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第12話

 一〇キロ過ぎた時点で、再生された森は消え、腐った地面が続いていた。


「……戻せないのか?」


「戻しながら行くって手もあるけど、手間がかかるよ」


 本当なら戻しながら行きたい。けど。


「俺の再生は、俺を中心に決まった範囲だけ再生するんだ。範囲は持っている信仰心で決まる」


「今の信仰心とやらではあの範囲が限界、というわけか?」


「うん。神子を増やすかして信仰心を上げないと、広い範囲を一気に再生することはできない」


「信仰心とは神を信じる心。あなたが真悟様を疑う心を持てば、その力は弱まるのです」


「さっきからなんだこの女は。何故この女を連れ歩いている」


 レーヴェ……。シャーナにケンカ売ってるよ……。


「私はシンゴ様の第一の神子。そしてこの世界を案内する役を負っているのです。常にシンゴ様と共にあり、その御力となるのは役目」


「案内なら滅びが始まる前から生きている私ならばできる。案内する水晶もあるようだし、お前は危険地帯に向いていな。帰れ」


「信仰心低い神子だけをお傍に置くわけにはいきません。私は何処までもシンゴ様と共にあります」


「足手まといだろう」


「あなたこそ、錆びた剣しかないのに戦えるはずがないでしょう」


「素手での戦闘も心得ている」


「あのー」


「何でも武器で解決できるというわけではありませんよ」


「あのお!」


 俺は声を張り上げて二人を止めた。


「気が合う合わないはあるから、ケンカするなって言うのは無理なんだろうけどさあ」


「……はい」


「……ああ」


「せめて移動中は静かにして。こう見えても、生き物がいないかドワーフが倒れてないか見てるんだからさ」


「……申し訳ありません」


「……無礼を許せ」


 はあ。これで静かになってくれるかな。


 言った通り、俺はこう見えても辺りに気を配っているのだ。


 生き残った動物や植物がないか。


 もちろん【神威・創造】を身につけたからには、植物ならゼロから作り上げることができる。


 でも、どんな植物を創り上げればいいか分からないし。のんびり考えてる暇もないし。エルフの皆さんが畑を耕して自給自足できるようになるには【属性・金属】と【属性・獣】がいるし。


 美女二人連れで乗り心地最高の乗り物で旅行、なんてはた目には見えるけど、こっちは何とかこの世界を元に戻したいのに後ろでケンカやられて集中力削られてるんだからなあ……。


 水晶球を見上げると、別方向にうっすらと細い光が向かってる。


 導きの水晶球は、困っている存在を見つけ出すことができる。特定の相手を見つけることも出来れば、周囲の存在を見つけ出すこともできる。


 つまり、近くに困ってる《《何か》》がいるはずだ。


「二人とも」


「はい」


「どうした」


「どうした、とは何て口の利き方を」


「はいそこまで。どうやらこの近くに困ってる《《何か》》があるようだから、少し寄り道していいかい?」


「シンゴ様のご自由に」


「主の行く所が騎士の行くところだ。好きなように」


 またシャーナが何か口を出そうとしたのを視線で止め、俺は自在雲を細い光の指し示す方向へ向けた。



「この辺り、かな?」


 うっすらとした光が水晶球全体から漏れている。


「何もいないようだが」


「神具が間違いを起こすということはないのですが……」


「ちょっと二人はここで待ってて」


 俺は自在雲を降りると、じっと辺りを見回す。


 樹海の腐り落ちた木々の根元をじっくりと見る。


 光が照らしている場所をじっくりと眺める。


 分からない……なら。


 俺は自在雲から導きの水晶球を外し、そっと足元に降ろす。


 自在雲の真下に、光が差し込んでいる。


 真下か。


 俺は自在雲を少し動かして位置を変えると、光が腐った大地の中に差し込んでいる。


 手を入れて、腐った地面を掻き分ける。


「……みぅ……」


 微かな声が聞こえた。


「何かいる」


「何がですか?」


 シャーナとレーヴェが雲の上から覗き込む。


 冷えてしまった地面に、かすかな温もり。


 引っ張り出したのは、腐った地面で全身がガッチガチに固まった四つ足の小さな生き物だった。


 この生き物が、助けを求めていたのか?


「……みぅ……?」


「動物?」


「弱っているようだな」


「ちょっと待ってくれよ」


 【浄化】を使って、全身の腐った泥をキレイにする。


 汚れの移らない自在雲の上で、小さな生き物はぐったりしていた。


 ふわふわしたグレイと黒の縞の毛並みの、猫のような生き物。


 【観察】する。


【神子候補:灰色虎グレイ・タイガー 信仰心100 属性:獣/大地/岩】


 え? 猫じゃなくて虎? 灰色の虎? これも神子候補?


「どうなさった」


「レーヴェは灰色虎って知ってる?」


「承知している」


 レーヴェは頷いた。


「岩山に暮らす大猫だ。こんな樹海まで迷い出たということは、相当飢えてここまで降りてきたのだろう」


「でも、こんなに小さいのに……?」


「大猫も幼獣の時は小さい。育てば人をも食い殺す」


 癖になったヘルプ機能で灰色虎の項を調べた。

【灰色虎:岩山の王者とも呼ばれるネコ科の大型モンスター。地球のライオンとほぼ同じ大きさまで成長し、岩山に棲むヤギなどを単独で襲い食い殺す。ジャンプ力も高く、高所から落下しても受け身を取れるので、岩山からジャンプして猛禽類などを襲うこともある。毛皮は一級品の柔らかさで、ハンターに狙われるが、滅多なことで狩れる獣ではない】


 ふーん。確かに毛皮はふわふわだけど……だけ……ど?


 指が思った以上に沈み込んだのに気付いて、俺はやっとその獣が困っていたことに気付いた。


「やってみるかな」


 【神威・創造】を使ってみる。大地があれば多分これは作れるだろう。これくらいの大きさで、ええと……。


「えいっ」


 小さな皿が出来た。


「よし! 【創造】成功!」


 干し肉と、水を虎に差し出す。


「……みぅ?」


 獣は力なく立ち上がり、水を飲み。


 ぴちゃぴちゃと音を立て夢中で水を飲み出す。


 まあこんな所に飲める水なんてなかったよなあ。


「ほれ、これ食えるか?」


 干し肉を鼻先に近付けてやった。


 虎はふんふんと匂いを嗅ぎ、牙をむいて干し肉に噛みつく。押さえつけ、干し肉を引きちぎっては食らいつく。


「おお野生」


「やはり野獣です。野に還したほうが」


 がつがつと食べる虎を見て、シャーナが首を横に振った。


「ふん。野とはどこだ?」


 軽蔑しきった声でレーヴェが言う。


「この虎が食らう生き物はここにはいない。放っても飢えて死ぬだけだ」


「ならどうしろと言うのですか。養えとでも?」


「ふん。第一の神子と言う割には何も見ていないのだな」


「何ですって」


「我が主は既にこの獣を受け入れる気でいるようだぞ」


「え、分かる?」


「分かる」


 レーヴェは口の端を持ち上げた。


「我が主が、【属性・獣】が要ると言っていただろう。その虎は確実に【獣】だ。これで獣を再生することも創造することもできると言うことだ。そうだな?」


「え? ……ああ、ここに見捨てるわけにもいかないし、属性に【岩】もあるし。育ったらきっと強いんだろうなあ」


「シンゴ様?!」


「シャーナは嫌なのか? この子を神子にするのは」


「え……あの、その……」


「この子がいれば獣が増える。食べるものが増えれば、助かる命もある。……そりゃ食うために獣を増やすわけじゃないけど、植物と動物が揃えば、人間にも暮らしやすい環境になるというわけ」


「真悟様が……そうとおっしゃるなら……」


「よし、お前も神子になるか?」


「みぅ!」


 干し肉を食いちぎりながら虎は鳴く。


「よし、契約だ」


【灰色虎を神子にしますか?】


「Y!」


【神威・神子認定成功】


「よし、これでお前も俺の仲間だ! 一緒についてくるよな?」


「みぅー!」


 そして確認した。


【遠矢真悟:生神レベル26/信仰心レベル8200

 神威:再生10/神子認定3/観察5/浄化6/転移1/増加3/創造2

 属性:水5/大地2/聖6/植物4/獣3/岩2

 固有スキル:家事全般/忍耐

 固有神具:自在雲/導きの球】

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