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shadow  作者: 新垣新太
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ep11.ブラックアイズ編・4話

一豚トコトン・浅草イチョウ通り店一


調理場から立ち上る蒸気。店内はほぼ満席の昼12時頃。




豚トコトン店員 「は~い、お待たせしましたー´´メガメガ豚トコにんにく増し増しギョウザ乗せ´´!ありがとうございます!!」



ドンッ



カウンター席に座る巻の目の前に高く盛られたラーメンが置かれる。




巻 「…イカチー匂いだ。…いただきます!」



割り箸を口で割るとラーメン器の淵に乗せられた大きなギョウザを酢胡椒を入れた小皿に付けて頬張った。



巻(心の声) 「あっちぃっ!、おぉい、もったいねえ、肉汁溢すんじゃねえぞ。コレは俺とお前のぶつかり稽古だもんなあ(笑)」




豚トコトンに新しいお客様が次々と入店する。



豚トコトン店員 「いらっしゃいませ!、空いてる席にどうぞ!」




巻の座るカウンター席の隣が一席空いていた。



そこへ座ったのは雫だった。




雫 「なってないな…」



巻 「(大量の麺を口に頬張りながら雫の方へ目だけ動かす)…ん!?」




豚トコトンの店員が氷水をコップに注ぎ雫の前に置く。ついでに空になった巻のコップにも水を注ぐと雫に注文を聞いた。



雫 「´´豚トコトン・(うら)´´ひとつ」



オーダー表に書こうとした店員と麺を食らう巻が同時に目を見開く。




巻・店員 「´´裏´´!?」




巻(心の声) 「´´豚トコトン・裏´´。限定中の限定、全店で1日1食出たら終わりの裏の裏の裏メニューだぞ!?相撲の横綱が泣いて帰る程の量って都市伝説サイトに流れてるってのに、この眼帯女…」



雫の注文を聞くなり店長らしき人物と話をし始めた店員。



そして、店員が雫のもとに戻ってくると声を小さくして何かを呟いた。




巻は耳を澄ませる。




店員 「まだ本日1食も全店で出ておりません。ご用件致します」




巻(心の声) 「…あーる!?!?」




雫 「よい」




雫は左耳に付けたてるてる坊主のイヤリングに気を付けながらクリアマスクを外した。





オギギァア、ォギギアァ、ウゥギァアッ!!




巻・雫 「?」




その時、大きな泣き声が店外から聞こえ始めた。店内にいるお客様と店員は一瞬その声に耳を傾けるもすぐに元に戻った。




巻のラーメンのスープ面が泣き声で波紋を作る。



巻 「ここんとこつまらなかったんだが…俺の出番か、」



ガタッ



巻が箸を置き立ち上がろうとした。



ガッ



その時、雫が巻の肩を強く掴み座らせると傘を持ち立ち上がった。




雫 「シャドウは使えなくていいんだよ。飯は最後まで食べろ、」



自動ドアが開き雫は店外へ出た。





浅草イチョウ通りの広い歩行者専用通路の真ん中に大きな乳母車(うばぐるま)と全身包帯女だけがいた。




雫(心の声) 「…声はあのデカイ乳母車から、人気(ひとけ)が無い。いやあいつらが消したのか…」




雫は店から離れると徐々に乳母車と包帯女の方へ距離を縮める。その間の距離10メートル程はあった。



雫に気付いた包帯女が鼻で笑う。


式宗美人(しきむねびじん) 「フッ、あら可愛いお嬢ちゃんネ、」



その時大きな泣き声が急に止まる。



式宗 「…起きたの銀次(ぎんじ)さん。お嬢ちゃんが遊んでくれるって」



ヌクアッ



大きな乳母車から体を起こしたのはタンクトップに半ズボン姿の小太り男だった。



油井銀次(あぶらいぎんじ) 「ぁぁあ?、なんだぁあいつ?すぐ壊れちまいそうな体だなぁ」




雫は油井の姿を捉えた。




雫 「お前さん、よくその成りで赤ちゃんの泣き声みたいな寝言を吐けるな…人間のなかで一番浮いてるぞ」




式宗 「まぁ…」



油井は雫の言葉に血管をボコボコと額に浮き上がらせる。




ズダンッッ!!



油井は乳母車を激しく飛び出すと太い両足で地面に着地する。




油井 「バカがっ…なめぇやがって!」





雫は迅速にクリアマスクから黒いマスクに付け替える。更にマスクの上に隈取りの布を付けた。



雫(心の声) 「2匹相手か…」




油井は強く握った両手をコンクリート地面に打ち込む。



油井 「´´如意鋏(ガチンコ)´´!!」




しん…と静かな1秒が経った後。




ズバガギィイィイィイッッッ!!!



バイオレッドな蟹鋏が雫の足元から激しい音と共に突き出た。


雫は寸前に素早い跳躍力で高く飛び直撃をまぬかれた。



蟹鋏に砕かれたコンクリートの粒が勢い良く上空へ飛ぶ。



跳躍した雫は傷ひとつ負わず油井の攻撃を観察する。



雫(心の声) 「あの距離から僅か1秒で手元まで攻撃ができるとは…伸縮性のあるカニだ」



油井(心の声) 「俺の´´如意鋏´´を避けるなんて生意気な。でもなんで吹き飛ばした石ころがかすりもしねえ?…あいつの周りに何かあるみてぇによ」



その時、雫は目の前に隠した2本の傘の持ち手を掴んで着地した。

周りの景色に同化していた´´擬態傘(ぎたいさん)´´がもとのビニール傘の姿に戻った。




油井 「、?あれか、傘なんて消耗品、ガキにピッタリだ」




ズズズ…



雫は持っている2本の傘を影にしまい、その中から一閑張(いっかんば)りの傘を1本取り出した。




雫 「そう…見えるのか」




フンッ!



雫は傘を持つとその場から姿を消す。



油井は「ほぅ…」と呟き、突き出した´´如意鋏´´を地面の中へ引き込む。



バキバキッ



油井 「俺にはしっかりお前が見えてるぞ…フゥンッ!」



雫は俊足で油井に近付こうとしていた。


油井は地面に食い込む両腕に力を込める。

すると´´如意鋏´´が次々とコンクリート地面を突き破り雫を狙う。




それを左右に走り分けながら避ける雫。



雫の視線は油井一点に集中していた。




スッ、スッ、、スッ




スタッ!




雫は油井のいる4メートル手前の所で高く跳躍した。そして傘から引き抜いた3本の傘針を油井に放る。



シュッッ!



雫 「´´一傘流…´´」




カカカッ!



油井は顔面に放たれた傘針を左腕の如意鋏の爪で防ぐ。



油井 「クッ、来てみろ俺の鋏で真っ二つにしてやる」




雫 「´´傘燦々(かささんさん)´´」





雫は傘の柄を掴むと砲丸投げよろしく遠心力の高速回転を空中で繰り出すと油井の如意鋏にぶつかる。




ガリガリバキキキキキキキキッッッッ!!!!!




油井は両腕の如意鋏をクロスして完全防御で雫の傘燦々を受ける。




油井 「ぐぬぬぬぬ!!」




ピシッと油井の片腕に亀裂が走る。雫は回転を止めると続けて鉄傘(てっさん)を使い油井に連打を加える。



しなる鉄傘は激しく如意鋏にぶつかる。油井の各所を鉄傘で狙うも油井は寸前で防ぐ。時折雫は鉄傘の先を地面に突き立て体を逆立ちさせると開脚回転蹴りを食らわした。




防御一点にしびれを切らした油井は口を膨らまし雫を狙い大量の泡を吹き出した。




油井 「´´(シャボン)´´!」




近付きすぎた雫は鉄傘を開き油井の吐いた泡を防いだ。




ブクブクブクブクゥ


グシュグシュグシュシュウゥ…




だが、雫の鉄傘が泡の付いた部分から徐々に溶け始める。




油井 「危なかったなぁ…次はちゃんと当てないとなぁ」




口から垂れる泡を鋏で拭う油井。




雫 「気持ち悪い、よだれ掛けでもしてやろうか?」




油井は再び額に血管を浮き上がらせると顔を紅潮させる。



雫は口から挑発を発しながら油井が壊しに壊した浅草イチョウ通りを観察した。




割れたコンクリート、陥没した穴、飛び出した電線、火花を散らした電線の側には地面から液状化で現れた水。





雫 「レイン…あの電線」


呟く雫にレインが答える。



レイン 「あんな電力で足りる訳がないだろう、」


雫 「そうだな、そしたらこっちを使う。白傘(はくさん)をくれ」



そう言うと雫は鉄傘を影に落とし、新たに影から現れた白色の傘を取った。




雫の側の濡れる地面に白傘の先端を付着させた。すると地面から白傘へ水分が伝い傘全体に水分を纏った。




バゴオォオォオオッッ!!!



怒る油井が雫の足元から如意鋏で貫き狙った。雫は鋏を踏み台に天高く飛ぶ。


雫は白傘を閉じるフックを外す。



スルリ…



雫は2本重なり合う持ち手をそれぞれ左右の手で持つと勢い良くハサミを開く様にして開いた。




雫 「´´二傘流・(かすみ)´´」




バッ!!




白傘が一気に広がると同時に空気中に細かい粒となった水分が飛散した。








真っ白な世界が生まれる。









油井 「…目眩ましかっ、、無駄知恵の時間稼ぎに付き合わされよって、バカが!」





油井は白い霞みの世界から雫の気配を辿る。





ズブンッ!





油井 「………!?」






油井は胸に入る亀裂に目を疑う。




油井 「ぬぐっ…このタイミングで」





雫は油井の背後から鉄傘の先端を鋭く突き出し、油井の胸元を射抜いた。






だが雫は目の前にいる油井の姿が妙に(しな)びてだれている事に気が付く。





雫 「…おい、お前…」




パサァ…



地面にふらふらと落ちる皮ぺらが1枚。

すると徐々に霞みがはれて行く。





しわしわの油井の脱け殻がぺしゃんこに倒れている。

その奥に、つるんとしたボディで小柄の生物が立っていた。




雫 「融合」



油井 「´´脱皮(フォーマーズ)´´、、。お前、ウザいな。俺を呼び出させるなんて」




雫の視界には、さっきまでの油井の姿とはまるで違う、艶やかな薄肌色の体に包まれた小学5年生程の人型生物がいた。





シュンッ





雫 「ングッ!」


バゴオッッ!!!







脱皮した油井が雫の目の前に瞬時に移動すると、右足で雫の左脇にミドルキックを食らわす。




雫(心の声) 「…速い!」




雫は自分の体と油井の右足の間に鉄傘を挟んで防御したが威力凄まじく建物の方へ飛ばされる。





シュンッ!



油井は雫を蹴り飛ばした建物に先回りして待ち構える。雫は鉄傘を開き防御体勢に入った。




バッ!



鉄傘が開き傘に描かれた龍の文字と絵柄が姿を見せる。




シュトッ



その瞬間、油井の右拳と鉄傘の先端が合わさった。




ンバッンゴゴゴゴゴォオオッッッ!!!!




油井の右拳から放たれた威力で一瞬のうちに鉄傘はコウモリ傘となり雫は反対方向へ吹き飛ぶ。





雫 「融合の代償はデカイと言うのに。…速度は私よりあると認めよう。まぁ試運転には丁度良い頃合いか、」




吹き飛ぶ間、雫は眼帯を取り右目を開いた。黒い瞳が油井の姿を捉える。




油井 「これで最後だ」




ダシュゥウウッツ!!




油井が地面を踏み込み超低空飛行で雫の真下に来ると右腕を蟹鋏に変化させた。





油井(心の声) 「取った」



油井は地面を蹴り雫の首にするりと蟹鋏が入り込んだのを確認して確信を得た。




そのはずだった。




油井 「、!?」





油井が瞬きをした直後。状況が一変していた。




油井の突き出した蟹鋏の爪先を雫が逆立ちをした状態で両手で掴んでいた。





雫 「…遅いぞ」




ガッ



雫は徐々に両手で爪先を開いた。




油井 「や、めろ」




バ、ギィ、バキキィイィイッッツツ!!!!




雫は腕力だけで油井の蟹鋏を爪先から引き裂いた。そして地面に着地すると影から鉄傘を引き抜き居合い斬りで油井の両足の影を裂く。




スズバァアアッ!!!




油井 「ウ、ソ、だ…」




ズシャッ




油井は意識を失い地面へと倒れ落ちた。





雫は黒い眼帯を付け直し油井の影移しを完了させた。




雫 「で、あと1匹か…」




式宗 「やーだ~。人を虫みたいに数えないでよネ」



油井と雫の戦闘をベンチに座り眺めていた式宗が口を開く。




ギュリギュリギュリィイィイイイイ!!!




突然、浅草イチョウ通りに白バイが入り込んでくると雫の前で急停車した。




ヘルメットとサングラスを外す。




響 「お待たせっ!姉さん」




雫 「虫けらを取っておいた。準備運動にはいいだろう。私はアイツを探しに行く、終わったら連絡しろ」



響 「えー!やっと合流できたのにまたひとりぼっちー」



雫 「安心しろ、、メスの虫けらだ」



響の顔つきが変わる。


響 「やります。姉さんは先に行ってて下さい」





式宗 「アタシの事無視しないでよネ」




呟きながら式宗はベンチから立ち上がった。


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