ep9.記憶の森編・4話
風春は鈴見に渡された苺のホットティーを口にすると、味を思い出せずもう一度飲んだ。
風春 「ああー、うまい。かなぁ」
通路中央に座る女性 「キャアァアァア!!」
突然女性が発狂すると乗客は声の方へ注目した。場所は先程鈴見が台車を止めていた通路中央、声を上げた女性は座席に座ったまますぐ隣の席を向いていた。
その女性の左隣に座る男性の様子がおかしくなって行く。黒目は上を見続け、身体を小刻みに動かし、口から粘質性のよだれが垂れる。次第に男性の肌は乾燥し浅黒く変化していた。
女性は泣きながら変わり行く男性を抱きしめる。
女性 「たっくん!、うぅうぅ、私の彼氏なんです。だれか、だれか、」
ズダダッ!!
その女性の座るすぐ側に風春と巻が到着した。ふたりの鋭い目付きが事の異様さを瞬時に理解していた。
風春 「すいません!この男性のお名前は?」
風春の質問に喉を上下にヒクつかせながら女性は答える。
女性 「う、う、太一で、す」
巻 「おい太一!しっかりしろ!」
風春 「太一さん!聞こえますか?」
ふたりの問いかけに男性が答える様子はなかった。風春は右手で男性が息をしていない事を確認した。
そして、男性の首に手を当てて脈を確かめる。ぴくりとも動かなかった。男性は冷たくなり始めていた。
巻 「女!、太一が様子をおかしくする前、何かしてなかったのか?」
女性は彼氏である男性が死んだ事をまだ理解していなかった。
女性 「そう、いえば、お菓子のマシュマロを食べ、て、その後急に様子が変に」
その女性の台詞を聞いた風春の脳裏に、拓磨から受けた忠告を思い出す。
拓磨 「お菓子は絶対に食べるな」
その時、最後方の席に座る柳生の口から息が漏れた。
柳生 「アハッ、ウフフフフッ!」
その表情は優しい笑みと殺意の笑みが混じっていた。
風春は視界には映らない柳生の方を向いて憤る。
風春 「アイツ、何入れやがった」
バックヤードの影から鈴見が柳生の様子を伺っていた。
鈴見 「どうやって懲らしめて欲しい?」
・・・・
一現実の機内では一
風春、巻、鈴見、柳生を含む数名の乗客が眠りに落ちる頃。拓磨は現実世界で監視を行っていた。
拓磨(心の声) 「…無事に潜り込めたようだね。ようやく出会えた、柳生実。外科医にして猟奇的な男。手術をする患者の肉を食らいながらオペをする異常なカニバリズムを持つ。柳生のいた医療チームは手術中の出来事を一切口外しない契約を結ばされていた。そんな柳生の一番の欠点は自分の事を簡単に喋ってしまう所だ。俺はこの3ヶ月間、沖縄九州方面へと向かう飛行機の乗客がひとりふたりと行方不明者を生んでいる事件の犯人を追っていた。何十件と連続して起きる異質さとシャドウの強い反応が見え隠れしていると言うSBTの報告から、陽炎の中の十色であり危険人物の柳生にターゲットを絞った。空港の一部関係者、SBTの鈴ちゃん、我々人影の最小限の人数に留めての捜索により柳生の発見と誘導に成功した」
拓磨は通路を挟んで左側の席で眠る柳生の横顔を見つめる。
拓磨(心の声) 「入眠後すぐに人間はノンレム睡眠に入り、さらに3段階ある眠りの中で最も一番深い眠りに落ちる。だが、柳生レベルの人間は、せいぜい落ちてもノンレム睡眠の中間程の深さまでしか眠らないだろう」




