第123話
シンゴを加えて再会した俺たちの旅。
エンドがどれほど恐ろしい場所か思い知らされた。
魔獣が平気な顔をして街道に出てくる。魔族が魔獣を率いて襲いかかってくることもある。世界が滅亡に向かっていると言われている今、世界中で魔獣魔族の出現報告が聞かれるけど、エンドが頑張っているお陰で西と比べて東は侵攻が遅いと言われている。
西は森エルフの大樹海、ドワーフの無窮山脈、ヒューマンのビガスが落ち、フェザーマンの奈落断崖も危険だという情報があったけど、西から来たと言うシンゴは、何とか立ち直っているらしいと言った。
大樹海、無窮山脈、ビガスは世界でも有数の生産地だ。そこがやられたら東もアウトだとも思われたけど、シンゴの持ち物が、彼の言ったことが真実だってことを物語っている。
やっぱり、シンゴの持つ剣は無窮山脈で産出、鍛えられた魔具だった。無窮山脈の武器は何十年も前に失われたと噂になったけど、シンゴの持っている魔剣はどう見ても新品のようで、更に守護と攻撃の印、ドワーフの守護獣だと言う火蜥蜴の紋章すら刻まれていた。最高級の武器の証。そんな武器を持っているのは国クラス。それを一個人であるシンゴが持つのは、何か無窮山脈の弱みを掴んでいるかそれともそんな武器をドワーフが預けたくなるほどの功績を持っているか。
しかも、フェザーマンにしか懐かないはずのグリフィンが、シンゴに滅茶苦茶懐いてる。
シンゴはグライフに一番後ろを任せた。先頭と背後は一番危険だけど、シンゴは自ら先頭に立ち、グライフが命じられるまま一番後ろを歩いている。
普通、どんな獣でも、所有者が傍にいなければ逃げたり暴れたりするもんだけど……グライフは胸を張って荷馬車の後ろを歩いている。
グライフは敵意や魔の気配に一番敏感だから、と、シンゴは後ろにやった。
「グライフ、後ろは任せた。何かあったらお前がこの人たちを守るんだぞ」
と言い聞かせたシンゴに、グライフは、
「ぐるるぅ!」
と一鳴きして応えた。
ちゃんとした主従関係……いやそれ以上に深い信頼関係が結ばれている。
「一体どうしてグリフィンに乗ってるんですかあ?」
と少しも躊躇わず聞いたトーノに、シンゴも躊躇わず、
「助けたら懐いたんだよ」
と答えた。
何でも、旅の途中、傷付いたフェザーマンとグライフを助け、奈落断崖へ送り届けたという。その時助けたグライフがシンゴに懐いて、フェザーマンからグライフを与えられたとか。
こういうね、盛り過ぎの人間ってね、実在するのよね。
俺なんかとてもついてけない。
しかも口先だけのトーノみたいなヤツでなく、実戦も強い。
魔獣や魔族の襲撃が日に何度もあったけど、シンゴが気付き、壮大な木壁で荷馬車ごと俺たちを庇って、グライフと一緒に魔物を倒している。俺たちその間、木壁の中で心臓バクバクさせながら待っているだけ。
強いけど、どんな戦闘してるのか分からない。
と思っていたら、トーノが荷馬車の幌の上によじ登って大興奮。
「すげえ、シンゴ、強ぇ、グライフ、強ぇ、魔物、相手に」
「そんな説明で分かるか!」
「とにかくすげえんだよ、強ぇんだよ、グライフとシンゴだけで魔物オールキルだよ、動きが違うよ、今まで見た中で一番強ぇよ!」
人を持ち上げたりヨイショするのが得意なトーノだけど、そう言う時は大体敬語になる癖がある。そのトーノが敬語忘れるほど興奮するってどんな戦いぶりなんだ。
幌馬車の上で興奮して踊りまくっているトーノを見上げて、身体の軽いハーフノームのクーレも何とか幌馬車の上に登った。
「うわ……」
クーレが絶句する。
「どうなんだクーレ!」
「トーノの言った通りだ、これだけ強い人間に初めて会ったかもしれない」
「苦戦とか、ケガとかは?」
「全然! 触れる魔獣すら存在しないよ!」
「くそ、見たい」
グルートンが唸った。ハーフドワーフのせいで普通の人間よりも体重が重いグルートンは幌に登れない。俺もヒューマンだけど体重軽い方じゃないから登ろうとも思えない。
何人かの同行者も幌の上に登って、応援したり騒いだり。
で、トーノが言うには華麗に魔物をフルボッコしたシンゴは、木壁消して、苦い顔を向けた。
「魔物の興味を引かないために木壁作ってるのに、上によじ登って大騒ぎされたら魔物の気がそっちに向くだろ」
「……はい」
「見るなとは言わないけど、あそこまで大騒ぎしちゃいけないよ。飛べる魔物はいないけど、跳ねる魔物はいるんだからね」
「すいませんでした……」
さすがにジャンプする魔物の存在を忘れていたトーノはしゅんと耳を伏せた。
「まあ、今回も怪我人がいなくてよかったけど」
周りを見回せば、平穏なのは荷馬車の周り、木壁があった内側だけで、外は魔獣や魔物の血であちこちが染まっていた。
十数体の魔族がそこに倒れている。
これを、あれだけの時間で、一人と一頭で、倒したって言うのか?
マジすげぇ、パなさすぎ。
本当、誘ってよかった。
でないと、血に伏しているのは魔物じゃなく俺たちだったからな。
「こいつら、なんか使う?」
シンゴがチラリと死んだ魔物たちを見た。
トーノが、「さて、さて、さて」と揉み手をしながら魔物の死骸を漁る。
「うおうラージウルフ……こいつの毛皮は冬にいいんだ……アザーカーバンクル! こいつの宝玉は高く売れるぜ? それと……」
「トーノ、あんまり時間かけるなよ」
グルートンが声をかけた。
「まだまだ道のりは遠いんだ。第一、俺たちの荷馬車は一杯だ。大物は無理だぞ」
「荷物だったら」
シンゴの手が空を切った。
空間の切れ目に、整理されたような……隙間?
これって、魔法、道具箱じゃねーか!
「これだったらそこそこ大きいものでも入れられるよ。大丈夫、横取りやしないから」
一体何者なんだ、シンゴって。




