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第141話

 破滅の世界は、まるで水墨画のような世界だった。


 陰影だけで出来ている。


 山の稜線も、流れる川も、時折見える建築物も、全てが薄灰色と濃淡色。


 そして、動くものがほとんどない。


 川すらほとんど流れがない。


 風も、この世界に入ってからはオルニスが全力で進んでいるのに感じない。


 色も、動くものも、何も。


「寒々しい世界だな……」


 ベガがぽつりと呟いた。


「モーメントも、破滅した後はこうなるのであろうな……」


「ベガ姉ちゃん様、その言葉はダメだ」


 すかさずスシオが言う。


「破滅を止めるために行くのに、破滅後の姿を思うってのはダメだ」


「……そうだな、済まない。不安にさせた」


「オレは別にいいけどさ」


 スシオは唇を尖らせる。


「それより、魔神は何処にいるんだ? この世界の何処に……」


「恐らく、この世界はモーメントの影、あるいは裏側に位置する世界だからな。広さは大陸並みかそれ以上と考えていい」


 俺はオルニスの首筋で立って、まっすぐ前を見ていた。


「じゃあ、この世界をしらみつぶしに……?」


「ああ、それは大丈夫。あちらからじきに来るだろう」


「来る?」


「……来る」


 ぽつりヴェデーレが呟いた。


「来る……来る……来た!」


  きゅぼぼぼぼぼぼっ!


 光弾のような何かがこちらに向かって飛んできた。


「スシオ!」


「う、【風壁ウィンド・ウォール】!」


 ベガの指示にスシオが反応し、風の壁を作り、光弾を阻んだ。


「っし!」


 全弾撃破を確認したスシオが小さくガッツポーズを作る。


 ちゃんと修行してたんだ。


 俺と一緒に来るなら強くならないといけない。だからスシオはケンタウロスと守護獣ベガの下で、剣と体術と魔法の訓練に励んでいたけど、これだけの期間で「ほとんど素人」から「一人前かそれ以上」にまでなっているとは思わなかった。


 心強いよ、本当。


 俺はオルニスの首筋に仁王立ちになって、剣を……ドワーフから送られたのではない、神具、蒼海の天剣を抜いた。左手に水鏡の盾。一応念のため透過のマントと見通しの眼鏡も装備しておく。神衣は汚れないのをいいことに着たきり雀。だけど今ある神具を総ざらえした、俺の戦闘モードだ。


 そして今、オルニスの目の前にまで迫った……翼持つ獣がいる。


 魔獣。


 巨鳥ルフほどの大きさはないけど、飛ぶことができる。何やら霧のような物に包まれている印象で、誰かが背に乗っている。


「ぅえ? 魔獣って飛べないんじゃないのかよ」


「そりゃ飛べるだろ」


 俺はヴェデーレに頼んで、右回りにそいつの背後を取るようにとオルニスを操りながら、スシオの疑問に答えた。


「モーメントに飛ぶ魔獣がいないのは、空そのものが神域だからだ。魔獣は空に受け入れられていないんだ」


「じゃあなんでこっちでオルニスが飛べてるんだよ!」


「それは多分……」


「こんなデカブツが地上に落ちて動けなくなったら後が厄介だからだ、短慮のヒューマンが」


 答えてくれたのは、もちろん俺ではない。


 オルニスと魔獣がすれ違う寸前、俺は見た。


 恐らくはダークエルフ。


 今まで出会った死物の中でも一番大きな破滅の力を持っている。


 すれ違った直後、オルニスは右回りに飛び始めた。敵も同じく右回りで、オルニスの後につこうとするが、こいつの大きさが大きさなので敵はなかなか尾羽まで辿り着けない状況となっている。


「何者か、聞いてもいいか?」


「魔人、ダークエルフのモストロ!」


 ついに出たよ、魔人が。


「魔神様のご覧のこの勝負、派手にやろうではないか!」


「おいおい、こんな高所で魔法のぶつけ合いかよ。落ちたらどうすんだ」


「そちらは心配ないだろう? この高さから落ちても心配ないはずだ」


「痛いことは痛いんだよ」


 モストロを名乗ったダークエルフは魔獣に跨って杖を掲げている。


「それに、心配もいらん。魔法のぶつけ合いをする気はこちらにはない。そちらに厄介な神具があるからな。水鏡の盾……魔神様でもないと全ての魔法が跳ね返される」


 だから、とモストロは杖を掲げた。


「まずは、この一手!」


 杖を突き出す。


 すると、魔獣を取り巻いていた霧のような何かが動き出した。


 もさり、もさりと魔獣の毛が抜け落ちるように霧は形を成していく。


 生まれたのは、モストロが乗っている魔獣の小型版……恐らくは、魔獣の仔。母親の身体にしがみついて守られていたのが、モストロの魔人の力で操られているんだ。


 ヘルプ機能で以前調べたが、魔人とは人間でいう神子的な存在であると言う。魔神に仕え、魔神の力を借りて使うことができると。


 だけど、神子ならこっちにもいるんだよな。


 俺が何か指示するまでもなく、既に彼は動いていた。


 相手が魔人だろーと使ってきたのが獣なら。


 そう、ヴェデーレがこっちにはいる。


 敵愾心剥きだして襲い掛かってこようとしていた魔獣の仔が、混乱したように身動きする。


 モストロの乗っている魔獣も身をよじるようにしていた。


「な、なんだ?!」


 まだあっちには情報は行っていないはずだ。獣使師ビースト・テイマーがこっちにいると。


 だから……!


「いい仔だ……母親の所に戻れ……そうだ……お前も……子供と離れたくないだろう……?」


 低い声で泣く子をあやすように、ヴェデーレがささやく。


 魔獣は死物であって死物ではない。こちら側だけでなくモーメントでも魔獣は繁殖している。死ぬために生まれてきても、本能として子供を残すと言う行為を行う。


 まして、子供を守る母ならば……!


「うお?!」


 モストロが魔獣から振り落とされた。


 浮遊か飛行の魔法を持っているのか、落ちはしなかったが、魔獣はこっちに飛んで来ようとしていた仔の所に行って、毛皮の中に仔を入れると、一目散に逃げだした。


「ふんっ……愚かな獣がっ」


 モストロは、杖を。


 魔獣に向けた。

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