ep0.ペンと鍵編・2話
一議員邸宅内一
客間の重厚なソファに座る白髪混じりの議員と、室内の絵画を歩きながらワインと共に嗜む蔵島がいた。
稲城参議院議員 「それで、要件とはなんだ?」
蔵島 「要件。と言いますか、先生の意見が聞きたいと言った方が正しいかと」
稲城 「…意見?」
蔵島 「元々記者をやっていた者ですから、既に先生の表向きの情報は簡単に入手出来ます。…これは僕の考えがどこまで通用するのかを自身に説いている様なものです」
稲城 「なんだはっきりとせんなっ、有益な情報を先によこせ」
蔵島 「まぁ、そう焦らないで…」
蔵島は稲城議員の前に対面するように置かれたソファの前に立つ。
そして肘を曲げた左腕を上に上げる。
左手の中指と親指をくっつけた状態で止まる。
蔵島 「´´影裏´´」
蔵島は指を鳴らした。
パチンッ
ズブアァ!
稲城 「…?」
その直後、蔵島を中心に半径3メートル圏内が暗闇に包まれる。
ヌア、ヌアヌアッ
すると暗闇の中から何本もの黒い手が伸びてくると、稲城議員の頭と胸の中に入り込む。
ズド、ズドドドドッ
稲城 「んなっ!、なな、なんだ!ンッ??」
蔵島は右手に持つ白い万年筆を軽く回転させて放り右手で掴んだ。
クルクルクルッ、パシッ!
万年筆を握る右手が空中に白い文字を描き始める。
スラスラスラスラスラッ
カチッ
文字を書き終えた蔵島は万年筆に蓋を被せる。
ズアァッ
空中に描かれた文字は蔵島の影の中へ吸い込まれて行く。それと同時に暗闇は晴れて客間は元の姿に戻る。
意識を取り戻す稲城議員。
稲城 「ゲホッ!、ゲッホッ!!」
蔵島 「稲城議員。あなたの所業、拝見させて頂きました」
稲城議員はマスクを外しソファの前にあるガラステーブルに手をつく。
稲城 「一体、なんなんだお前は?」
蔵島 「…最近はどの議員さんにも見受けられますね、オリンピック開催に関する贈賄実績。加えて万博開催の決定地売却権利の一部取得。これは珍しい、コロナで海外渡航規制がかかっているにも関わらず、特別外交と称して5ヵ国もの国へプライベート飛行機でご家族のみで出掛けられてる。他にも過去を遡れば不正献金の数々、読み上げるに足らぬ所業です」
稲城 「…揺すりか、何を根拠にそんな戯言が言える」
蔵島 「いいんです僕には関係ない事ですから。ただ今回知り得た情報は証拠がなくともネタとして貰ってくれるメディア各所に全て渡すつもりです」
稲城議員の額に嫌な汗がたれる。
稲城 「ん、んん。…金ならやる。いくらだ」
蔵島 「お金は要りません」
稲城 「だったらもう帰ってくれ!こっちも忙しいんだ!」
蔵島 「…その感情が欲しかったもので。では失礼します」
蔵島は客間を後にした。
夜道をひとり歩く蔵島。
稲城 「俺だ。今さっきウチを出た男を始末しろ。…いいか、ちゃんと始末するんだぞ」
稲城議員はそう伝えるとスマホを切った。
タッタッタッタッ
暗い道に蔵島の足音だけが鳴る。
高層マンション屋上の縁から、スナイパーを構える黒ずくめの男がひとりいた。片方の耳にはワイヤレスイヤホンを付け、誰かと通話を終えるとイヤホンをタップした。
カッ、チャッ
スコープに映るのは夜道を歩く蔵島だった。ゆっくりと照準を合わせながら男はトリガーに指を乗せた。
ガスンッ!
静かな弾丸がスナイパーから放たれる。
黙々と歩いていた蔵島は、
顔面に飛んで来る弾丸にさも嬉しげに気付くと、
手に握った万年筆の尖った先を弾丸に突き刺した。
ピィイヤァアンン!
蔵島 「…フンッ!」
続けて蔵島は万年筆を高層マンション屋上へ向けて振り投げた。突き刺した弾丸はふたつに割れて地面へ転がった。
シュブブンッ!!、バギンッ!!
空を突き刺す速度で投げられた万年筆は、屋上でスコープを覗くスナイパーの筒の中を貫通した。
フッ!
夜空を飛んだ万年筆は塵となって消える。
・・・
一その頃。八王子駅コンコースでは一
パキッ、ハキ、ブチッ
八王子警察署刑事第一課第十班の班長・佐田は干しスルメイカを噛みながら班を引き連れ歩いていた。
第十班・能口 「佐田さん、今回の事件は全て郊外で発生しています。何故駅前から捜査を?」
41歳の能口は歩く佐田の隣に並んで話す。
佐田 「今日は聞き込み。…駅員、バスとタクシーの運転手、宅配便のあんちゃん、聞きまくれ、もしかしたら今日一日で犯人の糸口が掴めるかもしれんぞ~…」
スルメイカを噛みながら鋭い視線で周囲に目を光らせる佐田。
能口 「なるほど、では各々まずは分散し、2時間後に再集合にしますか?」
ピッ!
と手に持った新しいスルメイカを指揮棒に使い佐田は班員に出動を命じた。




