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第126話

 現れた相手は、一見エルフに見えた。


 整った顔立ち、尖った耳、そして凍える様な魔力。


 でも、死物のエルフは存在しない。


 存在するのは……。


「ダークエルフか」


 シンゴが呟いたのに、黒いマントを羽織ったダークエルフは笑った。


「如何にも。私はダークエルフだ」


「魔族……いや、魔人?」


「この場で私は魔人になる」


 ダークエルフはニヤッと笑った。


「この場にいる人間全て滅ぼして」


「おかしいな」


 シンゴがぽつりと呟いた。


「エンドの守護者が魔人にすらなろうと言う死物を見逃したと言うのか?」


「おや、見た目と違って勘が鋭いようだ」


 ダークエルフは感心したように言う。


「だが、お前たちが真実を知る必要はない」


 杖を突き出す。


「真実を知る必要はない、か」


 シンゴも剣を構えた。


「なら聞き出すまで」


「魔具を持っているとはいえ、たかだかヒューマンの剣士が、ダークエルフを倒せると?」


 そうだ。


 ダークエルフの魔力の強さは、エルフをも上回るかも、と言われている。


 シンゴがいくら強くても、魔具がいくら強くても、魔法の攻撃をどうかわすのか……。


「【木鞭プラント・ウィップ】」


 ダークエルフが呪文を唱えると、無数の木の根が地面を割って現れた。


 ひゅん、ひゅんと空気を叩き、しなりながら、シンゴを狙う。


 しかし、シンゴは驚いても慌ててもいなかった。


 とん、た、とんっと狙ってくる鞭を足場にして空中を軽々と移動する。


「ふん」


 ダークエルフが機嫌が悪そうだ。


「エンドまで来るだけあって、【木鞭プラント・ウィップ】程度であれば逃げられるようだな」


 しなり、その胴体を目掛けて飛んできた木の根を、シンゴは魔剣で叩き斬った。


 先端を失った根がへなへなとしおれる。


「こういう魔法は使って欲しくないんだよね」


 シンゴも機嫌が悪そうに言った。


「生物を死物の魔力で操るような魔法は。でもまあ、【木鞭プラント・ウィップ】か。使えそうだな。覚えとこ」


 そこには焦りも警戒もない。


 とても、魔人にもなれるような死物を相手しているようには見えない。


「逃げるだけか、ヒューマンの剣士」


「そりゃ逃げるでしょ」


 飄々《ひょうひょう》と逃げたりかわしたりしながらシンゴは言った。


「遠距離攻撃食らってる時にどうやって接近戦挑むんだよ。だから俺もこうする」


 シンゴは左手の人差し指をダークエルフに突き付けた。


「【木鞭プラント・ウィップ】」


 声が響いた途端、それまでダークエルフの魔力で動いていた木の根が、逆にダークエルフ目掛けて襲いかかってきた。


「何だと?!」


 流石のダークエルフが絶句する。


「わ、私から支配権を奪うとは……!」


「そりゃ、木の根って言う生物が死物と生物どっちの命に従うか、って言われれば俺に従うでしょ」


「ぐぅう……」


 ダークエルフは唸る。


「貴様、【木鞭プラント・ウィップ】を知らなかったはずなのに、一目見て覚えるとは……! 一体何者だ!」


「生物、ヒューマンだよ。クラスは敢えて言うなら魔法剣士?」


 確かに【回復ヒール】や【木壁プラント・ウォール】を操れるシンゴは魔法剣士と言うに相応しい。


 魔法剣士は一般にはどっちかって言うと魔法も剣技も中途半端なイメージがあるけど、シンゴはその両方を極めている。強い。


「これで接近戦ができるな」


 木の根に乗ったままダークエルフの前に飛び降りて、剣を突き突ける。


「さて、どうする?」


「【水矢ウォーター・アロー】!」


 ダークエルフは水の矢を生み出して、シンゴを狙う。


「おっと」


 シンゴは空を切る水を剣で斬る。熱を宿した剣は水の矢を蒸発させる。


「くそっ」


 ダークエルフは悪態をついて水の矢を顕現する。


 四方八方から、ダークエルフが立て続けに矢を放つが、シンゴは苦労せず斬り捨てる。


「【水矢ウォーター・アロー】ね」


 シンゴはニヤッと笑う。


「これも覚えた」


「なっ」


「【水矢ウォーター・アロー】!」


 シンゴが叫んだ瞬間、ダークエルフが作り出した倍近い矢が現れて、ダークエルフに曲線を描きながら飛んでいく。


「【炎壁ファイア・ウォール】!」


 ダークエルフの炎の壁が矢を蒸発させる。


「【炎壁ファイア・ウォール】ね。これも覚えた」


「く、ぅぅぅっ」


 ダークエルフは歯噛みする。どんな魔法を使っても、シンゴに使われそうだと思ったんだろう。事実、シンゴは【木鞭プラント・ウィップ】【水矢ウォーター・アロー】と立て続けに学び、多分【炎壁ファイア・ウォール】も覚えている。


 一体どんな魔法を使ってんだ、シンゴは。


 精霊系の魔法じゃない。精霊系の魔法は魔力を精霊の力によって形にする。強大な魔力がなければ、あんなに立て続けに違う魔法を使ったりできない。俺が最初シンゴを翼魔法フェザー・マジックの使い手と思ったのは、神系の魔法の使い手は弱体化していたからだ。精霊系では不可能なほど強い魔法を操っているのだから無理もないだろ。


 世界が滅亡に向かっていると言いだしたのは神系魔法の使い手だ。神の力で魔力を形にする神系魔法が弱まっている、と。


 だけど、シンゴの魔法は一体何処から来ているんだ。


 凄まじいまでの魔力、そして見ただけで魔力の流れを覚えてしまう応用力。その二つを兼ね添えている精霊魔法使い? それがダークエルフをも絶句させるほどの魔法?


 洒落にならねーよ。


 ドワーフの魔剣と強大な魔法、両方を持ち合わせているヒューマン?


 目の前にいなきゃ、俺も「嘘だろ」で終わらせてるよ。


「滅びたいなら一人で死んでろ。他の人を巻き込むな。……って言っても死物とは分かり合えないか」


「くぅ……ううう!」


 ダークエルフが叫んだ。


「なら、貴様が覚えられない程の力で、貴様ごと滅んでやる!」

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