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第124話

 夜が来た。


 とりあえず交代で寝ることになったけど、シンゴは順番決めには入れなかった。


 シンゴは出会ってから今までに五戦ほどして全勝している。


 当然、疲れていないはずがない。


 本当なら休んでほしい。だけど、魔物が襲って来たら……。


「神獣の敏感さを舐めちゃいけない」


 グライフに道具箱アイテム・ボックスから出した生肉と水をやりながら、シンゴは笑った。


「グライフが敵の存在に気付かない時はない。君らと会った時も、気付いたのはグライフだったろ?」


 自分は柔らかいパンと水と炙り肉を食べながら、シンゴは平然と言う。


「グライフと一緒にいる限り不意打ちはあり得ないよ。でも心配なら起きていればいい。何か心配だったらいつでも起こしてくれ」


 と、食事を終えたシンゴはグライフの腹に頭を乗せるとそのまま眠ってしまった。


「エンド街道で眠れるなんてすげぇな」


「実力のある人間は違うよなー……」


 ぐぅ、と眠ってしまったシンゴを見て、みんな感嘆の言葉を漏らす。


「じゃあ、こっちは交代で見張るかあ……」



 真夜中すぎ、俺の番の時だった。


「ふぁああ……」


 小さな欠伸をしてシンゴが起き上がったので、俺はビクリっと反応してしまった。


「て、敵?」


「大丈夫。魔物の気配もなくグライフも寝ている。単に俺が目を覚ましただけ」


 ほっとしたのが顔に出たんだろう。シンゴはちょっと笑って、俺が座っている焚火の向こう側に座った。


 いきなり目の前に現れたグリフィン騎士とじっくり話ができる機会がやってきた。


 色々聞きたいことがあったはずなのに、目の前でこの好青年を見ると、何も言葉が出てこない。


 シンゴが枝先で焚火をいじりながら、口を開いた。


「ヴェデーレは、何でエンドに行こうと思ったんだ?」


 まさかの向こうからの質問に、俺は何と答えるか悩んだ挙句、素直に言うしかないなと思った。


「悪友に誘われて」


「へえ?」


 ちょっと面白そうな顔をして、シンゴは先を聞いてきた。


「いや、俺本当、エンドに行くみたいな真似したくなかったんだよ。俺は平和で平穏で生きてきたかったから」


「うん、それ、分かる」


 顔は平和に見える。こうして焚き火に当たっていると、ごくごく平穏な環境で幸せに生きてきたんだろう育ちの良さがうかがえる。


 でも、この人は滅茶苦茶強い。剣も魔法も。


 一体どんな人生を歩いてきたんだろう。


「ただ、悪友共がどうせ世界が滅ぶならその前に一旗揚げようって」


「一旗揚げたって世界が滅ぶんじゃ意味ないでしょ」


「俺もそう言ったんだけど」


 しかめっ面になる自分が分かる。


「どうせ世界が終わるんなら、最後にいい思いがしたいって」


「いい思いって?」


「酒とか、女とか」


「……まあ、飲む打つ買うの三拍子は欲望の基本だけど」


 シンゴが呆れたように言った。


「飲む打つ買う?」


「酒を飲む。博打を打つ。女を買う。クズ男の三拍子」


「なるほど」


「そんな刹那的な考えしかなかったのかな」


焚き火に照らされたシンゴの表情は、何処か影を宿していた。


「世界が滅びないようにしよう、とか、考えなかったのかな」


「世界が、滅びないように……?」


「ああ。俺は、モーメントがゆっくり沈んで行っていると思う。世界が滅びようとしていると言っても、海が荒れたとか、地面が揺れたとか山が火を噴いたとか、そう言うんじゃないんだろう? 確かに魔物の被害は甚大だけど、東の方じゃまだ人間主体の場所は多いと聞く。世界がゆっくり滅びているんなら、少しでもそれを留める方法を考えはしなかったのか。モーメントが船で、ゆっくり沈んで行って逃げる場所がないのなら、船に入ってきた水をくみ出したり、穴を塞いだり、そう言うことができるんじゃないか、とか」


「……考えなかったな」


「俺は考えて欲しいと思う」


 シンゴの目は真剣だった。


「自分たちが住んでいる世界なんだから」


「……そうだな。トーノは世界の為になるとは言ってたけど……」


 エンド行を提案したのはトーノだった。


 絶対エンドを守っている人たちはうまいメシとか回復魔法とか女とかに飢えてるから、それを売ってエンドにしかない魔物の革とか宝石とかを手に入れて戻ってくれば大儲け、と。これなら世界を助けるためにもなるから、と。


「……それって世界の為になるのかな」


「俺もよく分かんない。まあトーノの言うことだから、適当な思いつきなんだろうけど、俺も確かに、ただ街でゆっくり沈んでいくのを待っているよりは、何処かへ行った方がいいんじゃないかな、と思ったんだ。だからエンド行に同意した」


「じゃあ、ヴェデーレは今の状況が良くないと思ったのか?」


「少なくとも、このままじゃ沈む、とか思ってた」


「そっか」


「……俺も聞いていい?」


 シンゴが顔をあげる。


「何?」


「西から来たって言ったよな。西は魔物がたくさん出ているって言うけど、どんな感じ?」


「種族同士が協力してる」


 シンゴは西の様子を教えてくれた。


 大樹海の森エルフ、無窮山脈のドワーフ、ビガスのヒューマンが生み出した木材、薬草、鉄鉱石、食糧をフェザーマンが西地域全体に行き渡るようにしている、と。魔物のいない空の輸送だから食糧も武器も魔物に渡ることなく、西は魔物と対抗する力を養っていると。


「すげえ」


 としか言いようがなかった。


 ドワーフとエルフの仲の悪さは有名で、ドワーフの街にエルフ産の薬草がないなんてよくあることだし、フェザーマンは神に愛された一族としてプライドが高いのに、神に与えられた神獣を輸送に使うなんて。


 そこで、俺は思いついた。


「それ、シンゴが一枚かんでない?」

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