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第103話

 言われるがまま、俺は導きの球を取り出し、【鑑定】した。


 【鑑定】を使った感、これまで使っていた【観察】より踏み込んだ深い知識が手に入る。


 【観察】がヘルプ機能なら、【鑑定】は新聞やラジオやテレビやネットをまとめたようなものだ。見た物ならいつでも頭の中に浮かんでくる。便利な神威だ。


 で、導きの球は。


【鑑定結果:神具「導きの球」レア度B

 助けを待つ生物の波動に同調し、その居場所を探り当てる水晶。光跡での反応だけではなく、地図上にもアップされ、そこまでの道筋や地形などの大まかな造りを記す】


 え? そんなんあるの? 知らなんだ! てかいつも端末と一緒に使ってたのに、何で今までそんな力出さなかったの? それがあれば古い地図頼りに街道になってない街道歩いてたんだぞ!


 と、サーラに文句を言うと笑われた。


「いくら能力があっても、自分の知らない力は使えない。他の力も同じだ、存在を知らなければ使えない」


「ああああ~神の力って不便だあああ~」


「まあ、そう言うな。これからどんどん【鑑定】して、新しい知識を身に着けて行けばいい。安心しろ、神の力が切れるのは信仰心が失われた時だ、それ以外ではどれだけ使っても何の問題もない」


 そんなもんなのかねえ。


 とりあえず使ってみるか。端末と導きの球を持って……。


「導け!」


 俺の右掌に載せた球が、バチンッと火花を散らした。いや、それだけ眩しい力……これまで発揮することのない力を見せたんだ。


 四方八方に散った光は、少しの時間をおいて球に戻ってきて、それから端末が光った。


「!」


 端末のマップに浮かんだのはいくつかの光点。光点に向かう旧街道や商人が使っている道、獣道など、そこに安全に辿り着けるルートがいくつも出ている。


 そりゃ、世界は滅亡寸前とは言え、商人は商売しなきゃおまんまの食い上げだ。


 里なんかを周る行商人は、多分世界が滅びるその日まで旅を続けるだろう。そりゃ安全な道も見つけるさ。


 この光点を巡れば、世界中がマップに入るのも遠くはない。


「行商人のふりをした方がいいかも知れぬな」


 ベガが口添えしてくれた。


「今のモーメントを旅する者はそう多くはない。だが、このケンタウロスの草原にも行商に来る人間はいるからな」


「種族バラバラでも大丈夫なものなの?」


「大丈夫だろう。今は人間自体が少ないから、行商人が手を組むことも多々ある。人間自体が減っているから、種族間の争いに一時目を閉じると言ったところだな」


「じゃあ、ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ハーフリング、聖獣や神獣が連れ立って歩いていて目立たない?」


「……う~む」


 悩まないでベガ、不安になるから。


「だが、行商人には商品が必要だ。何か売れるものはあるか?」


「う~ん、【再生】と【増加】のパンとか肉とか……」


「皆の者」


 ベガが起き出してきたケンタウロスに声をかけた。


「《《あれ》》を持ってきてやれ」


「はい、守護獣様」


 ケンタウロスの女性たちが一時その場を去って、何やら持ってくる。


「おいベガ、《《あれ》》とはもしかして……」


「ああ、《《あれ》》だ」


「いいのか? 《《あれ》》はケンタウロスには必要だろう」


「これからは我がここにいる。そしてここは生神の再生した草原だ。残ったケンタウロスたちを直接守護してやれるし材料も採れる。安心しろ」


「いやしかしだな……」


 守護獣同士で分かってる会話やめろ。全然分からんわ。


「お待たせいたしました」


 ケンタウロスの女性たちが手に手に持ってきたのは、布、だった。


「守護獣様が戻っていらっしゃるまで、生神様がいらして下さるまで、ケンタウロスの誇りと技術を絶やしてはならぬと祈りを込めて織ったものです。馬厚織うまあつおりはケンタウロスの祖母が母に、母が娘に教える一子相伝の織り方です。保温具にして防具、分厚く保温と防水力もあって、以前は人間の王族たちがこぞって買いあさった物です。その時に比べて材料は質素になりましたが。どうぞ、こちらを」


「んな、そんな大事なもの売り歩けないって」


 女性たちは笑った。


「この織り方は私達が身に着けた技術です。生神様が再生してくださった草原なら、新しい材料も手に入ります。ケンタウロスが生き残った証として、どうぞ」


 手に取ると、すごく滑らかな手触り。


 朝露が表面に浮いている。朝露ですら弾くんだ。すげえな。


 厚い割りに軽く、鮮やかな緑や青の糸で織り込まれた美しい模様。これで質素だって言うなら、草原の材料が完全に戻った今、一から作ったらどんなのが織れるんだ。想像つかない。


「こんなとんでもなく素晴らしいもの、もらっちまってもいいのか? 場合によっては売るかも知れないんだぞ?」


 ケンタウロスたちはにっこりと笑った。


「……ありがとう」


 分厚いのに折り畳める。すげえ。軽い。すげえ。神具並みにすごいんじゃないか?


「草原の民ケンタウロスが織り伝えた逸品だ。売らなくてもマント代わりに使ってくれてもいい」


 試しに【鑑定】してみた。


【鑑定結果:馬厚織/草原に生える魔力草を穀物で染め、ケンタウロスの尾を織り込んで織った織物。その模様はケンタウロスの女性が一子相伝で受け継ぎ、新しい文様を付け加えて進化していく。魔力を秘めた聖具で、大抵の物理攻撃を吸収し、保温・防水に優れている。本来はケンタウロスが眠る時や天候不順時の防寒具として使われるが、その美しさと効能から王侯貴族が特別に注文を出してマントや外套などとして取り寄せることもある】


「売れねえ!」


 頭の中の説明に声に出して突っ込んでしまった。


「売り物になりませんか?」


「高いよ高すぎるよ! 高級すぎるよ!」


「お値段は生神様がご自由に設定しても構わないのですよ?」


「いや歴史と魔力のこもった聖具とも呼ばれる逸品を扱う行商人っていないよ!」


「ならマントにどうぞ」


「いや……シンゴは聖具、と言っていたろう」


「あ? ああ」


「ドワーフの神聖銀も聖具なんだ。神の力を借りて作り上げる武器は聖具。そんな貴重なものをマントにしたら勿体ないと言うか申し訳ないと言うか」


「使ってこその道具だ、使ってくれ」


 プフェーアトが笑って言った。


「オレたちは雨避けに使ってるんだ、外では聖具と呼ばれているが、実際は生活用品なんだから、使い潰すつもりで使ってくれたらありがたい」


「普段はパンや干し肉を扱って、その品の奥にこういう特殊なものを持ち歩いている、となればなんとかなるのでは?」


「じゃあ、そう言うことで」


 俺たちが行商人のふりをすることが確定した。

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