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第139話

「神子になりたいって言ってる」


 更にヴェデーレの爆弾発言。


「例え神子になれなくても、故郷の無窮山脈に帰れないのが魔神のせいなら、魔神を倒す手伝いは何でもするって」


「そこまではっきり意思通じるもんなのか?」


「そう? ……そうだな、何かこいつの気配とはっきりした目的を感じたんで声をかけたら、頭の中で会話ができた」


 俺の心話と同じか? 聖獣や神獣と呼ばれる獣は人間の意図が分かるって言うけど、それでここまではっきり意思疎通できるもんなのか?


「大したものを連れてきたな」


 俺が慌ててルフが着陸できる広場を創っている横で、ベガが感心したように言う。


「確かにこの聖獣なら無窮山脈を越えられるだろう」


「……でけー……すげーな、ヴェデーレの兄ちゃんは……」


 うん、俺もびっくりした。


 獣使師ビースト・テイマーの才能があるから、守護獣探しに役に立つかと思って、決意を捻じ曲げて同行を許したけど。


 まさかこんなどぎつい生き物連れてくるとはなあ……。


「シャーナ、君は……」


「分かっていますわ、シンゴ様」


 シャーナは少し寂し気な、でも全部分かっていると言う表情で言った。


「私にはこの神殿を守る勤めがありますもの。死界で【帰還】を使っても辿り着くのが難しいでしょう。ですが、私がここで、シンゴ様の無事と勝利を祈っている限り、シンゴ様とこの神殿の絆は切れません。私はここで待っております。皆様がいつものように、賑やかに帰ってくるのを」


「本当にそれでいいのかいい、シャーナさん」


「ヴェデーレさん?」


「本当はシンゴの傍に、いたいんじゃないのか……?」


「私は私を分かっております」


 シャーナの笑顔はいつも美しくて、男ならみとれてしまう。


「私は資質的に戦闘に向いていないのです。【回復ヒール】や【聖域サンクチュアリ】などの魔法は使えますが、どうしても強い敵の前に立つと竦んでしまう。シンゴ様を守らねばと思っても、身体が動いてくれないのです。足手まといと言っていいでしょう」


「シャーナ、俺は」


「分かってますわ、シンゴ様。シンゴ様は私を足手まといとは思わないでしょう。ですが事実そうなのですから。この神殿と子供たちを守り、シンゴ様と、同じ神子の皆様のご無事をただひたすらに祈り続ける。それが私の役目。原初の神殿の神官最後の生き残りである私の勤めなのです。ですからヴェデーレさん、私を心配する必要も応援する必要もないのですよ。私は私とシンゴ様の為にやれることをやっているのですから」


「……シャーナさん」


 ヴェデーレはシャーナの手を握った。


「きゃっ」


「俺っ、絶対、シャーナさんの分もシンゴ守りますから! 俺も戦いの経験なんてこれっぽっちもないけど、俺の獣使師ビースト・テイマーの力全力で使ってシンゴを守ります! だから、……戻れたら、また、オフロ、入れてください……」


「まあ」


 シャーナが微笑んだ。


「神殿はシンゴ様のものなのですかあら、シンゴ様の神子のものでもあるのですよ? 貴方はいつでもここに来て、オフロに入れるんですよ?」


「……ありがとうございますっ!」


 ヴェデーレは深々と頭を下げた。


 それをにーやにーやしながら見ているスシオ。


 そう、ヴェデーレがシャーナを見初めたことは誰にだってわかる。


 何かシャーナの置いてった俺たちの着替えの下着見て赤い顔してたし、シャーナが喋っている間中ニコニコと笑っていた。そしてこの対応……いやー気付かなければ嘘でしょう。


 ベガも少し苦笑いして見守ってたし。


 ところが……肝心のシャーナには気付かれてないなあ。


 シャーナは神殿を守る神官として育てられ、いつ来るか分からない生神《俺》を餓死寸前になるまで待って、その後俺と同道していたが、戦闘が確実となった時点で、俺についてくることを諦めた。


 理由はシャーナの言った通り。


 彼女には強大な敵に立ち向かうと言う能力がない。


 かと言って彼女に胆力がないわけではない。餓死寸前まで神殿に留まり続け、俺が来た後はかなり危険な場所でもついてきてくれた。俺の行く場所なら何処へでも、と言っていたし、事実そうしてくれた。


 ただ、どれだけ神子だから滅多なことでは死なないし傷付きもしないと理屈で分かっていても、戦いを拒む彼女の本性が強敵を前に身を竦ませる。竦むだけならまだいいけど、それが仲間の足を引っ張って戦いに敗れたり神子や俺が敵の手に渡ったりしたら、それは彼女にとって一番の苦痛となる。


 だから、彼女は自分ではなく、俺や仲間を守るために自らこの神殿の管理人として、俺のフォローをしてくれたのだ。戦えないから彼女が神子に相応しくない、わけではない。むしろ戦い以外の場所での彼女の行動は素早く的確で俺を助けてくれた。大陸西部、ビガス、大樹海、無窮山脈、奈落の断崖を繋ぐ輸送ルートはシャーナがいなければ回っていない。彼女が種族の特性や性質を見抜いて必要な場所に必要な物資を届くよう注意してくれている。神子の中で誰が一番役に立ってくれている? と聞かれたら一択、シャーナだ。


 シャーナが幸せになってくれればいいんだけどなあ。


「い、行くぞっ、シンゴ」


「え?」


 考えにふけっていた俺の肩を、ヴェデーレがバンと叩いた。


「絶対にあっちの世界から生きて戻る! 叶うなら魔神ぶっ倒す! そしてこの神殿に戻ってきてオフロに入って……」


 それから、と続けようとして、ヴェデーレは急に真っ赤になって黙った。


「それからー?」


 スシオがにーやにーやしながら聞く。


「なっ、なんっでもないっ、とにかくっ、準備出来たらいくぞっ」


 すかさずシャーナがまとめた荷物を持ってきた。


「ビガスの食料と、大樹海のポーションや薬草、無窮山脈の魔具、必要と思われるものは皆用意してあります」


 そうそう、こういうところが有能なんだよ。


「皆さま、無事の御帰還を」


「ぜ、ったい、帰ってくるーっ!」


 はいはい、それ以上はやめとけよ。死亡フラグ立つってこういうの言うんだ。


 俺たちはグライフを使って順番に背に乗り、そして。


 無窮山脈へ向かった。

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