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第107話

 プセマさんは御者台に座り、俺たちは馬の速度に合わせて歩く。


 プセマさんは最初馬車に乗せてくれると言ったんだけど、俺は断った。


 あんなに堂々と山賊が出てくるような場所で馬車に乗っていたら、奇襲に対応するタイミングを失う可能性もあると断ったら、「確かにそれはそうです……申し訳ありません、わたくしの考えが浅かったようです」と謝られた。むしろ好意を断って謝らなきゃいけないのはこっちの方なんだが。


 ミクンとアウルムは相変わらずグライフに二人乗りしているし、ヤガリはブランを引いている。コトラはピンっと尻尾を立てて先頭を歩く。


「子猫にしては足が太いです」


 プセマさんはコトラを見て、うむむと唸った。


「ただの猫ではないです……いえ、猫ですらないです。この正体は、一体……」


「看板猫」


 灰色虎を連れ歩いていると知られたら、何処から正体がバレるか分からないので、俺は地球の言葉で返した。


「カンバンネコ?」


「俺たちのマスコット。コトラを連れている行商人ってことで名前を売ってる、のかな」


「なるほどです、そう言う認知のされ方もあるのですね」


「俺も聞きたいんだけど」


 俺は常々の疑問を口にした。


「魔法を売り物にするのに、何で馬車がいるんだ?」


「何で、と申されますと」


「いやー、俺の知ってる魔法使いってのは、そんなものを持ち歩いているイメージなかったから……」


「ああ、それは恐らく、皆さん、道具箱アイテム・ボックスを持っているんです」


「道具箱?」


「はい。魔法の一つで、その人間だけが取り出せる特殊空間に大量の荷物をそのままの状態で保管することができるです。あいにく、わたくしはそれが使えませんです」


 と、プセマさんは苦笑した。


「わたくしの売り物は魔法です。が、魔法をかけるだけでおしまい、と言う商売でもないです。病気の治療の為に魔法薬ポーションを作ったり、魔物から身を守るために村全体に結界の仕組みを作ったりするです。だからどうしても荷がかさむです」


「なるほど……」


 ポクポクと規則正しい馬の足音を聞きながら、俺は頷く。


「道具箱、使えるようになろうとかは思わなかったんですか?」


「神系魔法と同じ効果の魔法を使うのは、大変なんです」


「そうなのか?」


「はいです。神の力で魔力を動かす神系魔法は、容易く空間を捻じ曲げるです。精霊魔法で同じ効果を出そうと思ったら、自分の力で空間を捻じ曲げなければならないです。わたくしには自身の力で空間を捻じ曲げるだけの能力がなかったです」


 道具箱かあ。それが使えれば色々持ち歩けるんだけど。


 多分俺なら使えるかな。でも、今はやめとこう。精霊魔法系の魔法使いってことになってるのに精霊魔法じゃ難しい魔法を使えるようになっちゃったら何者だってことになるしな。


「ほら、見えてまいりましたです」


 プセマさんが短い手で前を指した。


「あれが、ケファルの入り口です」


 ビガスのように周りを深い堀に囲まれ、跳ね橋で四人の兵士が槍を組んで守っている。


 プセマさんが手を振ると、少しばかり兵士の緊張が解けた。


 でも油断していないのは、俺たちと言う存在があるからだろう。行商人の外套を着ているとはいえ、始めて見る顔だからなあ。


 跳ね橋の一歩手前で、プセマさんは荷馬を止めた。


「いつもの売り物と仕入れに」


「よし」


 プセマさんは一つ頭を下げて、先に街に入っていく。


「で、お前たちは」


「行商人です」


 俺の言葉に、兵士は小さな箱のようなものを出した。小さな音がして、緑の外套が一瞬光る。これが行商人の外套が本物かを見る魔法道具なんだろう。


「品物は」


「これです」


 ブランが両脇にぶら下げた樽にはワイン。グライフが背負っているのは干し肉。


「まだある」


 サーラがすっと手を翳した。


 空間が歪んだようになって、その中にたくさんのパンが収められているのが見えた。


「道具箱の魔法を持っているのか」


 俺も初めて知ったけど、……神系魔法ではそんな難しくないと言う道具箱を、神みたいな守護獣に使えないはずがない。


「しかも……これは……」


「ひとついかがか」


 サーラは湯気の立つパンを取り出して兵士に渡した。


 最初、匂いを嗅いだり千切って見たりしていた兵士たちだったけど、小さく千切ったのを口に入れた兵士がひったくるように食べだして、終いには奪い合いになった。


「売りに来たんだから、金を出せばちゃんと売る。取り合いなんて真似をするな」


 サーラの呆れ声に、兵士たちは我に返ったかのように顔を見合わせ、そして気まずい雰囲気を出した。


「……通ってよし!」


 俺たち謎の行商人一行は堂々と街に入っていった。



「結構活気が残っているな」


 レーヴェの感想は俺も同じ。アムリアなんて人はいるけど活気はゼロだったもんな。


「どこらへんで商売すればいいんだろう」


「こういう街の中央部には大抵広場があり、外から来た人間が商売するのはそこだ」


「へーえ」


「プセマさんは何処で商売しているのだろう」


「常連のようだからあ、何処か定位置があるんだろう。……ミクン、どうした?」


「いやー……なんか……」


 ミクンは首を捻っていた。


「ノームって、嘘言わないんだよね?」


「ああ」


 ミクンの問いにサーラは頷く。


「何て言うか……嘘はついてない……ついてないんだけど……なんだろ、もやもやしてる。よくわかんない。あたしの気のせいかもしれないけど」


「ミクンの勘は当たるからな」


 ヤガリが辺りに視線を走らせた。


「もやもやしているということは、何かがあるってことだろう。気をつけよう」


 俺の言葉に全員が頷いて、中央広場に入っていった。

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