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第137話

「敵地に乗り込む」


 俺は言った。言い切った。


「敵地って、エンドの向こう側……?」


 ヴェデーレの言葉に頷いてから、話を続ける。


「サーラが囚われて逃げられない、のは、プセマの薬もあるかもしれないけど、多分サーラ以上の力を持つ存在が全員を封じているからだ。魔人……でもない。それ以上の存在……魔神」


 スシオが喉を上下させるのが分かった。ヴェデーレが真っ青なのも分かった。


 一方ベガとシャーナは俺を真っ直ぐに見つめている。


 こういう時、女性の方が肝が強いもんだな。守護獣のベガは違うとしても、シャーナはただのヒューマンなのに、覚悟完了の顔で俺を見ている。


「俺がこの世界で神子を増やしても、魔神が全員を捕えてしまえば同じことだ。俺に勝ち目はない。そしてエンドが墜ちた今、【聖域サンクチュアリ】の魔法をかけてはきたけど、中途半端な今の力じゃ、いずれ魔神に破られる。勝ち目があるとしたら、連中がまだ本格的にこちらに攻め込めない今、裏口から攻め込むしかない」


 ベガまでもが、きょとんとした顔をした。おいおい。


「エンドが墜ちてない、死物の世界と繋がっていないのに何で死物がこの世界に出没するか考えたことはなかったのか?」


「いや……エンドだけがって思ってたから……」


「死物は無窮山脈を越えられないんじゃ……」


「小さな入り口があるんだよ」


 俺は端末を取り出して、画面をタップした。


 すぐに大陸北部、無窮山脈の地図が出る。


「大陸が続く限り、無窮山脈は北と南としっかり分けて、死物の侵入を防いでいた。だけど、隙間があった。その一番大きいのはこのエンド」


 端末の中、無窮山脈の東の果てに、大きな崖が存在していた。そこがエンド。生と死を分ける境界線。


 そして、西の果て。


「海にまで張り出している無窮山脈の、この辺り。窪みがあるだろ」


 俺の指した所には、小さな窪みが幾つかあった。


「サーラが教えてくれた。無窮山脈も万全の守りとは言い難い。こういう、小さな、魔獣しか抜けられないような隙間は見逃すしかない。弱い魔獣の侵入を諦めてでも、大物を通さないようにエンドや他の大きな入り口を結界と武力で守っていると」


 ベガが頷く。


「そんな中でも、サーラが一番気にしていたのがここだ」


 ちょうど原初の神殿から真っ直ぐ北に行った所に、亀裂のような隙間があった。


「隙間としては小さい。ただ、原初の神殿まで一直線。真っ直ぐ南に行けばいい。強大な力で真っ直ぐ南へ向けて力を放たれれば、信仰心を持たざる者を防ぐ結界も破られるかもしれない。それを魔神が思いつくことをサーラは気にしていた」


「確かに……見えない、辿り着けない、だけど、攻撃できない訳ではないからな」


「魔法かなんかで、全部巻き込んでドカーンってやれば、結界もあんまり意味ないな。一回目は守れても、二回目、三回目、無傷で守り切れるか」


「……スシオ、勉強したな」


「ベガ姉ちゃん様に叩き込まれたからな」


 チラッとスシオがベガを見る。ベガは素知らぬ顔でそっぽを向いた。ヴェデーレは何とか頭の中で理解しようとしているようだ。


「待ってくれ、じゃあ、シンゴの力は、今は小さいのか?」


「小さいね。ヴェデーレたちと最初に会った時と比べたら、四分の一程度の力しか持ってない」


「魔神より、弱いのか?」


「力では一応五分って話だ。ただ、信仰心がないのと、もう一つ、力の使い方がな。俺は生神になって一年経ってない。魔神は何年魔神をやっているかは知らないけど、俺はモーメントを救うために生神になった。だったら、俺以上には魔神をやっているはずだ。当然、力の使い方も熟知してるだろ」


「力は同等、ただしあっちの方が使い慣れているってことか」


「そうだ」


 ヴェデーレは眉間にしわを寄せた。


「……まずいんじゃないか?」


「ああ、まずい」


「神子って契約した人間の信仰心を力にしてるんだろ? 神子を増やして、信仰心を増すってことは出来ないのか?」


 それが出来れば一番だったんだろうけど。


「神子ってのは、サーラたちのように、人質にされる可能性もあるってことなんだ。確かに神子になれば契約が切れるまで不老不死になる。でもな、死なないって言うのは、実は本当にしんどいことなんだよ」


「それに、信仰心は質も必要なのだよ。シンゴを心から信じてくれる人。シンゴと彼女たちは旅を続けて、その途中に出会って、親しくなって、信頼関係をつちかってきた。今からその一年を作り出す暇はないんだ。第一、不老不死になるから俺を信じてくれって言って集まる神子がどれくらいシンゴの役に立つと思う?」


「……無理だな」


 ベガの説明に、ヴェデーレが納得してくれた。


「でも、俺をここに連れて来たってことは、俺がシンゴを信じていることをシンゴは信じてくれているってことなんだよな?」


「ああ。グライフがまず信じた。ヴェデーレが、自分と、そして自分に引き合わせた俺を信じているって。だけど、俺はヴェデーレを神子にする気はなかった。言った通り、危険が伴うからな。獣使師ビースト・テイマーの才能があったとしても、死地へ赴くだけの準備は出来ていないから、俺の旅には連れて行けないと。だけど、あの時、グライフが言った。ヴェデーレを連れてけって。ヴェデーレならきっと俺を助けてくれると。だから」


「……役に立つよ」


 ヴェデーレは決意を込めた目で言った。


「俺がシンゴの役に立つって言うなら、いくらでも」


「お前の悪友が死んだのは俺のせいなのに?」


「あれはトーノが悪い。俺も、グライフも、グルートンも、逃げろって判断したのに、金欲しさ荷物欲しさに戻っていった。それさえなければ助かった命だったんだ」


 ヴェデーレは身を乗り出してきた。


「俺も、グルートンも、クーレもシンゴを信じてた。俺は、三人……いやトーノも入れて四人分の想いを背負ってるんだ。四人分の信仰心を背負ってる。……いやトーノがそれだけシンゴを信じてたかは分からないけど」


「おいおい危ねーな兄ちゃん」


「でも、トーノも友達としてシンゴを信じていたはずだ。その言葉を聞かないで死んだのはあいつのせいだけど、友達としてのトーノは悪いヤツだったか?」


「いや……陽気で明るくて、時々騒々しいけど愉快ゆかいな奴だったよ……」


「だから、俺は一人で四人分を背負っている。役に立つ。魔獣を追い払うだけしかできないけど、きっと、役に立つから……!」


「……分かった。じゃあ、神子契約しようか」


 俺は端末をタップした。


【神子候補:ヴェデーレ・ベスティア 信仰心レベル15000 属性:獣/炎/風】


「属性に炎がある?」


 俺は思わず呟いた。


 ヴェデーレは確かに固い決意を持っていて信仰心もそれだけのものがあるけど、属性の炎は予想外だった。だけど確かに攻撃に使える炎属性はありがたい。


「グライフ」


 シャーナが連れてきたグライフが、ぐるっと鳴き声を上げた。


「お前とも契約を結びたい。それでいいか?」


「ぐるぅ!」


 グライフは誇り高く胸を張った。


「今は俺を信頼してくれる生物が一体でも必要だ。アウルムやミクンに説明せずに契約を結ぶのは心が痛むけど……」


「ぐるるぅ」


「そんなの関係ないってグライフが言ってる」


「そうか」


 俺はグライフとも契約を結んだ。

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