ep8.偽造編・8話
風春は見失った巻の捜索に当たるべく水道橋駅に着くといそうな場所を考えていた。何の気なしに自分の手が顔に触れた時、影移しで指に付いた黒い粉が鼻に吸い込まれた。
風春の鼻腔にチョコレートの香りが刺激を与えた。
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一稲荷享士朗・30歳の頃一
俺の作ったリボルバー銃を警察官が手に持って怪訝そうに見ている。
仕事の傍ら趣味で銃を作るのにハマっていた。その銃の持ち手は黒く他は銀色に塗装していた。使用感を出す為に銀色の部分をわざと褪せた色に見せるのも忘れない。銃の重さにもこだわった。本物の型番と重さを合わせてグラムを調整した。この銃は手塩にかけた子どもだ。
仕事帰り、夜中になってしまい急いで帰ろうとした所、自転車を押す警察官に職質を受けた。
警察官 「これ、本物じゃないよね?どうして持ってるの?」
稲荷 「趣味で作ってるんです。お菓子なんですよこう見えても」
俺はとにかく早く帰って製作の続きに取り掛かりたかった。他の作品のスケジュールも立ててある。それに赤の他人にベタベタと作品を触らせたくなかった。俺の目は口よりも正直に睨みを効かせていた。
それが気に食わなかったのか、その警察官は事情を詳しく聞こうとはせず、肩に着けた無線でごちゃごちゃと誰かと話を始めた。
なんだこいつは。
すると、次にかばんの中身を見せろと言ってきた。
無意識に溜め息が出る。
相手をイラつかせるつもりはなかったが、
仕事終わりもあって余裕がなかった俺はさっさと終わらせるために自ら中身を地面に出してやった。
ガサバラガチャッ
警察官が何かに気づいたらしい。
失念していた。
銀の光沢をした鋭い刃物がコンクリートの上に転がっていた。
警察官 「これは、ナイフだよね?」
違う。それも俺の作品のひとつだ。と言った所で信じないだろうし、余計話がややこしくなりそうだと思い。俺は無言のまま警察官を見ていた。
警察官 「とりあえずここじゃ話せないだろうから、詳しくは警察署に行ってからにしようか」
溜め息しか出ない。
警察官の質問は6時間にも及んだ。同じ質問の繰り返し。俺は同じ答えの繰り返し。
銃とナイフ。俺の作品の中でも完成度の高いモノに警察官が偽物だと判断もつかないほど出来映えが良かったんだと前向きに捉えた。
調べればわかる。
それは全部お菓子で出来ている。
だが、話は予想もしない終わり方だった。
俺の銃とナイフを警察が調べた結果、お菓子であるとわかったのだろう。俺には警察からのちゃんとした説明はされず。ただよく分からない文言を立てて5万円の罰金を支払えと言われた。
訳がわからない。
人がお菓子を持ち歩いているだけで、なぜ5万円を支払わなければならないのか。
後にネットで調べて分かったが、警察官と言うのはメンツを壊されるのが一番嫌な職業らしい。
だから、今回俺を職質して銃刀法違反で逮捕できると踏んだ所、拍子抜けする結果を突き付けられ、このまま長時間拘束した無実の人間を帰す訳にはいかなかったわけだ。
メンツを守るために。
ただそれだけの理由で。
驚きだ。
子どもの頃、友達がくれた小さな袋の中に入っていたのは間違いなく石ころだった。
俺は石じゃんと返そうとしたが、友達はそれはチョコだよと言ったのだ。そんなバカなと袋を開けてその石ころを近くで見たが明らかに石にしか見えなかった。匂いはしない。恐る恐る口にいれて噛んでみた。甘い、チョコレートの香りが鼻から抜けた。俺は驚いた。こんなにも石ころに似せたお菓子があるのかと。
つまりは見せかけ。
警察官も同じだと思った。石の様な硬い正義を貫いている職業だと国民に認知させれば後はどうやったって良いと言う事なんだと。
俺は学んだ。
それから、街のあちこちで屋台を出すようになった。俺の作品を射的台にずらりと並べた。全て偽物。お菓子で出来た模造品だ。それをSNSで誰かが´´フェイクチョコアーティスト´´と名付けて俺の作品の写真を拡散し始めた。客として来た一部の人間が模造品であることを見抜いたのだ。
射的本来の目的とは違う景品の提供は、周りから反感をもらうどころか称賛の嵐だった。
気分が良い。もっと騙してやろうと腕がなった。
だが金にはならなかった。
射的一回の値段を上げると客足は遠退いた。
すると不思議に腹が立った。
結局人は暇潰しをしたいだけで俺の作品に心から興味を持っている訳ではない。
金がないと金を恨む。
そして、この金さえも偽造出来ないかと考えるようになったのは俺が35歳頃の事だ。
その日、射的屋を駅前広場で営業していながら、俺は会計箱の硬貨と紙幣をじっと見つめていた。
鷹取京 「ふーん♪」
稲荷 「!?あ!」
鷹取 「…驚かせちゃった?」
気付かなかった。俺のすぐ近くに立っているのに。思わず声が出てしまった。
白いスーツに青緑色の髪の毛をした背の高い男の客だった。
鷹取 「この景品ぜーんぶチョコレートなんだ♪面白い♪」
稲荷 「…」
なぜ知っている。
俺の目の前にいる客は、今までに来た客とはまるで別格の人間だった。
まず目視だけでなぜ景品がチョコレートで出来ていると見抜いたのか。ぐうの音も出ないとはこの事かと思った。
鷹取 「でもさっきから見てるお金はチョコレートに変えられてないみたいだね♪」
稲荷 「…え」
もはや、この客の前で嘘を付くことは不可避だった。
鷹取 「それが出来る裏技、うん。とっておきのまじないがあるんだけど♪知りたくないかな?」
なんだこの独特な感じは。
この客は俺に聞く以外の選択肢などないよね、と言っている様な空気をひしひしと肌に感じた。
稲荷 「…し、しり。教えて、下さい…」
その客は俺に向かって目を細くして笑ってみせた。
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一現在・水道橋駅前一
水道橋駅前に立つ風春は、稲荷との一件でどっと疲れが身体に出てきたせいで気力を失いかけていた。
タッ、タッ、タッ、タッ
そんな風春の前に近付く姿があった。
巻 「おぉ、、ハル、遅くなった」
風春 「…巻さん!、もう何やってたんですか~、もうこっちは色々あって探すの諦めかけてましたよ!」
風春の問いに巻はうやむやな返事をして誤魔化した。
巻 「ん、あ~。こっちは大丈夫、大丈夫だった」
風春 「まあ、無事に合流出来たんでよかったですよ。もうホテル行きましょ、疲れました。スマホ」
そう言いながらポケットからスマホを出した風春の手から何かが落ちた。
それは人影に入ったときに貰った銀色のカードだった。風春はそれを拾うためにしゃがんだ。
風春 「…ん、あれ?」
巻 「、どしたー?」
風春が拾った銀色のカードの表面に文字が表記されていた。元は銀色のコーティングのみで文字など印字されていなかったはずだと風春は思っていた。
そこには´´応援要請。城戸風春は羽田空港へ向かうこと´´と黒字で記されていた。
風春 「ここで指令も出せるの?、次、羽田ですって」
巻 「あー、明日だな」
風春 「はい…とにかく早く布団に入りたいっす」
風春と巻は身体を休める為、駅近くのホテルを目指し歩みを進めた。




