第116話
ありゃ。バレたか。
まあこれは俺のせいだよなあ。でも守護獣に手を出そうとしていたプセマがいる以上、ケファルを放っておくわけにはいかなかった。
「生神……?」
スシオが不思議そうに俺を見る。
「神なのか?」
「自覚は薄いが」
サーラが腕を組んでいた。
「兄ちゃんが生神だとすると、兄ちゃんが助けに来た姉ちゃんたちは……?」
「守護獣」
サーラはすらっと答えた。
「私は大地と炎を守護するドワーフの守護獣だ」
「え」
さっき口を挟んできたドワーフや、他のスラムドワーフたちが目を丸くした。
「守護獣様?!」
「ああ。無窮山脈に眠っていた守護獣様だ」
ヤガリも頷く。
「こっちの黒髪の姉ちゃんもなのか?!」
「私は大地と風の守護獣。ケンタウロスを守護している」
「げ」
スシオは目を丸くして、慌てて頭を下げた。
「す、すみ、すみま」
「いや、我々は君たちに敬意を求める者ではない」
ベガは軽く手を振った。
「確かにケファルには助けを求める声を聞いて行ったけど、助けを求めたのはここにいる君らだけだと判断した。守護獣と分かって捕らえに来たプセマやあんたらを犠牲にして安泰にすることを選んだ街民は助ける価値なしと判断した」
「そんな、邪魔者のおれたちを助けて……」
「邪魔者なんかじゃないよ」
「……神様?」
「神様なんて呼ばなくていい。シンゴだ。……俺が生神ってことは一部の人間を除いては内緒なんでね」
「……じゃあシンゴ、俺たちに仕事と飯を与えて、あんたはどうするんだ」
「どうもしないよ。俺は助けを求める人を助けるのが仕事で、ケファルに行ったら、助けてほしいのがあんたらだっただけ。後の連中はプセマがいれば街は安泰だと思ってたんでね、プセマと一緒に閉じ込めてやった。プセマが精霊魔法の使い手とは言え、あの街は外からも中からも破れない。そう言う風に俺とベガが呪縛をかけたからね。連中が反省するまでは街の中に閉じ込めさ」
「だけど、死物とプセマが手を組んでいたぞ? そいつはどうするんだ」
サーラの言葉に俺はニッと笑った。
「外からも誰も入れないって言ったろ? プセマがお前を売ろうとした魔族が来ても入れないよ。一応守護もかけてあるから、街民には問題はないよ」
「プセマにはかけてない、と」
「守護獣を売ろうとした人間に加護は必要ないだろ」
と、慌ててドワーフたちが頭を下げた。
「も、申し訳ありません!」
「あのプセマがよりによって我らの守護獣様を売り飛ばそうとしたことを知らずに、自分の不幸だけを見て……ただ神に助けを求めるだけで……」
「いや、構わない。それより、今まで気づいてやれず済まなかった」
逆にサーラに頭を下げられて、ドワーフたちが慌てふためく。
「今更助けておいてなんだ、と言いたいだろうが……無窮山脈で働いてもらえないだろうか」
ドワーフたちは顔を見合わせ……そして泣き出した。
「親の代からケファルにいて、ケファルで死ぬと思っていたのに……」
「無窮山脈で働けるなんて……思っても見なかった……鉱山の仕事ができるなんて……」
「でも、儂らはケファルで生まれて鉱山の仕事を知らねえ……」
「大丈夫だ、一から教える」
「無窮山脈で……働けるなんて……」
「守護獣様に言ってもらえるなんて……」
おいおいと泣き出すドワーフたち。
「我らの守護獣様は……目覚めていないのだな……」
エルフが心底羨ましそうに呟く。
「守護獣様は知らんが、森エルフの泉は復活した」
「え?」
「シンゴが再生してくれた。泉は聖域となっている。シンゴと神子は入れるのだが、それ以外の者はエルフ以外には入れない。森で薬草や魔法草の育成や木を間引きしたりするのにエルフの手を借りたいが、エルフやその血を引く者はいるだろうか」
レーヴェの問いに、数人の耳の尖った人たちが手をあげた。
「クォーター……人間が四分の三だけど、大丈夫か?」
「ああ、エルフの血が入っていれば大丈夫なはずだ」
「織物が出来そうな者はいないだろうか」
ベガが尋ねた。
「興味のある者でいい」
「で、でも、ヒューマンにあの超高級な馬厚織が織れるか……」
「織れるとも。腕が二本あればいい。足が二本でも全然問題ない。興味があれば教えるし、世界が再生した後に草原を出て工房を開くもよし。スラムで育って何も知らないと言うのなら、織物を学んで何処かの街でそれを売るもいいだろう」
「店……」
「あたしでも、創れる?」
不安そうな女の子の言葉に、ベガは頷いた。
「やる気さえあれば」
「やる! やりたい! あたし!」
女の子がぴょんこぴょんこ飛び跳ねる。
「織物作って、お店開いて、売るの!」
「やる気があるのなら、最高の技術を教える」
うんうん、とやる気満々で頷く女の子や、数人の女性陣。
「あとは、何かやりたいことはないか? やりたいことがある奴は」
「俺……」
スシオが恐る恐る言った。
「俺、兄ちゃんの力に、なれるかな」
「ん?」
思わず聞き返した俺に、スシオは真っ赤な顔になってぶんぶんと首を振った。
「い、いや、何でもない、忘れて、忘れ」
「何だ、スシオは神子になりたいのか?」
サーラが言ったのに、スシオは首を傾げる。
「ミコ?」
……あー、スシオは神子の意味を知らないかあ。




