなかった人間が、生神降臨までの整地をする。それが、私が魔神となった理由なのだろう。正義を行わなかったのだから、正義を行う人間だけを助けよと」


 おかしい……おかしいよ……。


 俺は思いながらも反論できない。


 人間を全部殺すなんてやっちゃいけないよ……下らない人間がいい奴になることだってあった……全然駄目な人間なんていない……。


 言葉が頭を空回りする。


 俺の全てはおじさんで作られていたから。


 俺の思想、俺の正義、俺の道。


 全て、おじさんで作られていたから。


 ……力だけなら、俺は魔神を倒せる。


 でも。


 俺は、おじさんを……。


 殺せるのか……?

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