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第130話

 【木壁プランツ・ウォール】の外に、俺はシンゴと一緒に立っていた。


 エンド行街道のほとんどは崖を縫うように作られているので、右は上りの壁、左は下りの崖。


 壁に守られずに外に立っているのは、あの夜、魔族が襲ってきた時以来だ。


 グルートンやクーレは自分たちも残ると言ってくれたのだが、「ちょっとヴェデーレを試したい、絶対ケガはさせないから」と請け負ったのだ。


「俺を試すって、魔獣相手に何を……」


「死物が生物を操ったり、逆に生物が死物を従えたりするだろ?」


「ああ、死霊術ネクロマンシーとかってヤツ?」


「そう。特殊な生物は死物を操ったりできる。俺が調べたところによると、獣使師ビースト・テイマーにもそれがあるんだって」


「え? いつ調べて……てかもしかして」


「うん、魔獣を従える獣使師ビースト・テイマーがいるんだって」


「む、無理無理無理無理!」


 俺は首を横にぶんぶんぶんぶん振る。


「魔獣を従えるなんてそんな真似……!」


「魔獣を従えなくても、退けることは出来るんじゃないかな?」


「しり……ぞける?」


「そう。さっき、俺より早く魔獣の気配察知したろ?」


「え? ……ええ?」


 さっき、確かに。


 グライフが反応したから……じゃない。


 俺が何となく気付いた時、グライフが唸って、これは魔獣が出てきたんだと思った。シンゴが叫んで、予想は確定になった。


 そう……思ったんだ。


 だから……。


「魔獣に下がるよう、命じて見てくれないか」


「え、そんな、こと」


「ここに襲撃をかけてくる死物の大半は魔獣だ。ヴェデーレが魔獣を追い返せるのなら、俺の負担も減るし旅のスピードもあがるだろ?」


「でも、下がらなかったら?」


「その時は俺とグライフで相手するさ」


 グライフがふんふんと鼻息を荒くさせている。


「とにかく、試してみてくれないか? 魔獣に、心の中で言うんだ。下がれって。こっちに来るなって」


「そ、そう言われても……」


 俺たちが立ち止まったのに気付いて、右側の上りの崖から魔獣たちが見えない所でこっちを取り囲んでいるのを感じる。


 多分、隙を見せたら一気に襲い掛かってくるつもりだろう。


 グライフが警戒しているから、なかなか近付いてこれないようだけど。


 あれ?


 何で俺、魔獣の考えてることが分かるの?


 考えてることが分かるって言うか、なんか魔獣の本能っぽいところを感じるって言うか。


 こんなこと、今までなかったのに。


 なんで?


「ぐるる、ぐるぅ」


 グライフが喉を鳴らす。それが「やってみろ」と言っているように聞こえる。


 もしかして、グライフか?


 神獣に懐かれた人間は神獣の気持ちがわかるって言う。そのおかげ? 神獣の気持ちが分かるようになったついでに魔獣の気持ちも分かるようになったのか?


「……やってみる」


 魔獣の気持ちが分かるようになったなら、魔獣に向けて拒絶の気持ちを送ることができるかも知れない。


 よし。


 来るな……来るなよ……。こっちには神獣がいるんだ……お前らの餌にはなれない……。お前らが無駄死にしたいって言うなら別だけど……。


 魔獣が怯んだのが分かった。


 よし……。そうだ、帰るんだ……。俺たちを狙っても、お前らにいいことはない……。いい子だから、な……?


 魔獣の気配が遠ざかっていく。


 飢えた魔獣の気配が一つ、一つ、消えていき、こっちに心残りを感じながら最後の気配が去って行った。


 魔獣は……いなくなった。


「やったじゃないか」


「ぐるぅ!」


 グライフが駆け寄って来て俺の背中に頭をぶつけた。


「グライフ、シンゴ」


「ヴェデーレの才能は本物だな」


 シンゴが笑っていた。


「魔獣を退ける獣使師ビースト・テイマーなんて。万に一人もいないって言うのに、それをやってのけたんだぜ?」


「え? そんなに少ないの? てか何時シンゴそれを知った?」


「まあ、ちょっとばかり能力を使って」


「能力って」


「ヴェデーレの獣使師ビースト・テイマーの才能と同じだよ。俺もちょっとした才能があって、必要な情報を好きな時に引き出せるんだ」


「まだ能力持ってたの」


「色々と」


 でもヴェデーレの獣使師ビースト・テイマーの才能に比べたら大したことないけどね、とシンゴは笑う。


 いや、好きな時に正確な情報を引き出せる能力ってなんなんだ。クラス魔法剣士って言ってたけど、実は剣が得意な賢者とかじゃないだろうな。この盛り盛り男は一体何者なんだ。


 シンゴの素性に改めて疑問を感じる。


 でも、いっか。


 シンゴに会えなかったらグライフに会えなかったし。グリフィンをブラッシングできる人間なんて、フェザーマン以外じゃシンゴと俺しかいないだろ。


「じゃあ、【木壁プラント・ウォール】は解除するな」


 すすすっと木の枝や根が絡み合って出来ていた壁が消える。


 幌の上に登っていたトーノが首を傾げる。


「なあ。何やってたんだ?」


「何て」


「魔獣、出なかったじゃん。シンゴもグライフもあれだけ警戒してたのに。シンゴとヴェデーレが喋っていただけで、結局何も出てこなかったじゃん」


「ああ、魔獣が向こうから消えたみたいだな。余計な戦闘がなくてよかった」


 シンゴはすらっと言った。


 え? あれだけの距離しかないのに聞こえなかったって?


 シンゴを見ると、シンゴはチラッとそっぽを向いた。


 あれかな。【静寂サイレンス】。自分の音を消す魔法。それで俺たちを囲んでたのかな。


 なんでかな、と思ったけど、すぐに思い至った。


 魔獣を退けることができる能力。


 【聖域サンクチュアリ】の魔法を使わなくても、魔物を寄せ付けないって言うのは稀な能力だ。


 そんなことを知られたら、俺が魔獣とイコールで考えられる可能性もあるし、そうでなくてもトーノなら金儲けの方法を百や二百考えだすだろう。


 うん、魔獣を退ける獣使師ビースト・テイマーと言うことは黙っておいた方がいいだろう。


 ありがとう、シンゴ。


 俺の能力に気付いて、試してみてくれて、信用してくれて。

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