表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/155

第128話

 それから数日。


 旅は順調に続いていた。


 ほとんど戦闘素人ばかりの俺たちが前へ進めているのは、シンゴのおかげだと誰もが分かっている。悪友共も手を出さないのは、ここでシンゴに見捨てられたら生きてどこかに辿り着くことは出来ないと知っているからだ。


 ……まあトーノなんかは色々ちょっかいかけて、その度にグルートンに叱られているけど。


 特にグリフィンに興味を持っているようで、そっと後ろに回り込んで尾っぽの一筋もらいたいとたくらんでいて、その度にグライフに唸られて、グルートンの大目玉を食らっている。


「ごめんなあグライフ」


 休憩時間、シンゴに借りたブラシで丁寧にブラッシングをしながら、俺はグライフに謝った。


「トーノは悪い奴じゃないんだけど……ただ金が関わると人が変わるんだ。グリフィンの尾の毛は強力な魔除けって言うから、ついでに一本抜いてやろうって考えてるんだよなあ」


「ぐるる」


 最初は撫でるのが畏れ多かったけど、今じゃこうやってブラッシングまでさせてくれる。そこでトーノが抜けた毛や羽毛を、と言ってくるんだけど、さすがにそれは出来ないよな。グライフが任せてくれるのは俺を信頼してるからだ。その信頼の証をトーノの懐をあっためるためには使えない。


「ぐるる」


 グライフが、こっちも、と腹を出してきた。


「本当にグライフはいい奴だなあ!」


 感動の涙にむせびながら、腹をブラッシングさせていただく。


 神獣がここまでリラックスしてくれるだなんて!


「ヴェデーレは獣使師ビースト・テイマーの才能があるのかもな」


「え?」


 尻尾を左右に振りながら腹を見せているグライフを見下ろして、シンゴが声をかけてきた。


獣使師ビースト・テイマー? 俺が?」


 シンゴは頷いた。


「だって、ヴェデーレが助けたわけじゃないグライフが、腹を見せるほど懐くなんて普通ないよ。俺に懐いているのは助けたことがあるからで、ただ会っただけの神獣にここまで信頼されるなんて普通有り得ない」


「……んー……まー……確かに……」


 ブラシをかけて終わったよ、と腰の辺りを叩いてやれば、グライフはくるんと反転して起き上がる。


 グライフはぶるるるっと身震いすると、んー……と伸びをしている。


 こんなに神獣と呼ばれる生物が、ただの獣らしい仕草を見せてくれるとは思わなかった。


「今からでも獣使師ビースト・テイマー目指せば?」


「ん-……」


 獣使師ビースト・テイマー、目指さなかったわけじゃない。


 小さい頃はもふもふしている生物が大好きで、動物を触りたくて追っかけまわしてた。


 だけど。


「一回……怒られたんだよなあ」


「怒られた? 誰に?」


「近所の猟師が飼っていた猟犬に」


 あんまりにも撫でたくて撫でたくて、仕事中の彼を追いかけ回して撫でまわそうとして、噛みつかれた過去。


「あー……しつこすぎたか」


「俺も子供だったから、そいつが仕事中で忙しいの無視して、ただ撫でたいだけで追いかけ回したからさ……それから動物にはできるだけ触らないようにしてきた」


「グライフ触りまくってんじゃん」


「神獣に触れる機会なんて、今後一生かかってもないかもしれないんだぜ? そりゃ触る。後悔がないように触る。触らせてくれてるし」


「今なら獣が嫌がってるかどうか分かるだろ? グライフが嫌がってないことくらい、俺でも分かるよ」


 くあ、と欠伸をしようとして、グライフがぐるりと後ろを向く。


「トーノ!」


 俺が怒鳴ると、こっそり後ろに回り込もうとしたトーノは跳ねあがって逃げて行った。


「ったく」


「そのブラシについた毛の一筋くらいあげてもいいけど?」


「グライフが嫌がるだろ」


 何かの話で聞いたけど、神獣は己を与える存在を選ぶって言う。


 羽毛、羽根、鬣、爪。それは神獣と深くつながっているので、魔力を帯びている。その魔力を与える相手は神獣が決めるらしい。例え主の命令であっても、認めない相手には渡さないとか。


「これはグライフが俺を信頼してくれた証だ。こっそり抜き取られて金儲けされてたまるかよ」


 ブラシに絡んだ毛や羽毛を丁寧に外し、シンゴに渡す。


「これくらいあげるのに」


「ダメだよ、グライフの信頼を無駄にできない。それにシンゴはいつも自分が乗っている騎獣だから気にしないんだろうけど、神獣の毛なんて魔法薬ポーションや魔具の材料になるから、かなりデカい金出さなきゃ買えないんだぞ?」


「知らなかった」


「まさかグリフィンで街にそのまま乗りつけたりしなかっただろうな」


「してないよ。ほとんど野宿」


「人間のいるところ行ったら、尾とか爪とか狙われまくるから気をつけろよ」


「狙われる程になれば、世界は平和になっているってことなのかもな」


「……間違いないけど、気をつけないとグライフがまだらハゲになるからな」


 まだらハゲの神獣なんて見たくない。


「そこまで獣の気持ちが分かるんなら、絶対に獣使師ビースト・テイマーになれるよ。俺が保証する」


「んー……」


 ちなみに今の俺のクラスは商人マーチャント。しかもギルドとかで登録したわけじゃないはぐれ者。


 獣使師ビースト・テイマーは数が少ないクラスだ。それは、生まれ持った才能と特殊な訓練が必要だから。それが、動物に懐かれると言う才能。無条件に動物に懐かれて、動物が言うことを聞いてくれる。


 だから、猟犬に噛みつかれた時、その夢を諦めた。犬に噛みつかれた自分には獣使師ビースト・テイマーになる資格がないのだと。


 でも、あんなことを言われたら、夢を取り戻したくなっちゃうじゃないか。


 獣使師ビースト・テイマーの修行がどんなのかも知らないのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ