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shadow  作者: 新垣新太
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ep2.ギャンブルストリート編・1話

6月も後半に入る頃。梅雨空は消え、珍しく青空が広がり、しっかりとした日射しが街を明るく照らしていた。池袋駅から徒歩5分の所にある、アパートの2階に住む船川美空(ふなかわみく)は、久しぶりの晴天など気にもせず、スマホを両手で持ちながら操作をしていた。


美空は、スマホ画面に表示された、ピンク色のハートの中に紫色の音符記号が散りばめられたアプリマークをタップした。そして、白いワイヤレスイヤホンを耳に付ける。


美空の部屋の中には、アニメのポスターやフィギュア、ステッカーにキーホルダーが所々に飾られていた。


美空 「ぉお。やっとこの日を迎えた、待ち望んでいたんだよこのアプリを」


美空がタップしたアプリが、ローディングを終え画面が切り替わり、音声がイヤホンから流れた。


AI(エーアイ音声) 「声の恋の世界へようこそ」

美空 「ドキッ!、キター」

イヤホンからは、AI音声とは思えない程の柔らかい男性の声が流れる。


AI(アイ) 「私は、皆様をこの世界へ案内する声の案内人、アイです。これから、声の恋の世界についてご説明します。どうぞごゆっくりお聴きください」

美空 「今のAI技術ってこんなに滑らかに喋るの?やーばー」


スマホ画面には、薄いピンク色の背景に白い文字がゆっくりと下から表示されてくる。その文字をAIが読み始めた。


AI 「声の恋とは、声優さんと声のやり取りだけで恋人になることを目指し、その後、恋人同士として歩んで行く声の恋愛物語です。声優さんは、名の知れた方から新人の方までが役者として参加しており、ユーザーの皆様は、お好みの声を選び、お友達として交流をはじめます。そして、皆様の恋を応援するイベントを、日時曜日ランダムにお知らせをする形となっております。選んだ声と交わした時間によって、物語の展開が変わって行きます。声優さんがオリジナルの台詞でお応えする事もありますが、基本的には音声AIが皆様の言語を理解し、それに適正な応えを声優さんが収録した五十音の声を紡いでお届けします。皆様が登録するプロフィール内容から、声優さんが会話してくれることもあるかもしれません。それは、始めてからのお楽しみに」


美空 「うんうん、なるほどね」

AI 「それでは、そろそろ貴方の声を聞かせてください。これから、私の質問に声で答えてください」


すると、スマホ画面に´´プロフィール登録をはじめる´´と緑色のボタンが真ん中に表示された。そのボタンを美空はタップする。


AI 「これから、幾つかの質問をします。時間にして約10分程です。では、よろしくお願い致します。ひとつめ、貴方のニックネームを教えて下さい」

美空 「、、ミク」

AI 「ミク様ですね、よろしければ次へボタンを、やり直す場合は戻るボタンを押して下さい」


美空は、その後もAIからの質問に答え、プロフィール登録を完了した。


美空 「ふぅーー。オワタ。、って、もうこんな時間!学校行かなきゃ!」


慌ててスマホの声の恋アプリを終了し、荷物をまとめて美空は家を出た。


・・・


美空は、声の恋アプリを始めてから1週間が過ぎ、ひとりで過ごす時間を、声の恋アプリに注いでいた。


美空は、部屋のテーブルの前にある丸いクッションに座り、右手にマニキュアを塗っていた。薄紫色と黄緑色が交互になるように指先にマニキュアを付ける。


美空 「よし、これで準備完了。今日は池袋デートよ、ミク」


スッと立ち上がり、鏡に向かって自分の姿を確認する。セミロングの髪の毛は、肩から先までの髪色が黒から金色に染まり、桃色のマスクと白いワンピースを装着した美空。ワイヤレスイヤホンを耳に付け、外に出る。スマホを片手に声の恋アプリを開く。画面には、今日の予定にデートの文字が現れ、その横にはデート相手の名前が表示されていた。


美空 「カケル君と、デート。、よし、スタート」


そう言って、美空は画面に表示されたデートボタンをタップした。すると、画面が水色に変わり、そこに、1時間デートと30分デートのピンク色のボタンが2つ表れた。美空は、1時間デートのボタンをタップした。


美空 「まずは、池袋の水族館を目指して会話を楽しむ」

ピコン、とワイヤレスイヤホンに音が鳴る。


カケル 「おはよう」

優しい風の様な、心地よい声が美空の耳に入ってきた。

美空 「あ、、おはよう」

カケル 「今日の水族館デート、楽しみにしてたよ」

美空 「うん、私も。緊張して全然寝れなかった」

美空とカケルの会話には、少しだけ間が空いていたが、美空は全く気にすることなくカケルとの会話を楽しんでいた。時折、すれ違う人が、大きな声で独り言を話していると勘違いをして美空の方を凝視した。


カケル 「今日のコーデ、ミクにピッタリだね、白いワンピースが似合ってるよ」

美空(心の声) 「すごい、プロフィールに今日のコーデ登録したら褒めてくれた」

美空 「本当に?、うん、ありがと」


美空は、住宅街を抜けて大きな道路沿いにある広い歩道に出た。この道を真っ直ぐに行くと、目的地の水族館に到着する。と美空は心をドキドキさせながら歩いていた。土曜日の池袋は人が多く、美空の歩く通りにも沢山の人が歩いていた。


すると、美空の歩く通りの側に建つ建物の屋上から、黒いスナイパーを構える男の姿があった。その男は屋上の(へり)に立て膝を付いてスナイパーを構えている。角刈りの頭に、迷彩柄のマスク、濃緑の繋ぎを着てスコープを覗く。そのスコープが捉えていたのは、美空と、そのすぐ後ろに歩いている眼鏡を掛けた男だった。


比留間(ひるま) 「ヒッヒッヒッ、可愛い娘だ。どうしてやろうかな~?」

比留間は、サラサラの長い髪を揺らしながら美空の真後ろをつける。美空は、比留間の存在に気付かず、カケルとの会話を楽しんでいた。


風春 「あ?、何だあのナメクジ」

池袋駅に到着していた風春が、美空の歩く前方から現れた。風春の目には、美空の身体を後ろから巻き付こうとする大きなナメクジの姿が映っていた。


風春 「シャドウだよな、、気持ち悪い。何でナメクジなんだよ」

そう言いながら、風春は早足で美空の近くに来ると大きな声を出した。


風春 「危ないっ!!」

美空 「きゃぁっ!」


風春の声に驚いた美空が、両手で頭を抱えてしゃがみ込んだ。すると、美空の後ろに立っていた比留間は、キョトンとした顔で風春と目線が合う。


風春 「お前かサラサラナメクジ男!、ナックル!!」


すると、風春の背後からナックルが現れ、強烈な右フックをナメクジに叩き込んだ。


ボクシッ!!!


比留間 「な、な、な、何なんだよお前~」

風春 「散れっ!!!」


風春とナックルにひよった比留間は、尻餅をつき、ワナワナと動き、風春と美空の側から走り去った。


風春 「大丈夫ですか?驚かせてすいません」

美空 「い、い、いや全然私は大丈夫です!、、すいません、ありがとうございます!」


と言って美空は、お礼だけ風春に伝えると、水族館のある方向へと走って行く。


風春 「池袋、こんな道端でシャドウが現れるなんて、ヤバくないか?」


屋上からスナイパーを構えた男がスコープから目を離した。


重盛亮(しげもりりょう) 「青髪のシャドウ、、、、雫が言っていた男か」

重盛は、着ている繋ぎの(ふところ)から赤りんごを1つ取り出し、シャクッと一噛(ひとかじ)りした。

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