ep11.ブラックアイズ編・8話
ググ、…グ、ググッ…グググ
響は蔵島の抵抗をなんとか抑えていた。空から舞い落ちる雨粒が体を濡らす。蔵島は雫の質問に答えず思考回路を巡らせていた。
蔵島(心の声) 「おかしいですね…シャドウの力がうまく出せません。…体が冷えてるせい…この雨がなにか関係しているのですか?、妙に冷たい、体に付いた瞬間からまるで冷えた氷のようだ、…」
蔵島は響にしがみつかれながら正面に佇む浅草寺を見つめる。
蔵島(心の声) 「もう少し…もう少しです。山の神、浅草寺。この神の力を持ってすれば…全ての人間がひれ伏す」
雫は右目に付ける眼帯を外した。目線の合わない蔵島の顔を眺める。
雫 「お前の中にいるその´´面影´´が私の心をくすぶるんだ…」
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一新井雫・12歳の頃一
私の父は新聞記者をやっていた。母は専業主婦。2つ下の弟・響はエロガキで可愛かった。私は弟の面倒役。外から帰って来た響は綺麗に整った家をハチャメチャにする。母を困らせに困らせたタイミングで私が愛のチョップで響を泣かせて制止させるまでが一連の流れだった。母はおっちょこちょいだがそれなりに頑張っているのは解っていた。そんな母を影ながらサポートする父の姿が格好よかった。いつも家族に笑顔を見せる父は仕事よりも第一に私達の事を優先して動いてくれた。
そんな父を私は尊敬し、好きだった。
こんな和気あいあいとした家族の人生がずっと続くと思いながら日々を過ごしていた。
ある日私が押し入れを漁っているとき、一番奥に入っていた大きな段ボールが気になり出してみた事があった。
その中には落書きにしか見えない絵やゴミにしか見えない物が沢山詰め込まれていた。一番下には私と響の名前が付いた2冊のアルバムが入っていた。それを開こうとした時。母が部屋に入って来ると段ボールの存在に気づいた。
雫 「ねーねーこれなに?」
蔵島玲 「よく引っ張り出せたわね~怪我しなかった?」
雫 「うん、」
玲 「これはね、雫と響が保育園の時に作った制作達よ。このアルバムはお父さんがカメラで撮った雫達の写真と思い出話をそれぞれ作って本みたいにまとめてくれたの。でもね、ふたりの制作物はどんどん増えるし写真に撮ってサヨナラしたらってお母さんは言ったんだけどね。お父さんが譲らなくってね、他にも小学校の時の段ボールもあるんだから」
雫 「へー!!でもゴミじゃん、この本は私貰いたい!」
玲 「良いわよ~。でもお父さんにちゃんと確認してからね。あとお父さん新聞記者の仕事してるじゃない?、でもこの雫達の制作達をしまいながら´´俺がしてる仕事よりも雫と響が残した物の方が充分価値がある´´って嬉しそうに話してたの」
雫 「えー?そうかなー?」
玲 「ふふっ、まだ雫と響にはわからないかな~。もう少し大人になったらわかってくるかも♪」
雫 「私、大人だよ!響の面倒ちゃんと見てるし」
玲 「あ違う、お母さん料理中だった!、雫は宿題あるじゃないの?」
雫 「やーるーかーも」
・・・
一新井雫・21歳の頃一
私と響は専門学生となり、まだ実家にお世話になっていた。私が高校生の頃1軒家に引っ越した。2階に私と響の部屋が別々にあり、私は部屋で音楽を聴きながらネイルをしていた。響は学校よりも空手の練習にいそしんでいるらしく家にはいなかった。
私は父が嫌いだった。
母がこの前、父は仕事で1ヶ月程帰ってこないと言っていたのに。
1週間と経たずに父が明け方帰って来た。1階に居座る父に話し掛ける気もない。
母はパートの仕事を最近はじめ、今日も仕事に出ていた。
ガチャッ
´´ただいま´´の声がない。
足音だけ。響だ。
居間のドアが開く。
ドサッ
空手着の入ったエナメルバッグをむげに置いたのだろう。
響は帰ったらまず冷蔵庫にある牛乳パックを開けて直飲みする。何度言っても止めない。響は反抗期をこじらせていた。
ドッ、ドゴ、ドゴゴッ
そしてストレスを発散したいのかエナメルバッグを殴り、蹴る。ここまでが響の帰宅後ルーチンだ。
父はそれを知らない。
蔵島白虎 「響。物を大切にしなさい」
響は冷めた目で父を見る。
響 「いいだろ、別に」
白虎は本を閉じた。
白虎 「何が良いんですか?、」
響 「俺のエナメルバッグだから俺がどうしたっていいんだよ!」
居間のドアは開けっ放しだった。
私は軽い喧嘩だと思い放っておいた。
白虎 「そんな言葉使いをする人には自費で学校に通って貰った方がいいですね」
響 「は?」
白虎 「物を大切にしない人間が、警察官のように人を守る誠実な人間になれるとは思えないと言っているんです!」
響 「はっ、何もしらねえくせに。…」
白虎 「何ですか?」
響 「たまにしか帰ってこない分際で偉そうなこと抜かしてんじゃねえって言ってんだよ!!!」
白虎は響の胸ぐらをぐいと掴むと玄関まで突き動かした。
響も白虎に掴みかかる。
白虎 「表へ出なさい」
響 「お前が出ろよ」
勢いよく玄関からポーチへ投げ出された響は後ろ向きで倒れた。
肘が擦りむけていた。
響は両肘で体を少し起こす。
白虎 「物を大切にしないと、」
スッ
白虎は傘立てから紺色の長い傘を1本引き抜く。
響 「かかって来いよ、」
白虎 「物に泣きますよ」
白虎は響に近付き強く握った傘の先端を思い切り顔面へ突き出した。
白虎の横を風が通る。
ズドッ
響 「、え?」
響の前に突然、雫がかばうように現れた。
白虎の持つ傘の先端が雫の右目に突き刺さっていた。
そのタイミングで母が「どうしたの?」と門扉を開けて帰ってきた。
起き上がり白虎に掴みかかろうとした響だったが、雫に足を強く握られた為諦めざるを得なかった。
響は白虎の冷酷で蔑むような顔に肚腸煮えくり返っていた。
雫の右目から流れる血。
涙目で救急車に電話をかける玲。
白虎は傘から手を離し居間へ戻った、と誰もが思ったが、白虎は居間のベランダから去っていった。
響(心の声) 「アイツは…悪魔だ」
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一2023年・現在一
雫(心の声) 「あんたはワーカーホリックになってから変わった。そしていつの間にシャドウに感染した。今こうやってあんたの変わった面を見ても、どこかに私の知っている優しい父の´´面影´´が微かに残って見えるのが歯痒い」
雫 「私はお前のその仮面を剥ぎ取りに来たんだ」
その時、雫は空から舞い落ちる雨粒に黒い靄が掛かっている事に気付く。それは蔵島と後方に建つ浅草寺の中を繋いでいた。
蔵島(心の声) 「この雨の様なものは、私の利にも叶いましたね…」
グラッ
すると雫達の立つ足場が左右に揺れる。
響 「俺はどうなってもいい!姉さんっ!!」
ズドン!
雫は右拳で地面を殴る。
雫 「往生際が悪い悪魔だ…」
雫の肚に溜まる怒りが全て頭に登る。
響(心の声) 「なんだ、コイツ…力が増してやがるっ!」
ググ…グ、グ、
蔵島が響の制止を解除しようと筋肉が増強し始める。
蔵島 「もう、おしまいです」
蔵島の目はバキバキになっていた。
その時、下を向いていた雫が顔を上げ蔵島と響の立つ場所を見つめた。
雫 「お前がな。…´´眼光´´」
雫の頭に溜まった怒りが右目の義眼に全て集結する。
その義眼の瞳が赤く染まり始めた瞬間。
赤い閃光が放たれた。
ビビュンンッッッ!!!!
鋭く赤い一直線の閃光は蔵島に迫り来る。
蔵島 「なん、ですか、それ、は!??」
メリッ
赤い閃光が蔵島の服を突き破り心臓の肉を貫通すると、真後ろにいる響の右の肺を突き抜けた。
ドッサアァ
地面に倒れる蔵島と響。
雫 「じじい!助けろっ!!!」
山田 「行けっ!!!」
ダダダッッ!!
山田の掛け声で浅草寺周辺に隠れていたSBTメンバーが出動した。
響はすぐさまメンバーに担架で運ばれる。
蔵島はその場で処置が始まった。
まだ蔵島のシャドウが消えていなかった。
雫が鉄傘を1本杖のようにして持ち蔵島のもとまで近付く。
タ、タ、、タ、タ
グラグラグラ、
地面が上下に揺れる。
雫(心の声) 「融合した上に…森羅万象の神々を使うとは…」
蔵島の足から伸びる影。
鉄傘を振り上げ影を切り裂く雫。
すううぅ…
蔵島の顔から三網紋の痣が消える。
ボゴオォ、ボゴオッ!
地鳴りの影響でレインが地中に空けた部分から地割れが起き始めた。
崩れ始める地面が広がりを見せる。
山田 「ここも危ない!全員撤収するぞ!」
SBTメンバーが蔵島を担架で運び、雫は山田に背負われてその場を後にした。
グラ、グラ
五重の塔が左右へゆっくり揺れていた。
雫と響は別々の病院に入院する事となった。
パキ、パキキ
SBTの特殊トラックの噴霧口から飛ばされていた液状雪の残りが地面に水溜まりを作ると表面を氷結させた。
 




