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第106話

「ちょっと、傷見せてな」


 小柄な行商人ノームのケガの具合を見る。


「いつっ」


 あ~。こりゃヤバいな。


 錆びた斧で斬りつけられたせいで、錆の汚れが傷口に入っちまってる。消毒しないと破傷風はしょうふう……傷口から入ったバイ菌が原因で傷口が開いたままになったり熱が出たりと大変なことになる病気が発症する。


 【浄化】を使えばいいんだが、今この人たちの目の前で端末を出すわけには……。


 ……あ、そうか。


 端末なしで出来るかどうか試せばいいんだ。


 自然は時間さえかければ俺の思う通りに動く。神威も同じだ。要は、俺がイメージしやすいように魔法には名前が、神威には端末があるんだろう。


 つまり、俺が冷静で集中できるなら、今の俺でも端末なしで【浄化】くらいなら使えるはずだ。


「よし……」


 傷口に集中する。


 キレイな水で洗い流すイメージ……バイ菌を取り除くイメージ……元のように戻すイメージ……。


 イメージの中でバイ菌が消えたのを確認して、俺は回復ヒールを唱えた。


 よし。キレイに治った。


「ありがとうございますです……」


 深々と頭を下げたノームは、ミクンより年を取っているように見えた。年寄ってわけでもないんだけど俺よりは上かな? サーラは以前ハーフリングは幼い顔立ちと言っていたけど、ノームの【鑑定】にはそれがなかったので年相応の顔立ちなんだろう。


「同じ行商人でございますですか」


 俺の緑の外套を見て、同じ外套を着たノームは目を見開いた。


「商売敵を潰すため、山賊を雇う輩までいると言うのに……助けて下さったのですか」


 うわ、そう言うヤツもいるんだ。この世界が滅亡しようって時に山賊とか商売敵を陥れるとか。


 人間ってのはどうしてこうも業の深い……。


「しかし、わたくしは運が良かったでございますです。助け手に巡り合えたのですから。助け手の方、お名前をお聞かせいただけますですか?」


「俺はシンゴ」


 それから、と指をさす。


「真っ先に辿り着いたのがレーヴェ。山賊と審判に持ち込んだのがヤガリ。あと、金髪のがサーラでフェザーマンがアウルム。後はコトラとブランとグライフ」


「なんとまあ」


 しばらく口をあんぐり開けていたノームは、顎に手をやってやっと自分の口が空いたままなのに気付いたんだろう、慌てて閉じた。


「失礼しましたです。わたくしはノームの行商人、プセマと申しますです。……まあ、行商人と言っても大したものは売っていないのですが」


 そしてプセマさんは不思議そうに聞いてきた。


「シンゴ様、と申されましたですか。シンゴ様はもしかしたらノームの血をお引きに……?」


「へ?」


「よくそう言われるが、彼は混じりっけなしのヒューマンだよ」


 サーラが笑って代わりに応えてくれた。


「神力を使わない魔法だったので驚いたんだろう。彼は生まれながらに魔力を直接操る才能を持っているんだよ」


 と、同時に心話が入る。


(精霊魔法系が使えるヒューマンと思わせておくんだ。まさかお前が神だなんて言いふらすわけにはいかない)


 心の中だけで頷く。


「何と……そのようなヒューマンがいらっしゃるのですか……。そのような才能を持つ方に初めて巡り合いましたです」


「プセマさんは何を売っているんですか?」


 これ以上突っ込まれるとボロが出そうなので、俺は無理やり話を変えた。


「魔法、です」


「魔法?」


「そうです。ノームが使える精霊魔法で、ケガを治したり水を浄化したり……そのようなことをしてお礼に食事や宿代などを受け取っているのです」


 なるほど、行商人って定義は随分広いらしい。スキルである魔法の使用を売り物にできる、そして行商人ギルドがそれを認めたってことになるから……。


「皆さんは何をお売りに?」


「主に食糧」


 俺は即答した。


「西の方は随分マシになっていて、そこから食糧を仕入れて売り歩こうって思ってる」


「何と」


 プセマさんは目を丸くした。


「西が復興しているとは、聞いておりましたですが……食糧を持ち出せるほどになっているとは」


 しかし、とプセマさんはこめかみのあたりに人差し指を抑えて続ける。


「しかし、それでは、大赤字ではないですか? 東はこの通り、魔境と言ってもいいです。食糧は何よりもありがたがられますですが、等価になるのもはありませんです」


「西の方からの頼みもあってね」


 サーラが付け加えてくれた。


「東の方がどうなっているかを見て来てくれとな。下手に東の民が西に流れ込んで来たら、せっかく復興なっている西も持たないだろう?」


「ああ、確かに、です。しかし、東の民は西に辿り着くだけの余力もない、とわたくしは見ていますです」


「どうして?」


「そこのフェザーマンのお嬢さんのように翼がない限り、わたくしたちは地を歩いてゆくしかありませんです。ですが、この通り、地は危険に満ち満ちておりますです。少しでも安全で生き残る可能性の高い場所から動こうと考える人間は少ないのではないかと」


 うん、地上が危ないのは俺も知っている。だから西で品物輸送にグリフォンを連れたフェザーマンを使ったんだけど。


「新街道でも厳しいか……」


「はい、厳しいと思いますです」


 プセマさんは項垂れる。


「この世界が滅亡に向かって突き進んでいるという噂も、あながち間違いではありませんです……」


「まあ、とにかく、我々は品物が売れればいい。この先にケファルと言う街があるとは聞いているから、そこへ行こうと思う」


「何と、それは奇遇です。実はわたくしも品物を売り、仕入れにケファルへ参ります。御一緒いたしませんですか?」


 プセマさんの明るい声に、思わず俺たちは顔を見合わせた。


「その申し出はありがたいが……」


「皆様がお助け下さったおかげで、馬もこの通り無事でございますです。人数が多ければ多い程、山賊やその他不埒者も近付きたがりません。お互い目的地が同じなら、共に行った方が安全だと思うですが」


(どうしよう、サーラ)


 心話で聞いてみると、呆れたような思念が返ってきた。


(お前がリーダーだろうが)


(いや、リーダーっぽいのはサーラだし」


(神子にいちいち行動の是非を聞く生神はいないぞ。とにかく、お前が決めろ。私達はそれについていくだけだ。それが神子と生神と言うものだろう)


「じゃあ……」


 俺は少し悩んでから、言った。


「ご一緒させていただいてもよろしいですか」


「もちろん、です!」


 プセマさんは笑顔を向けた。

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