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第129話

「何を悩んでいる、ヴェデーレ」


 グルートンに声をかけられ、俺はずっと歩きながら考え事をしていたのに気付いた。


「いや、何でもないよ」


「一緒に金を稼ぐと誓い合った仲間が考え事をしていれば気にもなる」


「……いや俺は誓ってないんだけど」


「二日前から、お前、しょっちゅう立ったまま歩いたままぼーっとしてるぞ。このいつ死物が出てくるか分からないエンド行の街道で。いくらシンゴ先生がいてくれても手が回らない時がある」


 いつの間にか、グルートンはシンゴのことを「先生」と言うようになっていた。このプライドの高い男が相手を先生なんて呼ぶのは、余程尊敬していると見た。


「そのシンゴが言ったんだけど……」


「ンン?」


「俺に、獣使師ビースト・テイマーの才能があるって……」


「確かに、お前、小さい頃から動物に異様に懐かれてたからな」


 物心ついたころからの付き合いだから、俺が小さい頃のことも知っている。


「お前も知ってるだろ。猟師のキニゴスさんのシャッスに」


「キニゴスは覚えてるがシャッスは忘れた。誰だ?」


「キニゴスさんの猟犬だよ……俺に噛みついた」


「まだ気にしてたのか」


 グルートンは呆れたように息を吐いた。


「猟犬が本気で嚙めば子供の右腕くらい楽勝で持って行かれるぞ。キニゴスもちょっと強い甘噛み程度だって言っていたではないか」


「俺にはショックだったんだよ……」


「では何か、あのふわふわした毛並み好きのヴェデーレがあの日以来猫が懐いてきても犬が腹を見せても手を出さなかったのはその時のトラウマが延々続いていたせいか」


「……そうだよ」


「だけどグライフ様は懐いているじゃないか」


「それは俺もびっくりだ」


「いいんじゃないのか? 今から獣使師ビースト・テイマーを目指しても。神獣にあそこまで懐かれてシンゴ先生が保証してくれるなら確実だ。神獣にあそこまで懐かれれば、毛の一筋や爪の一欠けもらっても問題ないだろ」


「動物を金儲けの材料にしたくないんだよ、俺は」


「世界が滅亡する日でも金がなければ生きては行けないのだよ、人間は」


「……グルートンはブレないなあ」


 グルートンが金に汚いのは、グルートンのお袋さんが女手一つで育てて苦労したままお迎えが来ちまったからだって知ってるから、俺はグルートンを本気で責めたことはない。悪友とか言ってるけど、エンド行なんて無茶なことを言い出したのも、リーダーとして仲間たちを金で困らせたくはないと思ってるからだ。金は必要な存在だと思っているけど、トーノみたいに金が大好きってわけじゃない。だからみんなグルートンについていくのだ。もちろん俺も。


「でも、なあ。この年になってのクラス変更はキツいんじゃないかって思うとなあ」


「いいと思うよ?」


 クーレも足早にやってきた。


「強みを生かすのはいいことだと思う。僕はそれが回復ヒールだっただけで、誰でも使える魔法だけどそれでも使ってくれって金を出してくれる人がいる。獣使師ビースト・テイマーなんて滅多にない才能なんだから、生かしなよ。神獣じゃなくても、暴れる獣を落ち着かせたりとか操ったりとか、応用効くしさ」


「そう、なんだけどさ」


師匠マスター探しなよ」


「その師匠マスターがいないんだろうが」


 俺は溜め息をついた。


 獣使師ビースト・テイマーは特殊なクラスであるため、それを教える師匠マスターは少ない。そして大概デカい金がいる。師匠マスターの資格がないのにそれを偽造して適当なことを教えていると言うこともある。高い金出して嘘教わって金がなくなって追い出されるなんてよく聞く話だ。


「どっちにしても、金かあ……」


「だからオレに任せとけって」


 トーノがひょいと現れた。


「シンゴに頼んで、グリフィンの毛や爪をもらえば、師匠マスターに収める金くらい……」


 トーノは相変わらずだ……。


「グライフの信頼を裏切りたくないの」


 トーノは文字通りの金の亡者。金があれば何でもできると言い切る男だ。だから金儲けのチャンスとみるとすぐに乗り出してくる。


「所詮獣でしょうが」


「獣を大事に扱わない獣使師ビースト・テイマーにどんな獣が懐いてくれるって言うんだ」


「金貨百枚がゴロゴロあのブラシに唸っているって言うのに」


「お前にとってのグライフは金儲けの道具だろうけど、俺にとっては大事で可愛くて愛しくてしょうがない子なんだよ」


「お前のじゃないのに」


「俺のじゃないのにひとかけらでももらってやろうと考えるお前の気持ちが俺には分からないよ」


「おおっと、藪蛇、藪蛇」


 怖い怖いとトーノは突っ込んできた頭を引っ込める。


「でも、事実、獣使師ビースト・テイマーは目指していいと思うよ?」


「クーレはそう言ってくれるのか」


「うん。昔から動物はお前の言うことちゃんと聞いてたもん」


「目指すと言うなら俺も投資するぞ。才能はシンゴ先生が保証してくださったのだろう? あとは師匠マスターだけではないか。生き残った大きな街のギルドに行けば、正式な師匠マスターを紹介してくれるぞ」


「高いだろ、それは」


 と言って、俺はひた、と足を止めた。


「……ぐるる」


 後ろでグライフの唸り声も聞こえる。


「魔獣だ」


 俺は反射的に息を吸い込んで、呟きと共に吐き出した。


「みんな、馬車の周りに集まれ!」


 シンゴの声に、それまでシンゴに助けられてきたみんなが慌てて馬車の周りに集まる。


「ヴェデーレは……そうだな、試してみるか?」


「へ?」


 試す? 何を?

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