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第10話

「じゃあレーヴェさん、あなたはここの人ですか?」


「この聖なる泉を守る森エルフの守護騎士だ。もっとも、貴方が来るまでは、只の腐り果てた沼だったが……」


 白い石で守られた泉は、神殿傍の川よりキレイな水をとうとうと湧き出させている。


「全ての神が世界を見捨て、この世界が滅ぶとき、再生と創造の神が降臨して世界を創り直す……この伝説が本当になるとは……」


 緑の目に涙を溜めて、レーヴェさんは頭を下げた。


「俺は大したことしてないよ。それより、ちょっと【観察】していい?」


「かんさつ?」


 レーヴェさんは首を傾げて疑わし気に俺を見る。


 まあ、観察していい? って聞かれて、いいよって言う女の子は少ないだろうなあ……。


「……何だかよくわからないが、神である貴方の言うことだ、お好きに」


 美少女に「お好きに」と言われたら襲う、と言っていた生前の俺の友人がいたけど、……確かにちょっと考えてしまうなあ。


 と、そう言う場合じゃない。目的を果たさなきゃ。


 俺は【神威:観察】を使った。


【神子候補:レーヴェ・オリア 信仰心レベル500 属性:植物/水/聖】


「あった! 【属性:植物】!」


 シャーナより信仰心低いし二つの属性が被っているけど、【植物】を探しに来たんだから結果オーライ、大丈夫!


「あった、とは?」


 疑わし気なレーヴェさんの声。


「あ、ごめん、わけわからないよね。俺が神威を揮うのに、神子の持つ信仰心と属性が必要なんだ。俺は森を再生したいけど、今のところ植物の属性がなくて……それで、君が植物の属性を持っていると確認して」


「……確かに私は森エルフの生き残りだが、そんな森を再生させる力があったら真っ先にここを元に戻している」


「君が俺の神子になってくれれば、大地だけでなく植物も再生できる」

 レーヴェさんはしばらく考え込むような顔をして、俺を見た。


「冗談……では、ないのだな」


「冗談言ってない」


 俺は全力で首を横に振った。


「君には【植物】の属性がある。君が神子になってくれれば、まだ大して広い範囲にはできないけど、森を再生することができるかも知れない」


「いいだろう。神子とやら、引き受ける」


「本当?!」


「シンゴ様」


 シャーナが小声で伝えてきた。


「本当によろしいのですか? あの方は神を信じる心はなさそうですのよ」


「大丈夫。その分シャーナの信仰心があるから」


 後ろから何やらごにょごにょ言う声が聞こえたけど、意味は聞き取れなかった。


【信仰心は低いです。レーヴェ・オリアを神子にしますか?」


「Y!」


 端末をタップする。


 途端、俺とタブレットから光が溢れ、真っ直ぐにレーヴェさんに向かって行く。


【神威・神子認定成功】


「よっし!」


【生神レベル/信仰心レベルがアップしました】


 来た来た来た!


【遠矢真悟:生神レベル17/信仰心レベル7500

 神威:再生7/神子認定2/観察4/浄5/転移1

 属性:水5/大地2/聖6/植物4

 固有スキル:家事全般/忍耐

 固有神具:自在雲/導きの球】


 よっし、属性・植物がついた!


「……今、何が」


「これであなたはシンゴ様の神子となりました」


 シャーナが微笑んでレーヴェさんを見た。


「あなたの御心がシンゴ様の御力を左右することを、どうぞお忘れなきように……」


「何だかよくわからないが、これで貴方はこの森を戻す力を得たということか?」


「まだ全部戻すのは無理だろうけど、この辺りくらいなら行けるかな……」


 端末で再び【神意】を選び、【再生】を選んだ。


【周辺10キロの大地・水・植物を再生できますがよろしいでしょうか? Y/N】


 もちろんY!


 俺から放射線状に光が溢れていき、腐った大地は黒土となり、ピクリ、と動く。


  ごごごごごごご!


 地面を割って、草が、木が、花が、植物という植物が溢れかえった!


「うお、すげえ!」


「これが……緑……?」


「……二度と……見ることは出来ないと思っていたのに……!」


 たちまちのうちに、見渡す限りの森ができた。


「これが……神の力と……?」


「やっぱり植物がないと再生したって言えないよな……。神殿に戻ったらあそこにも再生をしよう」


 と、唐突にレーヴェさんが俺に向かって跪き、頭を下げた。


「レーヴェさん?!」


「再生と創造の神よ……わが一族が守り切れなかった森と泉を再生してくださったこと、感謝する……。森の守護騎士レーヴェ・オリアは貴方に剣を捧げ、貴方のために剣を振るう」


 短剣の切っ先を喉元に当て、レーヴェさんは動かない。


「えー、と、あの?」


「レーヴェは貴方の騎士となることを誓ったのです」


 シャーナがまたも小声で教えてくれる。


「これは、あなたにならば命を奪われても構わない、あなたのためならば命を差し出すという宣誓の儀。短剣を取り、その刃の平で肩を叩けばその忠誠を受け入れたことになります」


「あ、うん」


 俺はレーヴェさんが喉元に突き付けたままの短剣を、そっと手に取った。


 そして、柄を持ち、ナイフの平らな所でレーヴェさんの肩を叩く。


「感謝する、我が主君。私の刃は常に貴方と共にある」


 神子じゃなくて騎士なんだね。まあレーヴェさんは騎士だから、生神と神子より主君と騎士という関係の方が受け入れやすいんだろうね。


「早速で申し訳ないのだが、主君の御力をお借りしたい」


 レーヴェさんは深刻な顔で言った。


「この地には私の他にも森エルフが生き残っているのだが、圧倒的に食物が足りない。何とかならないだろうか」


 うん、そりゃそうだ、それは俺が一番に考えなければならない話だ。


「食糧庫に残った食事とかはある?」


「いや……食べ物と言える食べ物は全て食べ尽くした。食糧庫はほぼ空だ」


 う~ん……【再生】には再生する何かがなければできないんだけど……。


「腐ったのとか、カビたのとか」


「それもすべて……」


 レーヴェさんは困った顔をしている。


 俺も困った。


 【転移】で神殿に戻って食糧を持ってくるって手もあるけど、元となる物がないと【再生】は使えない。食糧庫の食べ物を全部食べ尽くせば【再生】は出来ないことになる。


 何か使えるのはないか……。


 M端末を見る。


 森を再生させたせいか、レベルがあがっていた。


【遠矢真悟:生神レベル20/信仰心レベル8000

 神威:再生10/神子認定2/観察4/浄化5/転移1

 属性:水5/大地2/聖6/植物4

 固有スキル:家事全般/忍耐

 固有神具:自在雲/導きの球】


 そして。


【生神レベルが20になりましたので、新しい神威を覚えました/神威【再生】が10レベルになりましたので、新しい神威を覚えました】


「新しい神威……?」


 神威をタップして開くと、二つの神威が増えていた。


 【増加】と【創造】。


 もしかして、これって……。


 即座にヘルプページで確認する。


【神威・増加:物を増やす。人間と呼ばれる存在以外を増加させられる】


 おお。これがあれば何でも増やせるわけか。


【神威・創造:ゼロから望むものを作り出す。信仰心と属性がないと望むものは生み出せない】


 おおお。これって本当に神っぽい。


 とりあえず、まずは。


 俺は弁当に持ってきていたパンと干し肉を取り出す。


「生き残りって何人?」


「二十人と言ったところで……」


「おし。やってみるか」


 パンと干し肉にM端末を向ける。


【パンと干し肉を増やします。現在の信仰心レベルでは40倍までしか増やせませんがよろしいでしょうか】


 200レベルで5倍ってところか。パンと干し肉一つずつで40倍増やせれば、とりあえず今の分はあるな。


【増加しますか?】


 Yをタップした次の瞬間。


 焼き立ての薫り高いパンと、柔らかく仕上がった干し肉が40個、できた。


「!!」


 レーヴェさんは絶句すると、一礼して走り去った。


「まさか、神に怖気づいて逃げ……」


「たんじゃないと思うよ」


 シャーナの疑念に俺は返す。


 少しして、特徴的な耳をした子供や少年少女がふらふら現れた。


「あ……ごはん……?」


 暗く沈んだ目が、四十人前のパンと干し肉を見て輝く。


「はい、一人ずつね。多分全員分あるから」


「うわあ!」


「焼き立てパンって、何十年ぶりに見ただろ……」


 レーヴェさんが栄養失調らしいお年寄りを背負って戻ってくる。


 泉のほとりで、食事会が始まった。

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